ナゴルノカラバフ 懸念される人道状況(油井’s VIEW)

NHK
2023年9月22日 午後5:42 公開

アゼルバイジャン軍が、隣国アルメニアとの係争地、ナゴルノカラバフで開始した軍事行動で、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は「対テロ作戦が成功に終わり、主権が回復された」と勝利を宣言しました。

19日、アゼルバイジャン軍が「対テロ作戦」だとして始めた軍事行動では、少なくとも200人が死亡し、400人以上がけがをしたと報告されています。

アルメニア側は20日、ナゴルノカラバフでの完全な武装解除などを受け入れて停戦に合意し、事実上、敗北したかたちとなりました。

一方、アルメニアの首都エレバンでは、政府や後ろ盾のロシアに対する大規模な抗議デモが発生。今後、この地域でのロシアの影響力の低下は避けられないとみられています。

(「国際報道2023」で9月22日に放送した内容です)


懸念されるのは、少なくとも200人死亡という犠牲者の情報に加えて現地の人道状況です。

ナゴルノカラバフにはアルメニア系住民がおよそ12万人いると見られていて、これまではアルメニアとナゴルノカラバフを結ぶラチン回廊を通って食料などの物資が輸送されてきました。

しかし、この数か月間、アゼルバイジャンがこの物資の輸送に軍事物資が紛れ込んでいると主張し、この回廊を事実上封鎖し、アルメニア系住民の人道状況が心配されてきたのです。

現地の状況についてICRC=赤十字国際委員会はNHKの取材に対して「水や電気のアクセスが絶たれ、食料や医薬品もほば枯渇している。住民は自宅から公共の避難所に避難せざるをえないほか、病院は多数の負傷者の受け入れに苦しんでいる」、こう明らかにし、人道状況のさらなる悪化に懸念を表明しました。

ICRCは、「今回の停戦合意を歓迎する」としてラチン回廊の封鎖が解除され、人道物資の輸送の増加に期待を示しています。

一方、アゼルバイジャンの強硬な姿勢。その背景に、軍事力の変化を指摘する見方も出ています。

こちらは、アゼルバイジャンとアルメニアの国防費の変化です。

1995年の頃は、ほぼ一緒でしたが、アゼルバイジャンは、石油などのエネルギー産業の収入が大幅に増加したのに伴い、国防費も大幅に増え両国の差が広がったとされています。

強硬な姿勢が目立つアゼルバイジャンですが、ナゴルノカラバフに暮らすアルメニア系住民の生活が守られるのかどうか、まずは食料や医薬品も足りない悪化した人道状況が改善されるかどうかです。
 


油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。

(この動画は2分4秒あります)