
中国経済 番組が入手したデータを公開
この「調査報道・新世紀」シリーズでは、独自取材で得た公共的価値が高いと考えられるデータを、ネット上でも公開していきます。
第1回「中国“経済失速”の真実」では、普段のニュースなどからはなかなか見えてこない中国経済の実態に迫りました。公式統計だけではなくオープンソースの情報を徹底的に収集し、SNSや衛星画像などさまざまなデータと組み合わせることで独自に分析。さらに国内外の研究者とも連携し、中国経済の「裏の姿」に迫りました。
以下、この番組で入手したデータの一部です。
中国の統計データ 相次ぐ更新停止
今回の取材で、中国政府が発表している経済統計の一部でデータが更新されず、最新の状況が把握できなくなっているケースが複数見つかりました。
若者の失業率
中国・国家統計局によると、16歳から24歳の若者の失業率(都市部)は、ことし6月に21.3%を記録しました。これは公表が始まった2018年以降で、最悪の数値です。しかしその翌月の7月分から、データの公表が取りやめとなっています。
可処分所得
可処分所得のデータについては、最も高い上位10%の平均収入と、最も低い下位10%の平均収入のデータが、中国の格差を示すデータとして、1985年から発表されてきました。しかし、2012年までで更新が止まっています。
更新が止まっているデータはどれだけあるのか?
私たちは国内外の中国経済の専門家が利用しているCEICというデータプラットフォームを使って、分析を試みました。このデータベースには中国政府・地方政府の統計局が発表する公式データが収録されており、約82万のデータが入手できます。
その中から国家統計局が発表している年次データ・約12万のうち、「更新が5年以上続いていたもの」を対象にカウントしました。2008年に最多を記録(84178件)したものの、その後は年々減少を続け、2021年には44765件となっています。
(データは2023年10月18日時点)
中国全土で相次ぐ賃金未払い SNS分析から
いま中国全土で、賃金の未払いを訴える労働者のデモが相次いでいます。中国のSNSではデモの様子を撮影した動画が投稿されていますが、すぐに削除されてしまい、その実態がなかなかつかむことができません。
その中にあって、労働NGO「中国労工通訊(China Labour Bulletin)」は、AIによって自動的に動画を検出・記録しており、削除される前に収集することに成功しています。
このNGOが収集した中国のデモ動画は、下記のサイトで詳細を検索・閲覧できます。
https://maps.clb.org.hk/?i18n_language=en_US&map=1 (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
地方政府の“隠れ債務”を追跡
中国の地方政府が発表した2022年末時点での債務残高を足し合わせると、合計で35兆元、日本円にして700兆円あまりとなっています。合計額についてはIMF(国際通貨基金)も試算しており、下記のサイトで参照できます。
地方融資平台“隠れ債務”の規模は
中国・地方政府の債務には、公式発表には含まれない「隠れ債務」が存在します。地方政府は、傘下にある「地方融資平台」とよばれる政府系投資会社を使って公共インフラの開発を行い、銀行や投資家から資金を集めています。このとき「地方政府が実質的に返済を保証している」と見なされているため、地方政府の「隠れ債務」とも呼ばれているのです。
今回番組では、中国の調査会社「WIND」のデータベースを使って「地方融資平台」の債務を分析しました。このデータベースは世界中の中国経済の研究者が利用しています。今年6月時点でダウンロードしたデータをもとに、2022年末時点の債務残高を足し合わせて算出すると、その額は56兆元、日本円で1100兆円あまりとなりました。地方政府が公式に発表している700兆円の債務と合わせ、実に1800兆円にものぼる巨額な債務の存在が明らかになりました。
これに中央政府の債務26兆元(日本円で500兆円あまり)を足すと、GDP比で100%となり、一般的に財政が健全とされるライン60%を大きく超えることになります。
※これは2022年末時点の数値であり、IMFのデータでも同様に示されています(下記サイトを参照)
地方政府の財政悪化 その実態は
私たちは中国の民間企業のデータベース「WIND」をもとに、各地方政府の債務比率を調査しました。債務比率のデータは、地方財政がどれだけ悪化しているのかを見る指標として使われています。
【債務比率=(地方政府の公式債務+隠れ債務)/地方政府の収入合計】
以下、31の省・直轄市・自治区の債務比率をワースト順に並べました。
天津 1089%
重慶 760%
湖南省 673%
貴州省 667%
江西省 664%
湖北省 649%
黒龍江省 586%
新疆ウイグル自治区 567%
河南省 539%
陝西省 506%
安徽省 489%
チベット自治区 468%
浙江省 418%
四川省 410%
江蘇省 409%
甘粛省 404%
河北省 382%
福建省 347%
内蒙古自治区 332%
広西チワン族自治区 307%
山東省 282%
雲南省 259%
吉林省 220%
北京 204%
寧夏回族自治区 185%
遼寧省 185%
青海省 171%
広東省 156%
海南省 145%
上海 139%
山西省 126%
(データは2022年末時点で、2023年6月にダウンロードした統計をもとに計算)
GDPと実態の乖離 衛星画像で明らかに
近年、衛星画像を使って夜間の照明の強さを分析し、それを元にGDPを推計する手法が注目されています。世界銀行を初め、世界中の経済学者から「経済規模をはかる新たな指標」として関心が集まっています。
シカゴ大学のルイス・マルティネス教授は、政府発表の値と、衛星画像からの推計値を比較する分析を行いました。それによると、日本やアメリカなど民主主義国家では政府発表と推計値にほとんど差が見られなかった一方、“強権主義的な国家”ではその差が大きいという結果を導き出しています。最も差が大きかった国のひとつが中国で、平均して年3%程度の差が見られました。
これに関するマルティネス教授の論文は、下記のサイトから参照できます。
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3093296 (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます