The Crossroad 佐藤浩市さん

NHK
2023年9月6日 午前11:26 公開

大河ドラマ『どうする家康』に
8月27日から登場した佐藤浩市さん。
戦国時代、信濃の小国ながら
家康率いる徳川軍を苦しめ続けた
武将・真田昌幸を演じています。
俳優・佐藤浩市さんの人生の分岐点とは!?
聞き手は池間昌人アナウンサーです。

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■先日公開された主演映画『春に散る』では
夢に破れた元ボクサー役を演じた佐藤さん。
横浜流星さん演じる若者を指導し
共に世界チャンピオンを目指します。

池間:「横浜流星さんとのミット打ちでは
力強いパンチを受けているシーンも
ありましたけれども。」

佐藤:「ミット打ちはキツいですね。
やはりあれは打っている側を
気持ちよくさせるものだから。
事前に流星くんが行っているジムで
お互いにやりながら
アイコンタクトでミット打ちの
関係ができるようになったし
それはおもしろかった。」

■佐藤さんは19歳の時
NHKドラマ『続・続 事件(1980)』で
主演デビュー。
その後も多くの作品に出演し
高く評価されてきました。
しかし、30代に入ると
自分の演技に悩みを抱き始めます。

佐:「当然のごとく
(台本に)そう書いてあるから、
『そうしてくれよ』と監督やプロデューサーに
言われればそうせざるを得ない。
わかりやすいけど
『でも何か違うよな…』と思いながら
やっていたかもしれない。
でも、それが仕事だから。」

■不平不満を暴力で晴らす反抗的な若者など
“わかりやすい役柄”を演じることに
疑問を持つようになりました。
そんなとき、
佐藤さんに人生の分岐点が訪れます。

佐:「阪本順治という監督と出会って
『トカレフ』という映画に出演した。
その32歳の時が役者としての分岐、
いちばんはそこだったのかな
という気がしますけどね。」

■1994年に公開された映画『トカレフ』。
佐藤さんは、誘拐殺人を犯す
人物を演じました。
一時撮影が延期となったこの作品。
それによってできた時間があったことで
佐藤さんは役柄に向き合うことが
できたと言います。

佐:「もう1回(撮影を)やるというときに
阪本さんたちと話をした。
最初の脚本だと役柄の中で
精神的に病んでいて
だから、そういう罪を犯す
という風になっている。
でもそれがそうではないのかなと。」

■“薬物中毒者が誘拐殺人を犯す”
という設定ではなく、
真面目に暮らすサラリーマンが
内面に抱えた殺意を抑えきれず
犯罪者に変貌していく、
という役柄の変更を申し出たのです。

佐:「案外どこにでもいる人が
こういう部分を持っている怖さ。
普通に日常は送れているけれど
ちょっとしたときにかいま見える怖さ。
それがちょっと尋常ではない、
というスタイルじゃないのかなと。
今から30年前なんですよ。
今でこそ当たり前かもしれない、
そういう人が。
でもそれが僕らの中では非常にうまくいった。
えも言えぬ人の怖さというかたちのなかで
成立したんじゃないのかなと。」

■監督の指示通りに演じるのではなく
自分の意見を伝え、
話し合いながら役作りをするべきだと
佐藤さんは考えたのです。

佐:「監督のやり方を
そのまま額面通りに受け取って
自分の中で間違いを犯していたことが
いっぱいあったし、
勘違いしてしまったことによって
ずいぶん遠回りをした自分もいたので。
もっとフリーに『どう思う?』
『こういうかたちではなく
こういうのもあると思います。』
とやらせてくれる現場があれば
その中で自分の何かが
いい意味ではじけるかもしれないし。
そこに出会えるかどうか
それによって
いかようにも自分は変わる
ということだと思いますけどね。」

池:「周りの反応はどうでしたか?」

佐:「阪本さんが引き出してくれたことによって
(オファーの)幅が広くなりましたよね。
今まで“わかりやすい役”が多かったのが
そうじゃない役もオファーが来るようになった。
『複雑な役なんですけれど』と。
そういう役も来るようになったことは
ありがたかったですね。」

■その後も、第一線で活躍を続け、
出演した映画は優に100本を超えています。

池:「新しい事に挑戦したい、
役者として進化したいという思いは
ありますか?」

佐:「そう思わなきゃいけないんだよね。
そう思わないとくたばっちゃうんだよ、人間。
けどなかなかね。
最近そう思おうと思っています。」

池:「薄れかけているということですね?
なぜでしょうか?」

佐:「ちょっと疲れちゃったなあ。(笑)」

佐:「でも常に思っていることは
変わらないんだけれど、人を裏切りたい。」

池:「裏切りたい?」

佐:「見る側を裏切りたい。
『この役のこの人がこうなるとは思わなかった』
『こうすると思わなかった』
という裏切り方をね。
結局、生きる気力。
それは『生きたい』『何かしたい』と思うこと。
これを失った瞬間
人間というものは老けていくから。」