The Crossroad 貫地谷しほりさん

NHK
2023年7月5日 午後5:56 公開

俳優・貫地谷しほりさん。
今週公開される映画『オレンジ・ランプ』。
39歳でアルツハイマー型認知症になった男性の
妻役を熱演しています。
デビューして21年。
貫地谷さんの人生の分岐点とは?
聞き手は佐藤俊吉アナウンサーです。

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■実話を元に作られた
映画『オレンジ・ランプ』は、
若年性認知症の夫と
その家族の新しい生き方を描いています。

貫地谷:「やはり不安ですよね。
認知症と診断されてしまって。
私だったら本当に心配で
『いってらっしゃい』と笑顔で送り出すことは
なかなかできないと思うのですけれど
私が演じる妻はそれをするんですね。」

■認知症になった夫を
サポートするだけではなく、
夫の自主性を尊重し、
行動を促そうという考え方です。

貫:「私の役も劇中で何でも自分が
頑張ってやっていかなきゃいけないと
奮起するんですけれども
やはり認知症になった本人も
“自分でできることは自分でやりたい”
という思いもある。
これが新しい認知症との向き合い方なのだなと
感じました。」

■そんな貫地谷さんの人生の分岐点は?

貫:「朝ドラ『ちりとてちん』に出演したことが
私の人生の分岐点です。」

佐藤:「もう16年前になりますけれども。」

貫:「そんな前ですか!」

佐:「元気もらっていました。」

貫:「ありがとうございます。」

■2007年放送の朝ドラ『ちりとてちん』。
貫地谷さんは、落語に魅せられ修行を重ね、
成長していくヒロイン・喜代美役を
演じました。

貫:「街を歩いていると
『喜代美ちゃん』と声を掛けられたりする体験も
初めてでしたし。
それから
オファーをいただけるようにもなったし。
いろいろな意味で
私にとってすごく分岐点だった作品です。」

■中学生の時から俳優の養成所に通い、
満を持して朝ドラのオーディションを受けた
貫地谷さん。
2度続けて
最終審査に進むこともできませんでした。

佐:「オーディションを受けて
落ちるとつらいものですか?」

貫:「オーディションを受け始めた頃は
人格否定されているような気持ちになりました。
『お前がダメだ』と言われているような。
当時はショックでしたね。
自信喪失をしていたわけではないんですけれど
自分に何かできるなと思ったことがなくて。」

■大学で学びながら、話題の映画に出演し、
その演技が注目されますが、
俳優としての未来を描けずにいました。

貫:「やはり将来が不安なので
大学に行ったんですけれど。
女優を続けていけるか保障もないですし。
絶対やりたいなんて思えなかったです。
おこがましい。
私なんぞがみたいな。」

■なかなか俳優に専念できない貫地谷さん。
その時、尊敬する舞台関係者から
人生を左右する指摘を受けました。

貫:「ある演出家の方に
『お前将来どうなりたいんだ?』
と言われて
『その時やりたいと思うことを
やれてたらいいなと思います』
とちょっとカッコつけて
斜に構えて言ったんですよ。
本当は『女優をやりたい』と
言いたかったけれど恥ずかしくて。
そしたら
『俺は将来 女優をやりたいと
思っていないヤツと仕事してるのか』
と言われて。
そうだなと。
それで両親に
『大学を辞めたい』
『私は女優の道に進みたい』
と言ったら
そうやって覚悟を持っているならと
両親も後押ししてくれて。
辞めて、
その半年後に朝ドラが決まりました。」

■21歳の時、
3度目の朝ドラ・オーディションへの挑戦で
念願のヒロイン役を掴みました。
このドラマのヒロインは、
何事に対してもネガティブな性格。

佐:「当時珍しいですよね、
そういうヒロイン像って。」

貫:「初朝ドラ後ろ向きヒロイン
みたいな感じでしたね。」

佐:「シンクロしていた部分はありますか?」

貫:「あります。
だから絶対やりたかったです。」

■自分と同じ内向きな性格と重ね合わせ、
役柄と共に前向きに成長し、
見事大役を演じ切りました。
大学を辞めて朝ドラに挑戦するという決断が、
“俳優・貫地谷しほり”を形作ったのです。

貫:「やはり
覚悟ってあるのかなと思います。
それは別にみんな退路を断て
ということではなくて、
自分には“これがあるんだ”と
変換されていったと思うし。
やはり自信が出てくるんですよね。
そういう前向きなパワーというか
私の意識の中で
何かが確実に変わったんだろうなと思います。
本当に朝ドラのおかげで
いろいろな役をいただける機会にも
恵まれましたし、
『ちりとてちん』に出演していなかったら
こんなにたくさんの役に
出会えてないだろうなと思います。」