ドラマや映画で独特の存在感を放つ
伊武雅刀さん。
今週から始まった
夜ドラ「褒めるひと 褒められるひと」
に出演しています。
伊武さんの人生の分岐点とは…?
聞き手は廣瀬智美アナウンサーです。
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■物語は、「褒められたい」と願う主人公が働く
おもちゃ会社を舞台に繰り広げられます。
伊武さんは、
そのおもちゃ会社の社長を演じています。
廣瀬:「フランス語混じりだったり、
お衣装も明るかったり、
すごくコミカルな役柄というのは
どうなのですか?」
伊武:「コミカルというか、
軽いほのぼのとした雰囲気が出ればいいな
という風に思っているのですけれど、
どうしても顔が怖いもんですからね。」
■伊武さんは17歳のとき、
NHKのドラマ「高校生時代」で俳優デビュー。
その後、
声優やラジオのDJとして活躍しますが、
ある不安を抱えていました。
伊:「『宇宙戦艦ヤマト』のデスラー役とか、
あとラジオですね。
『スネークマンショー』というラジオで、
声の仕事が、グワーッと増えていって
生活は安定しだしたけれど、
まだ役者として、自分の中で、
自信がそんなになかったし…。」
■悩みながら俳優を続ける中、
38歳のとき、人生の分岐点が訪れます。
伊:「『太陽の帝国』という
スティーブン・スピルバーグ監督のね、
映画の撮影があって、
その濃密な40日間というのが、
相当俺の人生にとっては
いろいろなことがあって、
ふっと思い出すんですね、今でも。」
■1988年に公開された映画「太陽の帝国」。
クリスチャン・ベール演じる
イギリス人の少年が太平洋戦争で両親とはぐれ、
日本軍の捕虜収容所で生きる姿を描いています。
伊武さんは、
収容所を管轄するナガタ軍曹を演じました。
伊:「俺はスピルバーグ監督は
『激突!』から『ジョーズ』から、
結構好きな監督だったんですよ。
それで『E.T.』の映画を観て、
こういう映画を撮る監督と仕事ができる
ということで、
オーディションの時に会ったら、
温厚な感じでね。
俺なんかもう、その映画に出たいというより
会えただけでうれしくて。
しかもオーディションを受けた役より、
もっと位が上というか、
出番が多い役というんで。」
廣:「元々あの役ではなかったんですね。」
伊:「うん。
最初はちょこっと出る程度だった。」
■思ってもみなかった
大役に抜擢された伊武さん。
期待とプレッシャーを胸に、
撮影を行うスペインへ乗り込みます。
間近でみたスピルバーグ監督の映画への情熱に、
衝撃を受けました。
伊:「プロデューサーが
『スティーブン、
きょうはもうおしまいにしよう』と言っても、
『もうワンカット!』とかね。
もうそうしないと、永久に撮っている人。
撮り終わったら即、
自分が借りている家に行って
編集している人だから。
夜中までウワーっと。
だから、映画好きですよ、とにかく映画好き。」
■憧れの監督との撮影は、
伊武さんにとって驚きの連続でした。
伊:「想像を絶するようなことが
いっぱいありましたよ。
フッと顔見たら
『お、ナガタ。いいシーン思い浮かんだ』
とかね。
イマジネーションがすごく豊かな人だから。
スピルバーグが来て、
『このシーンはナガタがこうで…』
ベラベラベラって喋っているのね。
『過去はこういうことが起きて…』
ワーって。
もう途中なのに向こう行っちゃう
『OK rolling(カメラを回して)』
と言って走って向こう行っちゃう。
『え、何言っていたの?』みたいな。
だけど『Rolling!(カメラを回して)』
と言って、もう回りだすわけだから、
『いいやもう!』みたいな、
そういう日々だったんですよ。」
■次々に変わる演出に柔軟に対応した伊武さん。
しかし納得できない演技には、
果敢に立ち向かったと言います。
伊:「『リハーサルやろう、殺陣のリハーサル』
『あー、はい』とか言って、
行ったら、孫悟空の持つ六尺棒みたいなもので
ピャピャーピャピャーって。
『ダメです。俺の中ではこれは絶対許せない。
あの時代の軍人だったら
竹刀とか木刀とかを使うから、
こんなことやらない』と言って。
とにかく闘っていましたね、ある意味。」
■スピルバーグ監督と真っ向から向き合い、
伊武さんは
ハリウッド映画の大役を演じきりました。
伊:「ハリウッド役者に対する
コンプレックスとか、
すごくレベルが違うんだろうなという、
自分の中でそういう思いがあったのが、
だんだん向こうにいる間になくなっていって、
だから不安というものがなくなりましたね。
与えられた役割は
きちんとこなせたなというのはあった。」
廣:「人生の分岐点がもしなかったとしたら?」
伊:「大した役者じゃないけれど、
もっと大したことなかったんじゃないかな。
もっと何か、生き方がちゃちい(安っぽい)、
うん。何かそういうことを思うね。」