「とうがらし」を「こしょう」と呼ぶ?

NHK
2023年9月11日 午後4:40 公開

突然ですが、この赤い調味料、みなさんは何と呼びますか?

一味や七味、多くの人が「とうがらし」と答えると思いますが…今回の投稿はこちら。

福岡では「とうがらし」のことを「こしょう」と呼ぶ?もし呼ぶならどの地域で呼ばれている?投稿者の小山さんは、定食屋で「こしょう」を頼んだら、この赤い「とうがらし」を渡されて戸惑ったそうです。

まずは街角調査!

『この赤い調味料、みなさん何と呼びますか?』

話を聞いていくと、やはり「とうがらし」と呼ぶ人がほとんどでしたが…

年配の方から「私 博多の人間だけどこしょうって言う」「こしょう」「こしょう言うよ」という声が。また「祖母がこれを「こしょう」と呼ぶ」という声も。

28人に聞いた結果、70代以上の方を中心に、4人が「こしょう」と呼ぶとの証言が得られたのです!

さらに、取材班はあることに気づきました!

九州名物のゆずこしょう。実は、ゆずのほかの主な材料はとうがらしです。つまり、九州の人たちは普段から、とうがらしを「こしょう」と呼んでいるんです!

ということは、とうがらしを「こしょう」と呼ぶのは九州の方言なのでしょうか?

そこで「豚汁は〝ぶたじる?〟〝とんじる?〟」

の調査で力を借りた、NHK放送文化研究所の塩田さんに聞いたところ…

『日本言語地図』という方言の専門書を見るべし!とのアドバイスを得ました。

その本の現物を見に福岡県立図書館へ!

「日本言語地図」は、大きくて分厚い、あわせて6冊の膨大な資料でした。昭和30年代に全国の方言を調査。さまざまな単語が全国でどう呼ばれているか、方言の分布が記されているのです。

「とうがらし」の方言地図が載っていたのは、第4巻の183番目でした。そのページを目にした取材班はびっくり!

なんと、「とうがらし」の呼び方は60種類もあったのです!

実に、全国2400か所を調査したそう。

この60種類を分類すると、「とうがらし」の呼び方は大きく3つの系統に分かれることがわかりました。

◎北海道や東北などの地域では「なんばん」 

◎関東や関西、四国などでは「とうがらし」

◎そして九州・沖縄などでは「こしょう」 でした。

さらに、九州をくわしく見てみると…

長崎・佐賀・福岡の北部九州では「コショー」。その他の地域では、「コーシュー」、「コシュー」、「コシュ」、「コスー」などと呼ばれていました。いずれにしろ、「こしょう」と似た呼び方です。

ではなぜ北部九州で、「とうがらし」のことを「こしょう」と呼ぶのか?

とうがらしの専門家、信州大学の松島憲一さんに伺いました。

信州大学学術研究院(農学系)松島憲一教授

信州大学学術研究院(農学系)松島憲一教授

『そもそも「胡椒」の「胡」は中国の西方の国の意味。古来、日本では、中国を中心に広く海外を指します。「椒」は辛いスパイスという意味です。「胡椒」とは「海外から来た辛いスパイス」という意味なんです』。

他の「なんばん」や「とうがらし」の由来も同じで、「こしょう」「なんばん」「とうがらし」という言葉それぞれに、外国から伝来した辛いものという意味が含まれているというんです。

信州大学学術研究院(農学系)松島憲一教授

『日本に初めてとうがらしが入ってきたのは16世紀。その頃、とうがらしは「高麗胡椒」「南蛮胡椒」と呼ばれていました。こしょうという呼び名ですとか、なんばんという呼び名は、とうがらしって言葉が生まれるより前からあった古い言葉と考えられます。おそらく江戸とか京都とかそういうところで新しい言葉(=とうがらし)が流行しはじめた。それが全国に広がった結果、この分布になったと考えられます』。

なるほど…。「とうがらし」系統は比較的新しい呼び名で、「こしょう」系統の方が古い呼び方だったんですね。

では、どうして九州で「とうがらし」という呼び名が広まらなかったのか?

さらに調べると、とある逸話をみつけました。

江戸時代、外国との貿易の窓口・長崎で幕府の役人が書いた随筆『内安録』です。

そこには、『「とうがらし」という言葉は「唐(中国)が枯れる』という意味の「唐枯らし」に聞こえてしまうため、長崎の人々は中国から来る人に配慮して使わなかった』と書かれています。

長崎の人たちが中国に配慮したため…。なぜ、当時の長崎の人たちは、ことば一つの使い方を気にするまで、中国に気を遣ったのでしょうか?

江戸時代の長崎の政治と外交にくわしい、長崎大学の木村直樹さんに伺いました。

長崎大学多文化社会部 木村直樹教授

「長崎の街というのは貿易で栄えていた街。ありとあらゆる人たちが貿易にぶら下がって生活している状態。(唐船が入ってこないと)そもそも経済が回らなくなる。失業者も出るし給与も減る。街の経済が止まってしまいますので非常に大きな打撃」。

長崎の街の人々は、唐船の商人たちと貿易で深い結びつきがあったのですね。

ということで調査結果。

福岡でとうがらしをこしょうと呼ぶ背景には、九州と中国との深すぎる繋がりがあった…のかもしれません! 諸説あり、ですので他の説をご存じの方がいらっしゃれば、是非教えてください。

今回の取材について、追跡!バリサーチのLINEともだちのみなさんからたくさんの声をいただきました。一部をご紹介します。


▼「私はコショウは、唐辛子と、普通のコショウの2つを連想します。地域で違うみたいですね」

▼「長年福岡市に住んでいますが!コショウを頼んで!とうがらしが来たことはないです!他県よりの市町村の話ですか?」

▼「私は、田主丸出身です!唐辛子は、コショウです!」

▼「赤コショウ 黒コショウで使い分けてます」

▼「私は、大牟田に70年住んでいますが、トウガラシのことを一味とか、赤こしょう!とか言ってます。白こしょうは、こしょうのことです」

▼「福岡市に住んでいます。89歳の父が今でもとうがらしのことをこしょうとよんでいます」


みなさんからいただいた声の中から、赤こしょうと黒こしょう、白こしょうという呼び分けがあるらしいことがうかがえます。新しい情報をいただきありがとうございます!我が家でも、言われてみれば、よく見る三角の瓶のこしょうを「洋ごしょう」と呼ぶことがあったねぇ、という話になりました。これ、ピンと来る方、いらっしゃいませんか?

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