今回のバリバラは、自分の性別に違和感を覚えてきた人たちの歌声がテーマ。性別違和がある人は、自分の声にも理想と現実のギャップを感じがち。それでも歌が大好きで、歌うことを諦めない人たちがいる。楽しくて、切実な、歌の世界へご招待!
<番組の内容>
▶︎声や歌とのさまざまな向き合い方
▶︎歌がくれた、自分らしく生きる力
<出演者>
庄司智春さん(お笑い芸人)
西原さつきさん(モデル・ボイストレーナー/トランスジェンダー女性)
瞬(しゅん)さん(アーティスト/トランスジェンダー女性)
猫井夕菜さん(美少女VTuber/ふだんは男性として生活)
なぁこさん(ハイヤー運転手/トランスジェンダー女性)
恵(けい)さん(建設業/トランスジェンダー男性)
レモンさん(番組MC)
玉木幸則(番組ご意見番)
あずみん(番組コメンテーター)
<VTR>
恵「♪僕が僕であるために 勝ち続けなきゃならない」
(尾崎豊の『僕が僕であるために』を歌唱)
今日のバリバラは、自分の性別に違和感を覚えてきた人たちの歌声!
性別違和がある人は、自分の声にも、理想と現実のギャップを感じがち。
なぁこ「自分で声を出すのもちょっと気持ち悪いなって。自分の声が嫌いだったので」
それでも、歌が大好きで歌うことを諦めない人たちがいる。
生徒「♪ナ~」
講師「ん? ちょっと低いですね。♪ナ~」
なぁこ「歌、歌ってるときの自分がいちばん好きかもしれないです」
楽しくて、切実な、歌の世界へご招待!
恵・ゴメ「♪朝まで笑っていようよ~。イェーイ」
(ゆずの『友達の唄』をカラオケで歌唱)
<スタジオ>
浜崎あゆみの“Love song”を披露する瞬さん。
かつて高い声を目指していたが、今は低い声も使いながらパワフルに歌う。
♪愛のない 人生なんて
そんなの 生きる自信ない
夢のない 人生なんて
そんなの 想像したくない
歌のない 人生なんて
そんなの 見当もつかない
ゆずれない 想いがなけりゃ
つまんない 意味がない
そんなんじゃない
失ったものはありますか?
それは置いてきたものですか?
後悔をしていますか?
取りに戻る事が出来たらと?
欲しいものはありますか?
それは手の届くものですか?
素直になれていますか?
何故涙はとまらない?
あずみん:かっこいい!
レモン:瞬さんありがとうございました!
庄司:いいっすね。迫力あったし。かっこよかった! 素晴らしいです。
レモン:ということで今日のテーマは、性別違和がある人の歌声。
あずみん:性別違和とは、生まれたときに割り当てられた性別と、本人が感じている性別が一致していない状態のことです。
レモン:みなさん性別違和がある中で、自分の声がもっとこうだったらいいのにって感じた経験があるそうなんですよね。瞬さんいかがですか?
瞬:私は、歌を歌うとキーが低くなってしまうってことが女性として屈辱的? 自信を失ってしまう部分があって。好きなことをすると、歌を歌うと傷つく、男性だとジャッジされてしまうかもしれないというのがすごく怖くて、4年前ぐらいまで歌えなかったんですよね、人前で。今はもう歌いすぎってくらい歌ってるんですけど(笑)。
恵:声って判断の材料だと思うんですよ、男か女か。だからなるべく発したくなかったり、注文を友だちにしてもらうとか。
声や歌とのさまざまな向き合い方
性別違和のある人たちは、声や歌にどう向き合っているんだろう?
<VTR>
ひろみん「先生、今日もよろしくお願いいたします」
工藤「はい、お願いします」
こちらは都内のボイストレーニング教室。生徒は男性から女性に移行する人。リモートで地方から参加する人もいるほどの人気ぶり。これまでのべ1000人以上が受講してきた。
工藤「テキストの22ページのほう開いていただきまして。読んでみてください」
ひろみん「『のどぼとけの周辺に力を入れてしまうと、喉が緊張してしまうのでよくありません』(せき込む)」
工藤「もう少しイントネーションの幅があってもいいのかなと」
低い声で周りの人から男性だと思われる不安。それを解消しようというのだ。
ひろみん「あーーー(低音部から高音部へだんだん上げていくが、声がかすれてしまう)」
工藤「うんうん、そうそう、オッケー、そんな感じ」
納得いくまで何年も通う人も。声への思いは半端じゃない!
工藤「格好から姿からとか、メイクから入る方も多いですけど、声、これは飾ることができない部分なので。着飾れる外側と飾れない内側、どっちの方が難しいんだろうって考えたときに、やっぱり声っていうのがすごく重要なのかなと」
ちなみに、女性から男性に移行する人の場合…
恵「(低い声)こいつ古い歌よく知ってるよ。俺とちょうどひと回り違う」
ゴメ「(低い声)お父さんが昔から家とか車でよく聴いてて」
ホルモン治療をすると声が自然に下がる。
さまざま事情でホルモン治療をしない人は…
大島「(あるていど高い声)胸オペ1年経ちました」
元の高さの声で生活していく。
さらに、自分の声を歌に乗せることで内面を表現する人もいる。
すみれ「おはようございます」
倉野「はーい、おはようございます、どうぞどうぞ」
大阪。性別違和がある人向けのボイストレーニング教室。
倉野「もうちょっと前、(マイクのほうに)来ましょうか。もうちょっと前」
すみれ「えへへ」
倉野「ほんまにちょっとしか来てくれませんね(笑)。オッケーオッケー」
こちらの生徒さん、ふだんは控えめだというが…。
すみれ「♪本当は弱気な自分を隠したくて」
(岡村孝子の『1日』を歌唱)
歌のレッスンを始めたとたん、スカートをふりふり!
すみれ「歌ってるときのほうが、表現をできてるっていう思いに駆られます。表現をできてる、しちゃってるって感じ」
<スタジオ>
スタジオにはモデルでトランスジェンダーの西原さつきさんが来てくれた。ボイストレーナーもしていて、生徒たちから歌への思いを感じるそう。
西原:皆さんやっぱり歌うことっていうのがものすごく大好きなんですよね。
庄司:2人目の歌のレッスンされてた方、ちょっと引っ込み思案だけど、歌い始めたら体揺らしたりとか。
レモン:ふりふりで。
西原:本当に音楽の力はやっぱり大きいです。今までずっと抑えてた自分の中の女性らしい気持ちとか、本当の気持ちっていうのが、音楽と歌の力でバーンって外に出ていく感じがするので。
玉木:僕も一般的には言語障害があって、言葉が出にくいけど、歌うん好きで。たまにカラオケ行くんよね。歌って上手い下手で見られがちやけど、自分で納得して歌って、それが自分の力に変わっていくという歌もあるやんか。
レモン:そうやね。
ここからは、女性らしさ・男性らしさと、声との関係を考えてみる。
レモン:恵さんにとっては「声の低さが男らしさ」みたいな感じがありますよね。
恵:そうです。俺から見てその、一般の人? 声が高い男性がいれば、声の低い女性の方も友だちにいっぱいいるので、それはいいんですけど、僕自身がやっぱり男として見られたいって気持ちのほうが強かったので。そうなると、やっぱり低くてかっこいい声っていうのが理想ですよ。
なぁこ:高い声がやっぱりすごく好きなので。歌とかでも高い声のglobeのKEIKOさんとか。ああいう方がすごい大好きだったので、そこに近づけたいと思いながら練習しました。
レモン:女性らしさだけじゃなくて、高い声がもともと好きやからそこを目指したいってことですね?
なぁこ:そうですね。
レモン:瞬さんは、さっき低い声使って歌ってたじゃないですか。
瞬:はい。
レモン:それがパワフルだったりするじゃないですか。低い声を出すのは、抵抗感はどうですか?
瞬:低い声イコール男性じゃない。低いかもしれないけど、私は「この声が女性である自分の声だ」っていう風に、わたしは女性だって自信を、その事実を信じることができるようになったっていうのがこういう風に歌えるようになった一番の要因かなって。
レモン:一人ひとりの向き合い方があるんだということが伝わってくるんですけど、さらに独特な声との向き合い方をしている方が来てくれてます! 猫井夕菜さん。こんばんは〜!
夕菜:こんばんはです〜! 猫井夕菜です。VTuberです。
レモン・あずみん:かわいい〜。
レモン:夕菜さんは声のことどうしてるんですか?
夕菜:私は今、ボイスチェンジャー使わせてもらってまして、普通の声より皆様には高い声が聞こえるようになっています。
レモン:今日は実演していただけるということで、わざわざこの形で来てるのに、なんと生身の夕菜さん映っちゃいます。お願いしま〜す!
夕菜:はい、こんにちは〜。
庄司:生身オッケーのVTuberなんだ(笑)。
レモン:こんなことある?(笑)
夕菜:こんな風になってます。
夕菜:(高い声で)今ボイスチェンジャーがかかってる状態なんですけれども、こちらをオフにすると、(先ほどより低い声で)これがボイスチェンジャーに入る前の声になっています。
レモン:低くなった。
夕菜:これがオンにすると(高い声で)こんな声になるんですね。おそらく多くの人にとっては、かわいいっていう印象が増えてるんじゃないかなって思います。
庄司:ほんとだ。
レモン:これでわかったことは、地声もかわいいよね。
夕菜:今日はいつもより盛ってます。
庄司:盛ってんのかい!
レモン:夕菜さんはふだんは男性としてお仕事しているんですか?
夕菜:はい、まさに。ふだんは男性自認でずっとやってます。最初は性自認が男性だったんですけど、アバターを通じていくうちに、もともとたぶん根底からあったと思うんですけど、自分の性自認には、女性もちゃんとあるんだ、と。男性自認もあるんですけど、女性自認もちゃんとあるっていうことに気づいて。わたしの場合はふだんの男性の格好と、それが前提で接してくれている人もすごく好きなので、男性も諦めないし女性も諦めない。本当に技術の力のおかげで、なりたい自分を諦める必要って全然ないなと思っています。
レモン:さあ! それでは夕菜さんがボイスチェンジャーで歌ったオリジナル曲をお聴きください。
オリジナル曲“skirts.”を披露する夕菜さん。
♪どうして君は泣いてるの?
せっかく綺麗な顔なのに
赤く腫らした瞳でさえ
可愛いなんてずるいなぁ
せっかくだから今からさ
アイスクリームでも食べに行こう
バイトなんて抜け出して
ふたりでお喋りしたいんだ
ラララ…
虚しさだって食べちゃえば
いつしか嘘になるのかな
あの日抱えた葛藤も
そのうち花が咲くのかな
そよ風なびいてスカート揺れたら
始まりの合図、鳴り響く
ねぇ だから今からさ
君を連れていくよ
君の声はいつだって此処に在る
だからもう笑っていいよ だいすき
ラララ…
庄司:めちゃめちゃいいじゃないですか夕菜さん。
夕菜:ありがとうございます。
庄司:クオリティも高いし。
レモン:完全に世界観ができてましたね。
歌がくれた、自分らしく生きる力
レモン:さあ! 続いては恵さんとなぁこさん!
あずみん:2人は性別を移行しながら生きていく上で、歌から力をもらったといいます。
<VTR>
ゴメ「ハマんない」
恵「はははは」
恵さんの仕事は、建物のクリーニング。仕事終わりのカラオケが大好き。
恵「♪受けとってほしい この心を」
(浜田省吾の『もうひとつの土曜日』を歌唱)
よく歌うのは、浜田省吾や福山雅治。
恵「モテたいというか、口説きたいとか。よこしまな気持ちだから(笑)」
ふざけているけど、恵さんは歌を大切にして生きてきた。中学・高校では、自分と似たセクシュアリティーの人が周りにほとんど見当たらず、思い詰めていった。
恵「どうやって生きていったらいいかなっていうのが全然わからなくて。消えてなくなりたいなって思ったり、存在自体なければよかったなって思ったことはやっぱりあったので」
そんなとき、恵さんの心に響いた歌があった。
「♪どんなときも どんなときも 僕が僕らしくあるために」
槇原敬之の「どんなときも。」
恵「あの、2番の歌詞」
「♪消えたいくらい辛い気持ち 抱えていても 鏡の前笑ってみる まだ平気みたいだよ」
恵「あ、まだ俺、大丈夫だなって。鏡見て笑えたら大丈夫だなって思ってたし、好きなものは好きだって言いたかったし、励まされているというか。自分は自分らしくいてもいいんじゃないかっていう」
歌の言葉に背中を押され、男性としての人生を選んだ恵さん。自分を責めることが減っていった。
恵「昔の自分よりは自分を今、認められるんじゃないかな。このままでいいのかなって」
なぁこ「お待ちしておりました。よろしくお願いいたします。ドアお開けしますね」
なぁこさんはハイヤーの運転手。丁寧な接客が評判。女性としてこの仕事に就き、今年で8年目になる。
高校生の頃から「男として生きるしかない」と諦めてきたなぁこさん。しかし、社会人になり、男性が多い職場で働くようになると限界を感じた。
なぁこ「男性社会の職場ってやっぱりこう相手より強くいよう強くいようっていう。自分もそこに合わせて強くいかいなければいけないっていうのが、もう本当に辛かったんですよね」
43歳のとき、自信はなかったものの性別移行を決意。いわゆるニューハーフパブの仕事に就いた。すると思わぬ出来事が。
なぁこ「カラオケもともと好きなので歌わせてもらったときに、話したこともない人が、『これ知ってる』『これ懐かしいよね』とかって言ってくれて、拍手してくれたりする。あ、歌って性別だの年だのそういったものすべて取っ払って、みんな仲良くなれるものだなって私は思ったんですね」
お客さんたちは、やがて友だちに。心細さが和らいでいった。
今も歌とともに生きるなぁこさんを、さりげなく見守っている人がいる。
高校の同級生、笹生さん。会えばたいがいカラオケだ。
なぁこ「♪あなたが見たような」
(飯島真理の『天使の絵の具』を歌唱)
歌うのは、なぁこさんだけ。
笹生「人の歌、聞きながら飲んでればそれでオッケーなんで。オッケーと言えばオッケーです」
気の置けない関係を築いてきたふたり。なぁこさんは性別移行を始めた頃の彼へのカミングアウトが忘れられない。
なぁこ「言う瞬間はもうすべて音が聞こえなくなりましたね、怖くて、だけど言わなきゃって。そっから記憶が飛ぶんですけど。ふざけんなよ、なんでお前言わないんだよって怒り出して」
なぁこさんはそのとき笹生さんの前で初めて泣いた。笹生さんも初めて怒った。
笹生「僕のことを親友だとは思ってくれてると思うんで。なんかちょっとそこ、少し悲しかった部分もあるんで。もっと早く言ってくれなかったことが」
笹生「言っちゃったもんね。なめんなって」
なぁこ「言ったね」
なぁこ「そうやって怒ってくれたことがすごく嬉しくて。言ってよかったんだ、って」
自分の生き方を応援してくれる人たちがいる。それを感じながら、なぁこさんは今日も歌う。
<スタジオ>
飯島真理の『愛・おぼえていますか』を披露するなぁこさん。
♪今 あなたの視線感じる
離れてても
体中が 暖かくなるの
今 あなたの愛信じます
どうぞわたしを
遠くから見守って下さい
昨日まで 涙でくもってた
世界は今…
おぼえていますか 目と目が合った時を
おぼえていますか 手と手が触れあった時
それは初めての 愛の旅立ちでした
I love you, so
レモン:なぁこさんありがとうございました! お席にどうぞ。玉木さん、いかがだったですか。
玉木:いやもう、鳥肌もんよ。ど真ん中やから。好きな曲なんよな。
レモン:年代やね。高校生くらいの。
なぁこ:当時、友だち同士でこの映画をちょうどビデオで見てたんです。「俺、この曲歌えるんだよ」って。初めて人前で女性の曲を歌った曲なんです。そこから、私もしかして女性としての自認があるのかなとか思って。
庄司:第一歩だったんですね。
玉木:今日みなさんの歌とか聞いてたら、たぶんいちばんには自分に歌ってるんやなっていうのがよく伝わってきたね。
あずみん:私、中学生の時に初めて友だちとカラオケ行って、そこで歌うまいねってほめられたんですよ。それまでは、リハビリとかして「がんばり屋さんやね」とか、そういうことでしかほめられてなかったのが、普通に自分が心から楽しいって思えることで人から褒められたっていう経験が、今、私が歌好きっていう原点だったなって改めて思い出せて、すごいよかったです。
最後は、恵さんに歌ってもらう。『どんなときも。』の他にもう1曲、大切な歌があるそう。
恵:僕、『どんなときも。』と今歌う歌、(尾崎豊の)『僕が僕であるために』っていう歌なんですけど、どっちも「僕らしくいるために」と同じことを言ってるんですけど、槇原と尾崎のあり方はちょっと違っていて。マッキーはやっぱり優しさだったりとか、尾崎豊は強さだったりとか。僕は大学からちょっとやっぱり地元の町にはいられなくて、東京に逃げてっちゃうんですけど、そのとき両方の、優しさも強さも僕には必要だったなっていうのはすごく思って。
尾崎豊の『僕が僕であるために』を披露する恵さん。
♪心すれちがう悲しい生き様に
ため息もらしていた
だけど この目に映る
この街で僕はずっと
生きてゆかなければ
人を傷つける事に目を伏せるけど
優しさを口にすれば人は皆傷ついてゆく
僕が僕であるために
勝ち続けなきゃならない
正しいものは何なのか
それがこの胸に解るまで
僕は街にのまれて
少し心許しながら
この冷たい街の風に
歌い続けてる
君が君であるために
勝ち続けなきゃならない
正しいものは何なのか
それがこの胸に解るまで
君は街にのまれて
少し心許しながら
この冷たい街の風に
歌い続けてる
庄司:素晴らしい。めちゃめちゃよかった!ほんとに響きました。
恵:ありがとうございます。
庄司:『僕が僕であるために』っていう曲もめちゃめちゃ好きで。学生時代の頃を思い出すんですよ。でも今日、恵さんが歌ってくれたんで、また別であの曲を聞いたら、この日のことを思い出すでしょうし、思い出がどんどん更新されるから、素敵な時間にいさせてもらってよかったなって。
レモン:真面目な人やろ。絶対ボケへんで。
庄司:最近ボケてないから。
レモン:4人の皆さん、素敵な歌声ほんとにありがとうございます。次回もお楽しみにー!もう楽しんだもん勝ちやで!
※この記事は2023年8月11日放送「うたって・変わって」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。