◎制作こぼれ話「日本の川を支えるアユ」
番組でもお伝えしたとおり、アユが大繁栄しているのは世界でも日本だけ。その理由はアユの生活を見ればわかってきます。アユの主食である「藻(も)」が育つのは川の上流部、水が浅く透きとおっていて、川底に十分な光が当たるところです。でも、海で育った稚魚たちがはるばる上流にたどり着くのは大変な道のりでした。だから「海」と「川の上流部」の距離が近いことが重要です。大陸を流れる大河では海から透明な水がある上流までが遠すぎて稚魚たちは遡上(そじょう)できません。山と海が近い日本の地形はアユにとってうってつけなんです。アユの最古の化石は島根県で見つかった1000万年前のもの。日本列島が大陸から離れ始めた時期と重なっていて、まさに日本列島と共に進化した魚と言えます。他の生きものがほとんど利用できない川底の石についた「藻」を食べ繁栄したアユですが、藻を削り取る時、かなりの量が口からこぼれるそうです。そして、1日に体重の半分の藻を食べるアユは“出すもの”も多くなります。大量の食べこぼしやフンによって、石からはがされた「藻」が他の生きものにも利用できる「栄養」となることで、日本の川が豊かになっているとも言われています。
山と海が近い日本の川はアユにぴったり(高知県・安田川)
◎撮影の現場から「解禁日のアユ」
高知県のアユの解禁は6月1日。河原には夜明け前から釣り人が続々と集まります。釣り方は、ご存じ「友釣り」。アユのナワバリ意識を利用して、おとりのアユを泳がせ針に引っかけます。釣れるのは縄張りを持つアユだけです。当日、釣れたアユを見せてもらいビックリ。背中が分厚く、見たこともない太さでした。それもそのはず、解禁日に釣れるのは海から遡上して2か月ほど縄張りを守りぬき、栄養満点の藻を心ゆくまで食べたアユ。最も栄養状態が良く、食べても美味しいと言います。
こうして縄張りの主だったアユが釣られていなくなると、周辺にいたアユがその場所を引き継ぎます。でも、2番目以降のアユもまたすぐに釣られてしまうため、それほど大きくなりません。丸々と太った「解禁初日のアユ」が食べられるのは釣り人の特権。このアユを食べるためだけでも解禁日に友釣りをやる価値はありそうですね。
解禁日に釣れたアユ
◎ディレクターのお気に入り「日本一のアユ」
11月、高知県・奈半利(なはり)川の下流では、ダンプカーが大量の土砂を運び入れショベルカーでならす作業が始まります。10年以上前から行われているアユの産卵場の整備です。昔の川ではアユの産卵が始まる前に台風で川が増水し、泥が洗い流されることで、河口近くには産卵に適した砂利の川床が自然に作られました。しかし治水が行き届いた現在は川が増水することが少なくなり、砂利の間に泥が溜まりやすくなっています。奈半利川も上流にダムがあり、自然のままではアユが産卵しにくくなっていました。
運び込まれる土砂
そこでダムを管理する電力会社と漁協が協力し、産卵場の整備が始まったんです。その他にも、稚魚の遡上時期にはダムの放水量を増やすなど、アユに配慮した環境作りを行った結果、“日本一美味しいアユ”を決めるという「利き鮎会」で奈半利川は2022年のグランプリに輝きました。アユの美味しさは水の良さと食べる藻の質で決まります。アユに良い環境を作ろうとする人々の努力が日本一のアユを育てたんですね。
ディレクター 岡部 聡
アユの味“日本一”の賞状
◎関連ブログ記事
岡部ディレクターが担当した回のブログです。ぜひご覧ください。