対中国政策の専門部署「チャイナハウス」 初代トップに聞く

NHK
2023年9月21日 午後5:35 公開

アメリカの外交を担う国務省に去年、新しく設置された「チャイナ・ハウス」。安全保障や経済などの専門家を部局横断的に集めた、対中国政策を統括する専門部署です。

その初代トップを務め、この夏に退任したリック・ウォーターズ氏が来日。アメリカの対中国政策を語りました。

(「国際報道2023」で9月20日に放送した内容です)


外交官として長年、アメリカの対中政策に関わってきたウォーターズ氏。

中国に対してより強硬な政策へと変化したその背景には中国側の行動があると強調しました。

「中国自身が変わった、特に現指導部のもとで中国の姿勢はさらに強硬かつ攻撃的になっている。(米中対立の)原因を客観的に見るべきです。中国の政策、非市場的慣行、知的財産の盗難、企業にとって多くのリスク要因が影響している」

米中の対立で今、特に先鋭化しているのが、最新技術をめぐる争いです。

その要因の1つが、アメリカが去年、打ち出した、軍事転用が可能な半導体の中国への輸出規制だとウォーターズ氏は指摘します。

「去年10月アメリカが発表した最先端の半導体規制が、技術を巡る米中対立の新しい章、新しい戦線を開いた。中国側の対応は激しいもので、産業政策を強化し、ファーウェイのような中国の有力企業への支援を強化し、さらに中国の国民も、アメリカの規制措置に対し国家主義的で感情的な反応を示した」

対立が激化する中で、アメリカは、ことし6月以降、閣僚が相次いで中国を訪問するなど対話路線に転換しています。

11月にはアメリカで行われるAPEC首脳会議で、バイデン大統領と習近平国家主席が会談する可能性も指摘されています。

この対話路線について、ウォーターズ氏は

「意図しない対立を避け関係を安定させるためのものだ。中国はいくつかの重大な国内課題に直面しているので、対外環境を安定させたい。アメリカも同じような国内要因があるので、両首脳には(関係安定化の)意図がある」

中国は減速する経済、アメリカは大統領選挙をめぐる分断など、ともに国内問題を抱える米中両国。

ウォーターズ氏は、両政府が当面は関係安定化を目指すとの見通しを示しながらも不安定要因は尽きないと指摘します。

「来年は台湾の選挙もあるので、米中関係の悪化につながる可能性がある/安定化の要因はあまり見当たらない。ウクライナ情勢は懸念材料だ。中国はロシアへの決定的な軍事支援や大幅な制裁回避の提供には至っていないが、それが変わると、新しい不安定領域となる可能性がある」


ウォーターズ氏が、米中関係のキーワードとしてあげていたのが、「Managed Decline」=管理された関係悪化です。

両国の対立を過度には悪化させない、衝突を避けるために「管理された関係悪化」が今後も続くというものです。

重要なのは、両国が対話を欠かさないこと、意思疎通と言えそうです。


油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。

(この動画は4分20秒あります)