【解説】ワグネルの武装反乱 背景は?政権への影響は?

NHK
2023年6月27日 午後1:33 公開

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中で、民間軍事会社ワグネルが起こした今回の武装反乱。現地で一体、何が起きていたのでしようか?

NHKの元モスクワ支局長で長年ロシアを取材してきた安間英夫解説委員の解説です。

(「国際報道2023」で6月26日に放送した内容です)


油井:プリゴジン氏、ワグネルの部隊をモスクワのおよそ200キロ手前で引き返させましたが、この判断の背景には何があると見ていますか?

安間:プーチン大統領の演説が作用したのは間違いないと思います。私が演説で注目したのは3つの言葉。まず「裏切り」=プレダーチェリストボ "предательство"を3回使っていることです。この「裏切り」という言葉、ロシアの人たちの間では、「お前は仲間ではない、絶交だ」くらいの強いニュアンスを含んでいます。

2つ目は「反逆」。祖国に対する裏切りを意味していて、これをダメ押しで2回使っています。

そして3つ目は「大動乱」。ロシアでは歴史上17世紀初めの動乱を思わせる時代がかった言葉です。一般のロシアの人たちにとっても尋常ではないことが起きていることを暗示するものなんです。

プリゴジン氏は、プーチン大統領や国のためによかれと思って尽くし、多少乱暴な言動もプーチン大統領から黙認されていると受け止めてきたはずです。ところが演説の強い言葉を聞いて、明らかに今回はプーチン大統領の逆鱗に触れたこと、そして自分がプーチン大統領にとってはただの駒に過ぎないと正確に理解することになったのではないかと私には思えます。

油井:ロシア大統領府は、ワグネルの戦闘員に対して、「誰も罪に問われない」という考えを明らかにし、譲歩したように見えますが、実際、どうなるのでしようか?

安間:確かにそのように表明しました。プーチン大統領にすれば、反乱をひとまず収め、できるだけ早く幕引きをはかりたいということかもしれません。しかしこれは、厳しい措置をとると言っていたのに、国家反逆の疑いのある首謀者をベラルーシに出国させるという超法規的であいまいな決着だったと言えます

ワグネルの部隊の進軍を許してしまった治安部隊や軍の対応が妥当だったのか、またロシア軍にも犠牲者が出ていた可能性もあり、このままで済ますと軍の内部で反発が強まる可能性もあります。

プリゴジン氏がこのあと本当に言動を控えるのか、また過去のケースで裏切り者は許さないと厳しい姿勢をとってきたプーチン大統領がこれで済ますのか、今後も双方の動きを見ていく必要があると思います。

油井:プリゴジン氏は、ショイグ国防相や、ゲラシモフ参謀総長を激しく非難していましたが、今後のプーチン体制に変化はないのでしようか?

安間:独立系メディアによると、プリゴジン氏はプーチン大統領にショイグ国防相の更迭を求め、プーチン大統領はそれを拒否したといいます。ここでプーチン大統領がショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を更迭してしまえば、プリゴジン氏の要求に応じたことになってしまい、当面、軍の体制は変えないと思います。

ただウクライナの軍事作戦でロシア軍の作戦が現体制でプーチン大統領の思うように進められてきたかどうかは疑問です。プリゴジン氏がロシア軍に対して行ってきた批判は、的を射ている部分もありました。今後の戦況次第では、体制を変える可能性は排除できないと思います。

油井:今後、プーチン体制が揺らぎ、ウクライナでの戦況に影響を与える可能性はないのでしようか?

安間:今回プーチン大統領は演説の中で、反乱の原因を「行き過ぎた野心と既得権益」と厳しく指摘しました。プーチン政権は一枚岩のように見えるかもしれませんが、政権の長期化とともに、政権内部ではさまざまな利害が絡み合いいっそう複雑になっています。今回の事態は、そうした利害調整に失敗したことの表れで、プーチン大統領が掲げてきた安定に疑問符を投げかけるものとなりました。今回の事態、ウクライナでの戦況やプーチン体制にすぐに影響がでることは考えにくいですが、来年(2024年)3月に大統領選挙を控え、今後もプーチン体制にじわりと影響を与えるのではないかと思います。

(この動画は5分43秒あります)

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