太平洋島しょ国めぐる 米中のせめぎ合いとは?(油井’s VIEW)

NHK
2023年9月27日 午後5:43 公開

9月25日、バイデン大統領がホワイトハウスに招いたのは、太平洋の島しょ国とオーストラリアなど18の国と地域でつくる「太平洋諸島フォーラム」の首脳などです。会議に合わせ、バイデン政権は、クック諸島とニウエを新たに、独立した主権国家として承認すると発表。

この地域で影響力を強める中国を念頭に、各国との関係を強化する姿勢を打ちだす狙いがあるものとみられます。

一方、先週の国連総会で中国を評価する演説を行ったソロモン諸島の首相は今回の会議を欠席。バイデン政権の高官は「失望している」と述べました。

(「国際報道2023」で9月26日に放送した内容です)


バイデン政権が開いた2回目となる太平洋島しょ国とのサミット。

今回、出席を見送った首脳が2人いて、注目されています。それが、ソロモン諸島のソガバレ首相とバヌアツのキルマン首相の2人です。

このうち、ソロモン諸島のソガバレ首相は、先日、国連総会の演説で、日本による処理水の海洋放出を批判する一方で、中国を高く評価しました。

「われわれは一帯一路を通した持続可能な開発への中国の取り組みを称賛する」

また、バヌアツは、今月、首相が親欧米派と言われたカルサカウ氏から、中国に近いとも言われるキルマン氏にかわったばかりです。

カルサカウ氏が失職した原因は、去年12月にオーストラリアとの間で安全保障協定を署名したことを受けて、野党から「欧米に近すぎる。中国からの開発援助に影響が出る恐れがある」などと反発の声が出て不信任決議案が提出・可決されたからです。

今回、首脳2人の欠席を受けて、アメリカ政府は、中国の影響力がソロモン諸島だけでなくバヌアツ、そして他の地域にも広がる懸念を改めて感じていると言えそうです。


酒井キャスター:一方の中国もアメリカがこの地域との関係強化に乗り出すことに神経を尖らせているようですよね。

油井キャスター:中国の政府系の英字紙「チャイナデイリー」は、社説で「欠席したソロモン諸島とバヌアツの2人の首脳だけでなく、参加した何人かの首脳も会議について関心がなさそうだった」と指摘。

その上で「太平洋の島しょ国は、アメリカにとって地政学的ゲームの駒に過ぎない。もしアメリカが太平洋島しょ国の発展に関心があるのであれば、これまで約束した支援だけでなく歴史的な負債も返済すべきだ」と記し、アメリカが70年前にマーシャル諸島の近くで行った核実験の被害に対して追加補償を行うべきだなどと主張しているのです。

バイデン政権は、太平洋島しょ国で中国の影響力に対抗するため、日本やオーストラリアと連携してインフラの整備を進める方針など経済協力を打ち出していますが、今後は、米中の間で、自分達の立場を訴える情報戦も激しくなっていきそうです。
 


油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。

(この動画は2分42秒あります)