長沢芦雪の襖絵巡礼

NHK
2023年11月26日 午前9:00 公開

「虎図襖」重要文化財 1786年  和歌山 無量寺・串本応挙芦雪館蔵 *展示は前期。既に終了

日曜美術館ホームページでは放送内容に関連した情報をお届けしています。この度は11/26放送「シン・芦雪伝」に合わせたコラムです。現在開催中の「特別展 生誕270年 長沢芦雪」では各地の寺院が所蔵する芦雪の代表的な襖絵も集合しています。これらを観られるのは大変に稀有でぜいたくな機会です。ぜひお見逃しなく。と同時に、それらの名品がこの展覧会以外で普段観られるかについて調べてみたので、参考にしてみてください!

和歌山県 無量寺

「龍図襖」重要文化財 1786年 和歌山 無量寺・串本応挙芦雪館蔵 *展示は前期。既に終了

日本全国で芦雪と結びつきが強い地域と言えば、まず名前が挙がるのが和歌山県南部、すなわち紀南地方でしょう。

1786年10月から1787年2月までこの地に滞在した芦雪は、半年近くの間になんと270余点もの作品を残しています。中でも、成就寺や草堂寺、そして最も知られている芦雪の作品「龍・虎図襖」を所蔵する無量寺などは、特に芦雪が多く作品を手がけた場所です。ただそうしたお寺の多くは現在、作品を和歌山県立博物館に寄託しています。

ただし無量寺では本物を、しかも、ぜいたくに拝観することができます。境内にある「串本応挙芦雪館」の収蔵庫にて、応挙と芦雪の襖絵を、ガラスケース越しではなく直に対面して観ることが可能です。万が一唾など飛んでしまうと作品の傷みにつながりますので、鑑賞時にはマスク着用が求められます。

また隣接している「串本応挙芦雪館」の本館では掛け軸などが並べられています。応挙・芦雪以外に若冲の作品などもあり、こちらもガラス越しではありません。

なお「龍・虎図襖」をはじめ、無量寺には芦雪の代表作が多いため美術展へ作品が貸し出されるケースも少なくありませんが、そうした情報もホームページに丁寧に記載してくれています。あらかじめ確認した上で訪れましょう。

兵庫県 大乗寺

「群猿図」(部分)重要文化財 1795年 兵庫 大乗寺蔵 *後期展示(11月7日から)

和歌山の無量寺は「芦雪寺」と呼ばれることも多いですが、兵庫県・香美町にある大乗寺は通称「応挙寺」の名で親しまれています。円山応挙とその門下総勢13名が協力して13室165面に及ぶ客殿の襖に絵を描きました。その2階の一室が、芦雪が担当した「猿の間」です。11面にわたって表情豊かな猿たちが描かれています。芦雪はたびたび猿を描いていますが、その中でも芦雪の猿画の集大成と呼べる作品です。まるで人間社会を風刺しているかと思うほど一匹一匹の猿にキャラクターがあり、見飽きません。1階に展開されている応挙の作品群は複製画ではありますが高精細で、臨場感は十分味わえます(原画は収蔵庫で保管されています)。芦雪をはじめとして応挙一門の作品を一度に満喫できる場所として大乗寺は随一です。

なお、芦雪の「群猿図」は原画が観られます。現在は長沢芦雪展に出品されていますが、来年4月以降は戻るとのこと。描かれた当時そのままの状態で、四方からお猿さんたちに囲まれつつ、時を忘れてゆっくりと作品に向き合えるのはぜいたくな楽しみです。

島根県 西光寺

「龍図襖」(昇龍図) 松江市指定文化財 18世紀 島根 西光寺蔵 *後期展示(11月7日から)

島根県松江市にある西光寺所蔵の「龍図襖」は、その作風や押されている印章により、芦雪が和歌山におもむく直前の時期に描かれた作品ではないかと考えられていますが、確かな来歴はわかっていません。2016年から保存修理されることとなり、2018年に修理完成記念の初公開がされました。

「雲龍図」と「昇龍図」の一対からなります。「雲龍図」は部分的に雲に隠された龍というオーソドックスな描き方ですが、もう一方の「昇龍図」は横長の画面に龍の全身が露わに描かれており、大変珍しい作例です。構図も筆法もまったく異なっており、意図して対照的に描いたのではないでしょうか。西光寺の所蔵ですが現在は松江歴史館に寄託されています。

奈良県 薬師寺

「岩浪群鳥図襖」 奈良市指定文化財 18世紀 奈良 薬師寺蔵 *展示は前期。既に終了

1789年12月の手紙によって、その時期、芦雪は奈良に滞在していたことがわかっていますが、それは薬師寺の襖絵を制作するためだったと考えられます。全部で29面の襖絵を手がけました。ただ、もともと襖がはめられていた薬師寺の塔頭寺院・福寿院は明治時代には廃絶し、その後作品は薬師寺から奈良国立博物館に寄託されていました。穴が空いているなどかなり損傷がひどかったため、表に出す機会も長年ありませんでしたが、2013年から4年もの歳月をかけて修理され、2018年に修理完成のお披露目がされました。その直後、2018年にスイスで行われた長沢芦雪展などに出品されはしたものの、国内での展示機会はこれまで限られてきました。今回の展覧会では、展示替えはありますが、後期も薬師寺の芦雪作品が観られるので貴重なチャンスです。ぜひこの機会にご堪能ください。

展覧会情報

◎展覧会「特別展 生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー」は12/3まで、大阪中之島美術館で開催中です。その後、九州国立博物館に巡回します。(2024/2/6~3/31)