重要文化財 「日月山水図屛風」 室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵 【展示期間】日図:10月11日〜11月5日 ※展示終了/月図:11月7日〜12月3日
日曜美術館ホームページでは放送内容に関連した情報をお届けしています。この度は11/12放送「まなざしのヒント 特別展やまと絵」に合わせたコラムです。平安時代より始まる「やまと絵」を見ることは日本人固有の美の感性や、自然や風習を再確認・再評価することにつながります。番組で紹介したのとはまた別の角度から、やまと絵を見るヒントをお伝えします!
料紙装飾
重要文化財 「法華経冊子」(部分) 平安時代・11世紀 京都国立博物館蔵 【展示期間】11月7日〜12月3日
やまと絵は貴族たちの文化的な営みが大きく関係しながら発展してきたので、和歌や書を記す紙の装飾も見どころのひとつです。漉き上げたそのままの素紙(そし)ではなく、装飾をほどこした紙を用いることが多いですが、そうした紙を「料紙(りょうし)」と呼びます。料紙にも、日本人の繊細で優美な感性が表れています。
まず紙の表面に「胡粉(ごふん)」という、貝などを細かく砕いた粉を塗り、墨の乗りを良くしたり滲み防止にします。これを「具引き(ぐびき)」と言います。さらに、その上から「雲母(うんも)」を膠(にかわ)液に混ぜたもので模様を摺ったものを「雲母摺り(きらずり)」と呼びます。雲母を使うことで真珠のようなきらきらと輝く光沢感を持った模様になります。
その他に、箔を用いたさまざまな技法があります。箔を粉にして撒く「砂子(すなご)」、粉にならない程度に細かく箔を崩してつける「揉箔(もみはく)」、竹刀で正方形に切って貼り付ける「切箔(きりはく)」、箔ばさみを用いて不定形に破いたものを貼る「裂箔(さきはく)」、糸のように細長く切って使う「野毛(のげ)」などがあります。
料紙装飾自体はやまと絵の発展とともに11世紀頃から充実の途をたどり、12世紀に特徴ある美しさを持った料紙装飾の代表とも言える作品がいくつも生み出されました。本展にも出品されている「久能寺経」「源氏物語絵巻」(横笛:11月7日〜11月19日 愛知・徳川美術館蔵/夕霧:11月21日〜12月3日 東京・五島美術館蔵)「扇面法華経冊子」(東京国立博物館蔵 ※大阪・四天王寺蔵の「扇面法華経冊子」は展示終了)「平家納経」(広島・嚴島神社蔵)(すべて国宝)などがそうした代表作です。ぜひ料紙装飾の美にも着目してみてください。
片輪車文様
国宝 「片輪車蒔絵螺鈿手箱」 平安時代・12 世紀 東京国立博物館蔵 【展示期間】10月11日〜11月5日 ※展示終了
やまと絵の発展とともに成熟した日本人のみやびな美意識は工芸分野にも及びました。たとえば文様。半分水に埋まった車輪が、流水模様と一緒に描かれる「片輪車文様(かたわぐるまもんよう)」は、今日においても着物の図柄や茶道具の装飾などで見かけますが、平安王朝において出来上がった意匠です。なぜ車輪が半分水に浸かっているかというと、平安時代に貴族が乗っていた、牛車(ぎっしゃ)と呼ばれる車がありますが、その車輪は乾燥による割れを防ぐ目的で川に浸す習慣があったそうで、その様子がもとになったと言われています。
日本の四季や歳時記
重要文化財 「月次風俗図屛風」(第8扇、部分) 室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵 【展示期間】10月11日〜11月5日 ※展示終了
輸入文化としての「唐絵(からえ)」では大陸の風物が描かれたのに対し、日本の風景や暮らしを描くようになったのが「やまと絵」です。したがって、日本の四季と結びついた動植物や生活行事の様子などを、やまと絵から読み取ることができます。
たとえば、重要文化財「月次風俗図屛風(つきなみふうぞくずびょうぶ)」(東京国立博物館蔵)。8つの画面から構成されていますが、右から左へと季節が進み、日本人の暮らしの歳時記が表されます。第1扇は正月で、上から下へ向かって「羽根つき」、「毬打(ぎっちょう)」、「松囃子(まつばやし)」といった題材が描かれています。毬打とは、毬(まり)を棒で打ち合うホッケーのようなスポーツ。松囃子は、新春の芸能祭です。第2扇は3月で花見の様子。第3・4扇は連続した画面で5月の田植えのシーンです。第5扇も5月の風景で、上部が「賀茂の競馬(くらべうま)」。競馬の発祥と言われる賀茂神社の行事です。下は衣替えの様子です。第6扇の上部は「犬追物(いぬおうもの)」と呼ばれる弓の武芸を磨くための行事。下は蹴鞠(けまり)。第7扇は、「富士の巻狩」と呼ばれる、狩りを競う武術演習の行事が描かれています。第8扇の上部には、今日でも12月17日を中心に数日間、春日大社で行われる「春日若宮おん祭」の様子が描かれています。下部は雪遊びの様子です。
一方、「浜松図屛風」や「日月山水図屛風」(いずれも重要文化財 東京国立博物館蔵)などは花鳥草木を登場させることで日本の四季を表しています。たとえば「浜松図屛風」を見ると、柳、松などの樹木、タンポポ、コウシンバラなどの野の花、ヤマガラ、ホオジロ、メジロなどの野鳥などが発見できます。やまと絵は、日本の伝統的な風物についての知識があると、より一層楽しむことができます。
重要文化財 「浜松図屛風」 室町時代・15~16 世紀 東京国立博物館蔵
展覧会情報
◎展覧会「特別展 やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」は12/3まで、東京国立博物館 平成館で開催中です。※土・日・祝のみ事前予約制(日時指定)