建築家・内藤廣 ディテールに宿る建築の妙味

NHK
2023年10月22日 午前9:00 公開

2005年竣工の島根県芸術文化センター 写真提供=島根県芸術文化センター「グラントワ」

日曜美術館ホームページでは放送内容に関連した情報をお届けしています。こちらは10/22放送「建築家・内藤廣 渋谷駅・世界一複雑な都市計画を率いる男」に合わせたコラムです。

現在、島根県益田市にある島根県立石見美術館では展覧会「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」が開催中ですが(12月4日まで)、この美術館が入る複合施設・島根県芸術文化センター「グラントワ」は内藤廣の代表作のひとつとして知られています。

内藤廣は著書『内藤廣/インナースケープのディテール』の中で「ディテールは建築における魔法の杖のようものだ」と語っています。その言葉の通りに、島根県芸術文化センター「グラントワ」はこだわり抜かれた細部によって建物の魅力がかたちづくられていると言っても過言ではありません。

石州瓦

屋根・外壁は石州瓦で覆われ、中庭の床にも瓦と同じ色に合わせたオリジナルのタイルが使われている 写真提供=島根県芸術文化センター「グラントワ」

兵庫の淡路瓦、愛知の三州瓦と並ぶ日本三大瓦として知られる、島根県石見地方の特産、石州瓦(せきしゅうがわら)が、この建物ではユニークな形で使用されています。1300度という高温で焼かれることによって高い耐久性を持つ石州瓦に外壁材としての可能性があることを見抜いた内藤は、屋根に加えて外壁にも用いました。建物の外壁に石州瓦が使われた例はこれ以前にないそうです。また釉薬の効果によって、つやのある赤褐色をしているのも石州瓦の特徴ですが、天候や時間帯、観る角度など、そのときの光の当たり方によって色の表情が違って見えるため、その都度建物の印象が変わって感じられます。

中庭

中庭の中央にある水盤 写真提供=島根県芸術文化センター「グラントワ」

複合文化施設と言いながら中心に位置するのは正方形をした広い中庭で、その周囲に美術館と劇場が配置されています。施設の真ん中が空白地帯という発想が独特ですが、これには内藤が益田市を初めて訪れたときに「“失われた時間”を強く感じさせる街だ」という印象を持ったことが関係しているそうです。空間的な余白にすることで、悠久の時間を表現しているように感じさせる不思議な中庭。街の人々は中庭のベンチで思い思いにゆったりと過ごしていました。

また中庭の中心部分は浅く水を張った水盤になっています。水は簡単に抜くことができ、そうなると中庭全体がイベント広場に早変わり。それまで余白だった空間が、“出来事の空間”へと変身します。

展示室

「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」展示室

開催中の展覧会「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」を観るため展示室へ――。内藤廣の個展としては過去最大級でそれだけでも観に来る甲斐がありますが、実現できた建物「Built」と、実現できなかった建物「Unbuilt」の両方について、どんな思いで取り組んでいたのかという作者自身によるコメント付きで展示されています。

そして、展示を観ながらつい目がいってしまうのが、展示室の壁や床の色・材質です。たとえば今回の展覧会で「Built」の展示にあてられている展示室Aでは、天井や壁は赤錆色、フローリングには赤みを帯びたカリンの木が使われています。展示室ごとに床や壁の色や材質に特徴があるので、「グラントワ」を訪れた際には注目してみてください。

劇場大ホール

島根県立いわみ芸術劇場大ホール 写真提供=島根県芸術文化センター「グラントワ」

島根県芸術文化センター「グラントワ」は美術館と劇場の複合施設。島根県立いわみ芸術劇場の大ホールは音が良いことで一流演奏家たちから絶賛されています。その秘密のひとつは、多面体の形状をしたコンクリート壁にあります。ホール内で会話をしているだけで、音の透明感や響きの良さがつぶさにわかります。通常大ホールには主催者や観客以外入ることができませんが、無料開放日が設けられていますので展覧会に行く際はぜひチェックを。(ホールの公演予定や開放日の情報は「グラントワ」のホームページに掲載されています。)

大ホールのホワイエ(ロビー)

なお「グラントワ」で使われているコンクリートの壁や柱にはすべて杉板の型枠が使われているため、表面に木目模様が転写され、温かみが生まれています。多面的なコンクリート壁を杉板型枠で行うのは難易度の高い技術が必要で、職人の技術レベルの高さを感じます。

回廊

画面右に見えるのが、この建物のために内藤が設計した十字形の鉄柱

回廊は、庭側が大きな柱などに邪魔されることなく、とても開放的な見え方をしています。「通常は梁(はり)や柱を突き出させるようにしないと天井やひさしを支えるのは難しいが、それだとこの開放感は得られなくなるため、十字型という特注の鉄柱をつくって構造的に解決した」と、内藤は説明しています。

島根県芸術文化センター「グラントワ」には、こうした細やかかつ高度なディテールが数多く隠れています。展覧会に足を運んだ際には、ぜひ建物のそうした細部にも注目してみてください。

展覧会情報

◎展覧会「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」は12/4まで、島根県芸術文化センター グラントワ内・島根県立石見美術館で開催中です。