福岡刑務所 性犯罪再犯防止プログラムの現場へ

NHK
2022年8月2日 午後3:52 公開

追跡!バリサーチでは「性犯罪・性暴力をなくすために」として、シリーズで性犯罪・性暴力の現状や無くすための取り組みを紹介していますが、加害者に対する次のような声が寄せられました。

「性犯罪は再犯率も高いので、刑自体も重くすることを願う」

「常習犯の顔や名前・手口の紹介をする」

このように加害者に対して厳しい対応をとるべきだという指摘がありました。
一方、国はことし6月、刑法を改正。受刑者の刑務作業の義務化を廃止して、今後はより「更生」に時間を費やす方向に舵を切りました。背景には再犯者の割合を示す「再犯者率」の高止まりがあります。自分の罪に向き合わず、悪いことをしたという認識が低いままでは思い刑罰を与えても効果が薄いという指摘があります。性犯罪にも当てはまることがあるという指摘があります。

そうした中、今回、取材チームは、福岡刑務所で行われている性犯罪の再犯防止のプログラムの現場を取材しました。

(写真 取材に応じた受刑者)

取材に応じた受刑者

【受刑者のひとりが取材に応じた】

取材したのは福岡刑務所です。約870人が収容され、そのうちの50人が性犯罪の更生プログラムの対象者です。プログラムを受けた受刑者のひとりが取材に応じました。

この受刑者は強制わいせつや盗撮などの性犯罪を繰り返してきました。

(受刑者)
「(アダルト)ビデオを見て、これだったら自分もできるかな、自分もやってみたいという好奇心が出てきたところですね。それでやってみて、今回に至ったと言うことです」

プログラムはなぜ性犯罪を起こしてしまうのか、原因を探り、再び繰り返さないための対策を探るのが目的です。教育専門官とカウンセラーに加え、同じ性犯罪の受刑者8人が参加し、グループワークで討論を重ねます。

なぜ、性犯罪を起こしてしまったのか。それぞれの生い立ちまでさかのぼって、原因を探るのです。

社会で孤立してきた受刑者が、自分のことを他人に打ち明ける行為自体が犯した罪に向き合うことにつながるといいます。

(写真 グループ討議が行われる部屋 等間隔で円形に置かれた椅子)

グループ討議が行われる部屋 等間隔で円形に置かれた椅子

対話は1回およそ100分。9か月の時間をかけて70回の議論を繰り返していきます。

この受刑者は盗撮などの性犯罪について自分の考えが偏っていたことに気付きました。

(受刑者)
「いろいろ女性と話す機会があっても、自分の好きという気持ちをうまく伝えられずにそういうことができないので、女性の顔をスマホで隠し撮りして気づかれないようにする。女性に気づかれなければ女性を傷つけることもないし、自分の欲望を満たせる」

【“認知のゆがみ”に気づくこと】

受刑者の意識の中にあった「気付かれなければ相手を傷つけない」。
こうした捉え方は「認知のゆがみ」と言われます。ほかにも「ミニスカートをはいていたので女性から誘ってきた」「被害者は本当は嫌がっていない」など、自分に都合よく考えることです。

「認知のゆがみ」があると、自分の犯罪を認識できません。
このゆがみを取り除くことが再犯防止につながると考えられています。

(カウンセラーの話)
「率直な話ができるようになってくると、その人の素が出てくるわけなんですよね。
メンバー同士でお互いの問題を指摘し合ったり、ほかの人の話を聞いたりして、何々さんのその考えって俺にもある、というふうに気付いてですね。
でもそれってまずいよねっていう形で気づきにつながっていくっていうような流れになっていくことで、認知のゆがみの修正っていうのは徐々に進んでいくのかなと思います」。

討論を重ねる中で、何をきっかけに犯罪を起こしてしまうのかも探っていきます。
子どものころ、父親から暴力を振るわれ、学校でいじめを受けていたというこの受刑者。
対人関係のストレスがたまると、犯罪の「引き金」になることがわかりました。

(受刑者)
「ストレスがたまって気分がむしゃくしゃしてるときに、性欲を発散することで自分のストレスを飛ばしていたんです」

9か月のプログラムを終えた受刑者。
ようやく自分の犯した罪が悪質で卑劣な行為だと認識することができたといいます。

(受刑者)
「犯罪を起こしたというのは本当に自分の欲求・エゴを力づくで通すという、本当に人を傷つけることであるということをあらためて気づきました。被害者となった方の心にまでは寄り添えていないかったということを深く反省しています」

この段階にたどり着くことが再犯を防ぐ一歩だといいます。

(カウンセラーの話)
「再犯防止が進んでいくには、対象者が人の立場になって物事を考えることができる、理解することができるっていうようなことが、自分の暴力的な行動を抑止する役割になるんじゃないかなっていうふうに思います」。

このプログラムの効果について国が検証した資料です。

(写真 法務省「刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析結果について」)

法務省矯正局の分析データ

性犯罪者約1400人を対象に、プログラムを受講したグループと受講しなかったグループを比較すると、出所後3年以内の再犯率は受講したグループの方が7.5ポイント低くなっていました。国は「抑止効果を確認できた」としています。
しかし、現場ではプログラムだけでは不十分だと感じています。

(教育専門官の話)
「本人の問題性が完全に除去されるということはないと思っています。
社会に戻っていく上で必要なのは、自分の問題と向き合い続ける、一生かけて向き合い続けるというところが必要なこととなってくるかと思います」。

そのためには、出所後の環境も重要だと言います。

(教育専門官の話)
「社会の受け皿についてなんですが、やはり、われわれも彼らと同様だと思います。
1人で生きていくことはできないと思います。
ですので、社会復帰するにあたって就労先であったりとか、住む場所であったりもそうですし、相談できる相手がいるかどうかというところも重要だと思っています」。

(取材後記)

実は取材する前は、厳罰化すればいいと思っていました。
実際、受刑者と話してみると、社会の中で「孤独」に生きてきて刑務所の中で初めてしっかりと他人と交流する機会を与えられ、自分の罪と向き合えたのではないかなということを感じました。こうした機会が社会の中でもっとあれば、防ぐことができた犯罪もあったかもしれないと思いました。
社会での対策も用意されています。
福岡県では全国で唯一「加害者の相談窓口」が設置されています。
本人だけでなく、家族や友人の相談も受け付けています。

「福岡県性暴力加害者相談窓口」
電話092-289-9398(※福岡県在住の人に限ります)

被害者の不安や悩みはとても深刻です。こちらも相談窓口があります。

「性犯罪・性暴力被害 相談ダイヤル」#8891(=はやくワンストップ)お近くの性暴力被害者支援センターにつながります。

性犯罪、性暴力をなくすためには、加害につながる要素を減らす地道で継続的な取り組みが必要だと感じます。

引き続き、みなさんの意見を聞かせて下さい。

黄在龍 記者 2016年NHK入社
新潟局を経て福岡局で県警キャップを担当
現在は、報道局社会部で取材にあたる


追跡!バリサーチ「性犯罪・性暴力 なくすために」