真夜中に開く あんこ専門スイーツ店
「あんこ好きにはたまらない店」。
「レアな甘味処っていうイメージ」。
ある甘味処について聞いたところ、こんな声が聞かれました。
店の名は「よなよなあん工房」。
佐賀市の閑静な住宅街にある"あんこ専門”のスイーツ店で、その名のとおり夜に開く小さな甘味処です。一部では都市伝説と噂されるほどめったに開かない店で、いつ開くのかは誰にもわかりません。
店主は自称「あんこの変態」 しかも昼間は会社員!
店を営む岡垣貴憲さんです。1人で店を切り盛りしています。
本業は会社員で、昼間は広報やデザインの仕事をしています。
自称・あんこの変態。
もともとあんこが好きでしたが、ある日の残業中、羊羹を丸ごと1本ペロリと平らげたところ、同僚が驚愕したことをきっかけに「あんこが好きだ」ということを強く自覚したのだそうです。店を開く前は、毎日なにかしらあんこ菓子を食べては、ブログにアップするということを趣味として楽しんでいました。
「変態的にあんこを食べてたんですよね。毎日、あんこを食べてブログを書くみたいな生活をしていたんです」。
ちょうど同じころ、岡垣さんの行きつけだった食堂が移転することになりました。
食堂の主人から空き店舗で「なにかやってみないか」と誘われ、あまり深く考えることなく店をやってみることにしたそうです。
「ここで、なにかやってみないか、と言われ、その場で即答で“楽しそうですね”と。1回、あんこ作ってみようかな」。
7年前に副業として「よなよなあん工房」をオープンさせました。
試行錯誤の末にたどり着いた「あんこ」
とはいえ、開店当初は全くの素人で、あんこのお菓子を食べるのが好きだったものの、あんこを作ったことはありませんでした。お菓子の本やあんこの出てくる映画、ネットの情報などから作り方を学び、試行錯誤を重ねました。
「あんこで爪痕を残したいなという思いがありました」。
試行錯誤の末、小豆本来の味を損なわない、優しい甘さのあんこが作れるようになりました。
「1番手間のかかるレシピを参考にしています。なるべく手間をかけた分だけおいしくなるような」。
開店告知はSNSで
お店はいつ開店するのか、日時は全く決まっていません。
会社員としての仕事が終わってからの準備となるため、開店はどうしても夜遅くになります。開店予告はインスタグラムなどのSNSで直前に通知します。
店前に大行列が!
わずか30分後。
店の外には開店を待つ人の大行列ができていました。
「ツイッターできょう開きますと聞いたんで(来てみました)」。
「これは“神のお告げ”ということで参りました」。
人々を虜にする”あんこ”
この日の開店は23時でしたが、10席の店内はあっという間に満席に。
食べた人に聞いてみると・・
「罪の味」
みなさん、真夜中に甘い物食べて大丈夫ですか?
「小豆だから大丈夫。体に良いから大丈夫」。
「ラーメンだと罪悪感やばいんですけど、あんこ、いいあんばいですよね」。
(岡垣さん)
「一般的に考えると無しじゃないですか、夜中に甘い物って。“佐賀では飲んだ後にぜんざいさらさらっていくんだよ”って、そんな文化が出来たら楽しいかなって妄想したことはありますね。」
この日、開店の告知に気づき、福岡県や熊本県から来ている人もいました。
長い人で3時間待ちでしたが、食べる人の表情は幸せそうでした。最後の客が帰ったのは、朝4時でした。
昼間も食べるチャンスが?
岡垣さんの活動の場は夜の店に限りません。お店に来られない人のためにと、週末は各地のイベントにおもむき、出店しています。やはりここでも行列が・・。
小さい子どものいる家族連れなど、夜中に出歩けない人にもおいしいあんこを味わってほしいという思いからです。出店の依頼があればなるべく断らないようにしています。
岡垣さんが作るやさしい甘さのあんこが、人々にひとときの幸せをもたらします。
取材後記
岡垣さんのあんこは評判を呼び、今ではパン屋や飲食店などに作ったあんこを卸すほどの人気ぶりです。多くの人々を虜にするあんこですが、仕込みなどすべて自分ひとりで行うことから、時間が足りず、最近はほとんど夜のお店を開けられずにいます。お店に行ってみたいという方は、ぜひSNSをチェックして開店告知をお待ちください!(カメラマン 北島大和)