ウクライナ侵攻から2年 現状と今後は

NHK
2024年2月22日 午後4:46 公開

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって24日で2年。この2年を振り返るとともに、ロシアの外交安全保障政策が専門の笹川平和財団主任研究員、畔蒜泰助(あびる・たいすけ)さん、侵攻以降、継続的にウクライナで取材した別府正一郎キャスターとともに、この2年を振り返り、現状そして今後の行方を考えます。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で2024年2月21日に放送した内容です)
 

・2年を振り返る“キーワード”

望月キャスター: 改めてこの2年を振り返ります。

おととし(2022年)2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始。およそ1か月後、首都キーウ近郊のブチャでロシアによる残虐行為が発覚します。9月にはウクライナ軍が東部ハルキウ州で電撃的な反転攻勢に成功しました。そして去年(2023年)6月、ウクライナ軍が大規模な反転攻勢に出ますが、11月には当時のザルジニー総司令官が「戦況はこう着状態だ」と指摘します。

欧米の支援疲れの広がりも指摘され、アメリカ議会ではウクライナ支援の予算が暗礁に乗り上げたまま。そして2月にはザルジニー総司令官が解任され、東部の要衝アウディーイウカからの撤退も余儀なくされています。

ロシアによる侵攻はもう2年となり、ウクライナでは大勢の方が犠牲になっています。畔蒜さんは、この2年に及ぶ侵攻をどのように振り返られますか?
 

畔蒜さん: 私は、「核の脅し」というキーワードが、この2年間を理解するものだと思っています。現在、戦況がこう着状態に陥っている最大の理由は「ロシアの核の脅しが効いている」ということだと思います。プーチン大統領は、侵攻開始直後から核の使用を示唆し、それによって西側をけん制するということを繰り返しています。  

畔蒜さん:西側からすると、核の問題がある中で過度なエスカレーションを回避したり警戒したりすることから、ウクライナへの軍事支援が後手に回っている。今から振り返ると、2022年秋以降、ロシアがウクライナ南部に築いた強固な防衛線が、今回こう着状態になる上で、非常に大きかったと思います。
 

畔蒜さん:ウクライナ側としては、防衛線が引かれる前に南部地域の奪還するプランを当初立てていたということですが、西側が過度なエスカレーションを警戒する中で、必要な装備、特に戦車をタイミングよく供与できなかった。防衛線が築かれた後に戦車が供与され、結果的に周回遅れの形になり、今日のこう着状態に陥っています。プーチン大統領の核の脅しが効いてしまっていると思います。
 

望月キャスター: 別府さんはいかがでしょうか。

別府キャスター: 私が用意したキーワードは「犠牲と破壊の長期化」というものです。

当たり前のことですが、軍事侵攻が一日でも長く続けば、その分民間人の犠牲や、インフラの破壊は多くなります。
 

別府キャスター: 実は、私はウクライナでの取材のあとも、携帯にウクライナの空襲警報を知らせるアプリをずっと入れたままにしています。空襲警報が出るとアプリが連動して、地図の上にミサイルが着弾するおそれのある場所が赤くなるのですが、この2年間、このアプリが作動しなかった日は事実上なかったと思います。つまり、ウクライナの人々はこの2年間、絶えず「いつミサイルが撃ち込まれるかもしれない」という恐怖にさらされながら過ごしてきたということだと思います。
 

・苦戦を強いられるウクライナ軍

望月キャスター: 絶えず恐怖にさらされていた2年間だったということですね。

次に戦況の変化について伺います。ウクライナ軍は反転攻勢が行き詰まりザルジニー総司令官を解任し、東部アウディーイウカからの撤退も決めました。別府さん、ウクライナは非常に厳しい立場にあるように見えます。
 

別府キャスター: そうですね。1年目が“反転攻勢”だったとすれば、現状は“守りを強いられている状況”といっていいかと思います。

ウクライナはいまだ国土のおよそ20%近くが依然奪われたままです。東部ではアウディーイウカのように、ロシア軍が徐々に支配地域を広げています。こうした状況について、ウクライナの軍事問題の専門家・ムシエンコさんに、きのう(20日)の午後、オンラインでお話を聞きました。
 


別府キャスター: 戦況の変化をどう見ていますか?

ムシエンコさん: 残念ながら、ウクライナ南部およびクリミアにおいて、占領された土地を解放するためにすべきことは数多くあります。東部ではロシアの攻撃を止める必要があり守りに追われています。
 

別府キャスター: 東部の防衛線は守りきれますか?

ムシエンコさん: 東部の前線には十分な武器がなく、大砲の砲弾が足りません。われわれはヨーロッパからより多くの迫撃砲や砲弾、弾薬など、必要なものが供給されるのを待っています。
 

ムシエンコさん: この戦いが“消耗戦”ということならば、ロシアを阻止し、ダメージを与えるためにできるだけのことをするのは重要です。われわれにはロシアを止め消耗させる必要があります。
 

別府キャスター: 国内世論について、どう分析していますか?

ムシエンコさん: 戦争が長引き、少し落胆しています。長期戦ですから、特に前線は疲弊しているようです。経済や生活の面で問題もありますが、ロシアの攻撃を止めるために耐え続けなければなりません。なぜなら、ロシアもわれわれの意志をくじこうとしているからです。


別府キャスター: ムシエンコさんには、2022年9月のハルキウでの大規模な反転攻勢のあとなど、たびたび現地でインタビューをしました。今回のインタビューでは、反転攻勢よりは、これ以上攻め込まれないように守りを固めることが差し迫った課題だと指摘していて、この2年間の変化を感じました。
 

・戦時下のロシアの状況

望月キャスター: 畔蒜さんに伺います。侵攻開始から2年、ロシアに対して欧米による強力な経済制裁も続いています。

「ウクライナでは、戦闘の長期化で世論が少し落胆している」と、ムシエンコさんがお話しされていましたが、2年間戦時下にあるロシア、この状況はどれくらいの影響を及ぼしているのでしょうか。
 

畔蒜さん: 去年(2023年)の10月と12月にモスクワを訪れましたが、レストランなどに行っても多くの若者がそこにいて、少なくともモスクワに限って言えば“戦争の影”はほとんど感じません。戦時経済への移行が進み、当面の状況に適応していると思います。
 

畔蒜さん:軍事面でも、武器弾薬の生産体制が徐々に整いつつある。プラス、北朝鮮やイランから武器も入ってくるようになっている。もちろん、この戦時経済体制は、長期的に見れば必ず副作用が出てきますが、ただ当面の2、3年を考えると、ロシアは戦争を継続できるし、当面この状況をマネージできると思います。

大事なのは、西側がそれを越えてウクライナを支援し続けられるか、それが今後の焦点になると思います。
 

・停戦をめぐる議論

望月キャスター: 軍事侵攻が長期化する中、停戦をめぐる報道も出てきています。ロイター通信は「プーチン大統領が2023年、仲介国を通じて停戦を検討する用意があるとアメリカ側に伝えた」と伝えました。さらに、トランプ氏に近いアメリカの元キャスターとのインタビューで「戦闘を止めたいなら武器の供与をやめるべきだ。そうすれば数週間で終わる」と述べています。

畔蒜さんは、プーチン大統領のねらいをどのように分析されますか。
 

畔蒜さん: プーチン大統領のねらいは、そもそもアメリカと直接ディール(取引)をする事だと思います。ウクライナではなく、アメリカです。

畔蒜さん:この戦争は、西側がロシアを弱体化させるために行っているものだという認識で、「西側が支援をやめれば、この戦争はすぐ終わる」というのが、プーチン大統領の持論です。この持論そのものが、そもそも本末転倒ですが、戦況が今、ロシアに有利に傾いていることもあり、西側、特にアメリカに支援を諦めさせようと、盛んにシグナルを送っているということだと思います。
 

畔蒜さん:ただ、私はこの“停戦”というのは、ウクライナが西側の支援を受け、ロシアに軍事的な圧力をかけ続けられるからこそ、その余地が出てくるものだと思います。逆に、西からの支援が止まったらロシアの占領地が拡大し続けるだけですので、軍事的に圧力をかけ、一定のバランスがとれているからこそ、ロシアもどこかの段階で、ウクライナの利害も考えた上での停戦を考えざるをえなくなる。

よく、“停戦か支援か”という“二者択一”の議論がありますが、停戦の議論と支援の継続は、実は矛盾するものではないと思います。
 

望月キャスター: 別府さんは、停戦をめぐる議論はどのように見ていますか。

別府キャスター: まず言うまでもないことですが、侵攻を始めたのはプーチン氏であり、続けているのもプーチン氏です。国連の報道官も、「この戦争は、プーチン氏が止めると決めれば終わる」と明言しています。これが大前提だと思います。

そのうえで、即時停戦の議論をめぐり、ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナ側はしばしば、「停戦すれば、つまりウクライナが抵抗を止めたら、果たしてそれで平和が訪れるのだろうか」と問いかけています。というのも、プーチン氏が停戦と言っても攻撃をやめる保証はなく、占領されている地域での人権侵害も懸念されています。
 

別府キャスター:さらに、いったん停戦で攻撃をやめても、また力を蓄えて攻撃するかもしれないという懸念も、ウクライナ側では強くされています。例えば、あえて犯罪に置き換えて考えてみると、今目の前で犯罪行為が起きて被害を受けている人に対して、「我慢したらどうですか」「抵抗を止めて諦めたらどうですか」というのはおかしなことです。犯罪行為をしている方に「止めろ」というのが大切です。

やはり、プーチン氏がこれ以上攻撃を続けるのをためらうような状況を作れるかどうかがカギと思いますが、それは、制裁や外交、そして抑止力でもあると思います。突き詰めれば、ウクライナへの国際的な連帯をどれだけ維持できるのか、国際社会の一層の努力が求められている。国際社会が試されている局面になっていると言えるのではないでしょうか。
 

・今後の焦点

望月キャスター: 最後に、今後の注目点を簡単に伺います。
 

畔蒜さん: 今後の焦点は「アメリカの大統領選」です。ウクライナ支援をめぐり大きく影響を与える選挙だと思います。実際に今、議会で共和党と民主党が大統領選を目前に駆け引きを繰り広げる中で、ウクライナ支援に関する法案がストップしていますので、このハードルをクリアできるかが1つ。
 

畔蒜さん: その先には、トランプ氏の当選という“もう1つの崖”が待っているかもしれないことも含め、プーチン大統領としては、今のバイデン政権と駆け引きを繰り広げながら、さらにその先の“崖”も見据えてアメリカを見ているということだと思います。
 

望月キャスター: 別府さんお願いします。

別府キャスター: 私は、「悪しき前例にしてはならない」ということです。仮に、今回侵攻したロシアが勝利して領土を奪うことができたら、世界にとっての意味を考えると「核で脅して武力を行使すれば領土は奪える」という悪しき前例になってしまう懸念があります。

東アジアに目を転じてみると、中国の習近平国家主席は、台湾をめぐって平和的な統一を追求するものの、武力行使も辞さない姿勢を示しています。とりわけ、アジアに暮らす私たちにとっても決して他人事ではないはずです。

世界は、第2次世界大戦以降、様々な問題はありましたけれども、曲がりなりにも武力による威嚇、武力の行使を禁じるという国連憲章のもとでやってきました。今こそ、その原則に立ち返る必要があるように思います。
 

望月キャスター: ありがとうございました。ここまで、まもなく2年を迎えるロシアによるウクライナ侵攻について、笹川平和財団主任研究員、畔蒜泰助さんと、別府キャスターと共にお伝えしました。
 

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