太平洋戦争の終戦から78年。戦争を直接経験していない人が大多数となる中、平和を守り続けるため過去の記憶をどのように次世代につないでいくかが大きな課題です。そんな中、若者に戦争をリアルに感じてもらおうと最新技術を駆使したプロジェクトが進められています。“ギャル雑誌”のモデルとして活躍しているZ世代、みりちゃむさん(21)が体験しました。(「Z世代と“戦争”」ディレクター・横山康博)
「戦争を見て、触って、感じ、未来につなげる」
みりちゃむさんが訪れたのは、東京大学大学院・渡邉英徳教授の研究室です。
戦争を“見て・触って・感じ・未来につなげていく”ことをコンセプトに研究をしています。
<みりちゃむさん>
すごい!一面に映し出されている。
最初に紹介してもらったのは、ウクライナの市民が撮影した写真に特殊な3D加工を施した画像です。通常の写真よりも、実物が目の前にあるような没入感が得られるといいます。家、学校、図書館など、当たり前にあった日常が戦争によって一瞬にして廃墟になるというリアリティを感じてもらうことが狙いです。
<渡邉英徳さん(東京大学大学院教授)>
(上の)写真の図書館はみんなが好きだった場所なんです。でも本棚も崩れ、本も散乱して見る影もない。こういう現状に触れる機会をなんとかして作れないかというのが始まりでした。ウクライナに住んでいる人たちのリアルを感じてもらえればと思っています。
<みりちゃむさん>
こういう状況の中、今も生活をしている人がいるって思うと胸が痛い。戦争っていうと「戦車が出てきて戦っています」とか、偉い人が出てきて「あっちが悪い」とか言っているだけのイメージだったけど、市民の生活にこんなにも影響が出ているんですね。言葉が出ない・・・
「没入感」で戦争を自分ごとに
戦争をより“自分ごと”にできないか?そんなアプローチを続けているのが、渡邉研究室の大学院生の小松尚平さん(34)です。
小松さんが挑むのは、渡邉教授が3D加工した写真の中にVR技術を使って“入り込む”こと。
みりちゃむさんもVRゴーグルをつけて体験させてもらいました。こちらの画像は、ロシアの侵攻により破壊されたウクライナの民家です。
<みりちゃむさん>
触れそうだもん・・・。自分がそこにいるかのようで、(普通に画像を見ているときは)どこか遠くから見ている感じだったけど、(VRだと)自分の視点がそのままだから本当にウクライナにいるみたい。これすごいな。
<小松尚平さん>
3Dのリアルさと自分の視点が合わさることで、“見る”だけでなく“体験する”という感覚になってくれれば。どこか遠くで起きている他人事だとは思わないんじゃないか、と考えているんです。
実は小松さんは、もともと認知症やうつ病の患者の認知機能の向上にVRを活用する研究をしていました。そんな時、たまたま渡邉教授の戦争に関する展示を見て、自分の研究と戦争を掛け合わせれば、より多くの人に戦争をリアルに感じてもらえると考えたのです。
自分の分身が写真に入り込む!?
小松さんがみりちゃむさんに、ぜひ体験してほしいと紹介してくれたのは・・・
<みりちゃむさん>
なんかちょっと形が違うプリクラっぽいですね_。失礼しまーす!_
この装置の内部には28台のカメラが組み込まれていて、みりちゃむさんの全身を撮影することができます。
10分後、髪の毛や服装までそっくりなアバターCG(分身)ができあがりました。
このアバターを昔の戦争の写真に合成し、あたかも自分がその場にいるかのような体験をつくりだすのが小松さんの研究です。
さきほどのみりちゃむさんのアバターを、原爆投下直後の広島の写真に合わせたのがこちらの画像です。単なる合成写真ではなく、アバターを写真の中で歩かせたり、自由に動かすことができます。
<みりちゃむさん>
普通に写真みてやるよりアバター作ってやるほうが「入っちゃえ!」って思うから。こっちのほうが興味もちやすい。
最初に紹介したウクライナのようなVRをつくるには、同じ場所を様々な角度から撮影し、複数の写真を組み合わせて3D加工することが必要です。そのため太平洋戦争などの過去の写真は、VRのようなリアルな空間を作り出すことが難しいといいます。
どのようにして、古い写真から当時のことをリアルに伝えるかが、小松さんの課題でした。
<小松尚平さん>
私が太平洋戦争の当時の写真を見たときに、無機質な感じがして何をどう見たらいいか分からなかったんです。今のZ世代はSNSなどで自分や友だち、ペットなど“自分に関係ある写真”に多く触れています。そのため自分とは関係のない写真には興味が持ちづらい。でもアバターという自分の分身があれば少なくともアバターの周りには興味が持てる。自分が歩いている道、その周りのがれき、隣に映っている人など、自分を中心に写真を見るようになるのではないかと思ったんです。
小松さんは今後この技術をさらに発展させ、ひとつの写真の中に複数の人のアバターを組み込んで、体験者同士で意見を交わしてもらうなど、新たな体験を作り出せないかと話していました。
取材を終えて
印象的だったのは、みりちゃむさんが、自分のアバターが原爆投下直後の広島に入り込んでいるのを見て「すごく興味深くて見入ってしまった」と話していたことでした。様々なコンテンツに囲まれて暮らしている若い世代に、戦争に目を向けてもらうことは簡単ではないと思います。しかしアプローチ次第ではもっと興味をもらえるのではないかと、今回の取材で感じました。今後、戦争に関する番組を作る上でもヒントをもらったようで、私自身も勇気づけられました。