わが子が“闇バイト”に手を染めるとき

NHK
2023年9月14日 午後1:00 公開

(2023年8月27日の放送内容を基にしています)

<急増する闇バイト 疑心暗鬼に陥る親たち>

この社会で、闇バイトによる犯罪が急増している。

都内の探偵事務所には今、わが子の素行を調査してほしいと依頼が相次いでいる。

なぜアルバイトで稼げる以上の金を持っているのか。疑心暗鬼に陥る親が増えているという。

探偵「(自分の子供が)何を考えていて、何をするのか。本当に予測がつかないのかなと」

強盗や特殊詐欺など、連日のように報じられる闇バイトをきっかけとした事件。実行犯の多くが、10代から20代の若者だ。

「いま、若者たちの世界で何が起きているのか」

「なぜ若者たちは、犯罪の一線をやすやすと越えてしまうのか」

私たちは全国各地をまわり、当事者やその家族を取材した。

多摩少年院/10代(特殊詐欺)「指示されているだけだし、自分から起こしている罪、暴力とは違って、誰も傷つけていない感覚が強かったりしたので、罪悪感とかは何も持てなかったです」

親から見えないところで、広がり続ける闇バイト。闇に飲み込まれていく若者たちの実態に迫る。

<“どうして息子が・・・” 突如突きつけられたわが子の犯罪>

私たちが取材を始めたのは、滋賀県内で起きた、2年前(2021年)の交通事故がきっかけだった。

高速道路で、路肩をはみ出して停まっていた軽自動車。5人の若者が乗っていた。大型トラックに追突され、車両は大破。2人が死亡した。

亡くなった当時18歳の健太(仮名)。事故の2か月前に大学に入学し、1人暮らしを始めたばかりだった。

「自分たちのような思いを誰にもしてほしくない」と、父親が取材に応じた。

父親「あんまり認めたくないっていう部分があるのかもしれないです。事実を」

父親が息子の知らない姿に直面したのは、事故の翌日、アパートを訪ねた時だった。

不自然なほど大量にあったSIMカード。詐欺のマニュアルのような紙もあった。

父親「正直怖かったです。まさか、みたいな。思考停止に陥るというか。考えたくもないし、考えてもわからないし、目を背けてしまいます」

事故は、健太の父親が想像だにしないてんまつをたどった。

大破した車のトランクから、盗まれた金庫が見つかったのだ。車に乗っていた5人は、闇バイトでつながっていた。そして、事故直前に高齢者の住宅に侵入し、窃盗を行っていたのだ。

健太の母親が事件の裁判を傍聴し、書き取ったメモ。

「最初はツイッターでつながり、その後、メッセージが自動で消えるテレグラムを使ってやりとりしていた」

「互いを『ピーナッツ』『クイーン』など、アカウント名で呼び合い、息子は『西田』と名乗っていた」

犯行を実行した5人は、10代から20代前半。指示役の男から情報を得て、大阪から名古屋へ向かい、金庫を盗み出した。22歳の男に懲役2年6か月、その他の2人に、執行猶予付きの判決が下された。

事故のあと、健太は、仕送りした生活費にほとんど手をつけていなかったことがわかった。父親は息子の動機が全く思い当たらなかった。

父親「普通に生活していれば、そういった誘惑とかに巻き込まれないはずなので。何も分からないことを抱えたまま、ずっと生活していくのもつらいですから、やはり真実を知りたいと思いました」

健太は、結婚して7年目に授かった待望の1人息子だった。幼い頃から電車が好きで、優しい性格だった。中学からは有名私立学校に進学、生徒会長も務めた。思春期を迎えても、よく一緒に旅行に出かけた。

リビングに大切に写真を飾っている広島への親子2人旅は、忘れられない思い出だ。

父親「だいたい晩ご飯何食べたかって聞くことにしていて」

1人暮らしを始めてからも、頻繁に連絡を取っていた父親。異変は特に感じていなかったという。

<闇バイトに至るまで一体何が>

息子はなぜ闇バイトに手を染めたのか。

父親はネット上で、あるものを発見した。健太がユーチューブに投稿した動画だ。

「僕は将来、何としても金を稼いで毎日1000円のラーメンが食えるくらいの金持ちになりたい」(YouTube)

高校生の頃からひそかに投稿していた動画は700本以上。そこで健太は、強い承認欲求を口にしていた。

「どんどん売れていかないとね、とりあえず知名度がほしい。将来的には絶対(登録者数)10万人いきたいと思ってるんで、なんとかして有名になります」(YouTube)

2年前の2021年4月。健太は有名私立大学に入学。すると、親にも知らせず、思い切った行動に出る。髪を明るく染め、ホストとして働くようになっていたのだ。その理由の一端を動画の中で語っていた。

「久しぶりに学校行って思ったことは、自分の会話力があんまり上がってないなっていうこと。本当に今進まないと、これからは変わらないからね」(YouTube)

しかし、健太は他のホストのような軽妙なトークが出来ず、成果をあげることができなかったという。

その頃の様子を、近所の飲食店の店主が覚えていた。

飲食店 店主「朝方くらいに若い子がベンチで座っていて、その時間帯に誰かがいることがなかったので、僕もびっくりして。なんか悩んでいて、話して楽になるのであればと、話をさせてもらったときに、『まだ始めたてで、仕事が覚えられない』みたいな。精神的に疲れているのかな、みたいな。そういうところが見受けられた」

働き始めて3週間後の4月末、健太はホストを辞めた。

その後、友人との連絡も滞りがちになっていた。事故で亡くなるまでの1ヶ月、どのような日々を過ごしていたのか。

ホストを辞めた1週間後、健太は自らの本人証明書を送り、闇バイトを始めようとしていた。メッセージがすぐ消えるテレグラムで、ネットの向こう側にいる何者かとやり取りしていた。

しかし健太は、いざと言う時のためか、相手とのやりとりの画面を保存していた。

健太は、相手に対して繰り返し同じ言葉を送っていた。

「もう一度言いますがとりあえず5月末までと言うことでお願いします」

「ネットとかで辞めると言ったら脅されるとか言うのを聞くので そう言うの怖くて 5月末までと言うのを念押ししておきます」

父親「やる前から怖いからやりたくないけど、ちょっと興味本位がみたいなのがあったのか、そこは分からないですけどね」

「金持ちになって有名になりたい」と言っていた健太が、闇の世界に入ったのは、承認欲求の延長だったのか。

警戒心を持ちながら、なぜ一線を越えることになったのか。

闇バイトを始めて3週間後、健太は誰にも告げることなく、名古屋へと向かった。

<なぜ若者たちは闇バイトに手を染めるのか>

SNSを入り口に、「高収入」「即日即金」など、甘い言葉で犯罪にいざなう闇バイト。金品を狙った強盗や、現金やキャッシュカードをだまし取る特殊詐欺などの実行役が集められている。

警察庁によると、2022年、特殊詐欺に関わって検挙された2458人のうち、66%が10代から20代の若者だった。

今回私たちは、龍谷大学 矯正・保護総合センター 浜井浩一センター長とともに「闇バイト」に関するアンケート調査を実施した。対象は、罪を犯したおおむね20歳までが収容される、全国の少年院。587人から回答を得た。

「闇バイトをしたことがある」と答えたのは、120人。動機として最も多かったのが、「遊ぶ金が欲しかった」。全体の45%を占めた。

家庭の経済状況をたずねると、66%が「平均以上だった」と回答。生活の苦しさと関係なく、闇バイトに関わる若者がいることがわかった。

さらに、闇バイトを犯罪だと認識していたのは、8割近くにのぼっていた。

<罪とわかりながら闇バイトに手を染めた理由>

罪と認識しながら、若者たちはなぜ、闇バイトに手を染めるのか。私たちは、その理由をさらに掘り下げることにした。

全国各地の少年院と交渉した結果、1人の若者が、「罪と向き合い更生したい」と、取材に応じた。

教官「なんで特殊詐欺に関わったのか。そのきかっけになったのは何か」

美咲「誘われたから。『いいお小遣い稼ぎがあるよ』っていうふうに」

美咲(仮名)。特殊詐欺で、高齢者からキャッシュカードをだまし取る役割などを担った。高校生の頃、4件の犯行に関与し、被害額は100万円以上にのぼった。

教官「自分にはどういう指示がきていた?」

美咲「かけ子の人から『今おばあちゃんに電話して、何時に行くよと言ったから』とか、指示役の人とイヤホンでつながっていて、おばあちゃんちに行った時に、指示された言葉を言ったり・・・」

教官「グループの中で役割分担があるんですね。でも、受け子とか出し子、この役割をする人がいなければ、特殊詐欺そのものは成立しないじゃない?」

美咲「はい」

教官「どう思う?そのことを」

美咲「その時は、やらされているっていう、強い自分の気持ちがあったらから、そのグループの一員とか関係ないと思っていたけど、今こういう勉強とかしていたら自分も最低だなって」

なぜ娘は闇バイトに関わってしまったのか。美咲の母親は自問自答を続けている。そして最低限の償いとして、被害者への賠償金の支払いを進めている。

父親「子供のことを当たり前に全部知っていると思っていた。でも知らない部分がいっぱいあった」

母親「何がいけなかったのか、親として、人間として。さきざきどう正していけばいいのかとか」

家族思いだった長女の美咲。毎年、海にいくのが恒例行事で、夏になるのを心待ちにしていた。

将来の夢は、介護士。人の役に立ちたいと、熱心に勉強に取り組んでいた。

母親「人の嫌がることはしないよう、気持ちを大事に育ててきたつもりですが、やっぱり振り返れば悔しい気持ちにはなりますね」

母親は、娘が闇バイトをした2年前のことを悔やみ続けている。当時、夫とはすれ違いが重なり、別居状態だった。さらに、親の介護や仕事の資格試験が重なり、子供に向き合う余裕もなかったという。

母親「私がその時(資格)試験前とかで、本当イライラしている時期だったので、母親として話を聞いてあげる感じじゃなかった。家にいるときも言いだしにくいことは、結構LINEとかで伝えることがありました」

大事な会話も、スマホで済ませるようになっていた母親。美咲が家族の不仲に心を痛めていたことは、知るよしもなかった。

そんなある日。娘は見たことのないスーツを着て出かけようとしていた。不審に思った母親は、問いただそうとしたが、理由もいわず、出て行ったという。

その時交わしたラインのやりとりが残されている。

母親「『何で言うこと聞かないででていくの』って」

美咲からは、「知り合いと車に乗っているだけ」だと、連絡がきた。

母親「『どんな人?』って聞いて、『何か若くて優しい人だよっ』て」

その後、いつもと変わりない時間に帰ってきたため、それ以上は問い詰めることをしなかった。

母親「(娘が)『ごめんね』って言ってきたときに、私が『もういいから』みたいな感じで。自分に本当に余裕がなくて、無事に帰ってきたから大丈夫かなと、軽い気持ちがあった」

しかし美咲は、この翌日から特殊詐欺に関わることになった。

高校の先輩からの勧誘を断わり続けていたが、家族と暮らす自宅の住所を知られていたため、応じるしかなかったという。

美咲「ずっと断っていたけど、最終的に『家族がどうなっても知らない』と言われて。家族を巻き込みたくなかったから、自分が(犯罪を)することにしました。上には暴力団がいると聞いていたから、それで怖くなっていました」

あの日、男性とともに車に乗るだけだと言われ、自覚なく始まった闇バイト。徐々に重い役割を担わされ、親に相談することもできなくなったという。

美咲「相談したい気持ちもあったけど、もうしてしまったことだから、取り返しつかないから、どうしようもないかなと思って。してしまったことの重さ、大きさもあったし、お母さんも家のこととか仕事も大変そうで疲れていたから、その中で、また問題を言うのも申し訳ないっていう気持ちがあって」

それから1年後。美咲の母親は、突然家にやってきた警察官に1枚の写真を見せられた。

母親「ATMに立っている姿。『娘さんで間違いないですか?』って言われて、『間違いないです』って答えて。とにかく信じられない気持ちと、本人からの言葉が聞きたいという気持ちはありました」

母親は、毎年家族で遊びに行っていた海で、娘と向き合おうとした。

母親「『脅されたから、してしまった』って、『ごめんね』って言われて、私も言葉に詰まって。もっと早めに話しを聞いて止められていたら、こうなっていないし。この子のことも傷つけて苦しめることもなかったなっていう後悔・・・」

この翌日、娘は逮捕された。報酬は1円も渡されていなかった。

家族に危害を与えると脅され、断り切れなかった美咲。逮捕までの1年間で10キロ以上も痩せていた。

<“相談できない”につけ込まれる若者たち>

私たちが全国の少年院を対象に行ったアンケート調査。

「家族に悩みごとを相談できたか」という問いに対して、闇バイト経験者の6割が「相談できなかった」と回答。その内訳を見ると、「家族関係に問題はない」という回答と、「悪かった」という回答は、ほぼ半々。

「母に嫌われる、居場所がなくなるなどの怖さから」(19歳 特殊詐欺)

「一人で終わらせたかった」(18歳 強盗)

家族関係の善し悪しにかかわらず、相談できない状況があることがわかった。

かつて、SNSで闇バイトの実行役を集める“リクルーター”の役割をしていたという男性が取材に応じた。家族に相談できない若者の心理を利用して、引き込んでいたと語った。

元“リクルーター”「脅すだけでなく、寄り添うこともありますけどね。どうしたらいいか分からない、誰にも相談できないのがあって、親身になって相談に乗ったら、飛びついたりしますね。『俺は分かっているから、お前の気持ち分かってる』『でも、これをやったらお金は稼げるから』と言って」

さらにアンケートでは、全体の3割が「闇バイトを止めたくても止められなかった」と回答。

相談相手がいない中で、犯罪の首謀者たちに、言葉巧みにつけ込まれている実態が浮かび上がってきた。

<軽い気持ちから陥った悪循環>

親に隠れて闇バイトに手を染め、想像を超える悪循環に陥った若者がいる。

亮(仮名)、28歳。闇バイトの現実を知って欲しいと取材に応じた。

亮「お金があれば何でもできるし、幸せはお金でつかむものだと思っていた」

亮が闇バイトを始めたのは、在宅勤務が続いていたコロナ禍に知った、オンラインカジノがきっかけだった。

亮「1回に20万円は賭けたりしていました」

ギャンブルにのめり込んだ亮は、闇金にも借金するようになっていた。返済が滞った時に闇金からもちかけられたのが、自分の銀行口座を売る闇バイトだった。

亮「『(口座売買は)犯罪です』って書いていますけど、その使われ方次第だなと思っていたので。後ろめたさはありますけどね。でもその後ろめたさより、今のお金の欲しさ、お金の必要さが勝ってしまうのが全てですよね」

いまもネット上には、亮の免許証など、個人情報がさらされている。

何度も脅迫を受けた亮は、借金を返すために闇バイトを重ねていった。

亮の父親は、息子を更生させようと手を尽くしたが、限界があったという。

父親「(息子とは)同居していました。(借金の)立て替えもすごくしました。もう立て替えるお金もなくなってしまって」

父親は、スマホの位置情報で息子の行動を監視していたが、ネット上の動向まではつかめなかった。

父親「ネットでやられていたら、GPSなんか全然関係ないなって。僕ら全然そういう世界のこと知らないじゃないですか。僕らが知っているかぎりの中で対策はしたつもりだけど、それ以上に息子が分からない世界に行っていたんだと、そこで感じました」

亮「やってきたことの過ちは、どんどんエスカレートしていって、自分から命を絶とうと思ったこと、考えはある」

一度はじめた闇バイトから抜け出せず、追い詰められていった亮。警察に出向いて、取り調べを受けたあと、ギャンブル依存症のリハビリ施設で罪と向き合う生活を続けている。

亮「結局(親に)迷惑かけたくないと思って、自分でなんとかケツふこうと思ってやってることが、結局大火事になって、最終的には、もっと大きく迷惑かけてしまうことにつながるので、そこが全てなんじゃないですかね」

<闇バイトに手を染めたことへの受け止めは>

若者たちは、闇バイトをしたことをどう受け止めているのか。

「お金が手元に入ってきたら、罪悪感は消えていった」(19歳 特殊詐欺 口座売買)

「受け子だし、罪の意識はあまりない」(15歳 特殊詐欺)

「別に、どのようにも思ってない」(15歳 運搬役)

「やらされるだけやらされて、実際はお金も全くもらえない」(19歳 特殊詐欺)

多くの経験者が罪の意識を感じている一方、3割は罪悪感が乏しいままだった。

罪の意識なく闇バイトに手を染めたあと、失ったものの現実に直面している若者もいる。

拓也(仮名)、29歳。半年にわたって闇バイトを繰り返し、懲役1年8か月の実刑を受けた。闇バイトで手にしたのは、およそ10万円。その代償はあまりにも大きかった。

拓也「軽い気持ちの目先の数万のために、約2年を失ってるんで。今思えば、バカだったなって。生きてく上での90%は失いました。人間関係もしかり、信頼もしかり、仕事もしかり。もう全部ですよね」

コロナ禍で仕事を失った拓也。パチンコなどで借金をつくり、クレジットカード情報の不正使用などを繰り返すようになった。

拓也「仕事もプライベートもうまくいかない、お金も全然貯まらない、やりたいこともできない、何やってもうまくいかない。なんで自分ばっかり・・・。なんなんだろう自分はという気もちはたくさんありました」

逮捕されたあとも、自分の不遇を嘆いていた拓也。その考えが変わるきっかけがあった。

毎月、2通以上送られてきた父親からの手紙だ。自分の罪が、どれだけ家族を苦しめることになったのか、思い知った。

拓也「自分のことしか考えてなかったのが、ちょっとずつだけど周りも見るようになったきっかけです。周りはこんなに思ってくれていたんだって」

出所後、一から仕事を探し直し、家電修理の職を得た拓也。地道に稼ぐ姿を、家族に示したいと考えている。

拓也「本当に自分のことしか考えてなかったです、その時は。親もそうですし、少なくとも今は、自分の周りにいる人は、みんな裏切れないです」

<最後まで抜け出せなかった大学生>

交通事故によって、闇バイトをしていたことが発覚した健太(仮名)。

「闇バイトに足を踏み入れてしまった自分は、どう生きていけばいいのか」、亡くなる5日前に投稿された動画には、複雑な心境が語られていた。

「光の世界で金を稼いで生きて行くのか。闇の世界で金を稼いで生きていくのか。それがどっちがいいのかっていうね。もうそろそろ新しい世界に旅立たなければならなあかん。正直犯罪やりたくないんよね」_(YouTube)_

2021年5月29日。大阪で、闇バイトのメンバーと合流した健太。名古屋まで窃盗にいくことを知らされた。集まったのは5人だったが、レンタカーは4人乗りの軽自動車。健太にあてがわれたのは、トランクだった。

深夜、大阪を出た5人。翌日予定があった健太は、「帰らせてください」と何度も叫んだが、殴られ、黙らされたという。目的の民家の周辺に到着すると、健太は、インターホンを押し、不在確認することを命じられた。そして、それをきっかけに共犯者は民家に侵入し、金庫を盗み出した。動揺して、その場に立ちすくんでいた健太。そのまま置き去りにされそうになっていた。健太の隣には盗んだ金庫。入っていたのは、通帳と現金3万円だった。

事故が起きる2分前、高速道路に設置されたカメラの映像。車は、逃走中にガソリンが切れ、路肩を大きくはみ出して停まっていた。

事故の2時間後。健太は亡くなった。

「共犯者が死亡したことに対して思うことはあるか」。私たちの問いに対し、共犯者の1人が手紙で答えた。

「思うことは何もありません。皆、各個人の意志で自己責任で集まっていたので、共に犯罪をしていたことに対しても、謝罪の気持ち等は、一切ありません」

突然の死から2年。健太の父親は、息子が犯罪をしたという事実が頭から離れないという。

父親「やった後のことを本当に想像できていなかったんだろうなという気がします。どんな役割にせよ、まだ未成年であったので、親の責任は逃れられない。本当に申し訳ないという気持ち」

その一方で、取材からは、健太のもう1つの姿も見えてきた。

コロナ禍での大学生活で同級生が目にした健太は、積極的に教授に発言し、やる気がある子に見えたという。

<“親子の関係”をどう取り戻していくか>

特殊詐欺の闇バイトで捕まった美咲の母親。娘が少年院に送られてから、手紙を書くことが日課になっていた。

母親「私はできるかぎり、どうしたらちょっとでも気持ちが楽になるかなと思って、手紙もなるべく毎日送れるように」

「本当に相談に乗ってあげなくて、苦しい日々をすごさせてしまって、ごめんね。美咲をサポートしていきながら、心優しいママでいるから。何でも相談してね」

この日、美咲の両親は、娘がいる少年院を訪れた。娘の逮捕後、別居を解消し、再び一緒に暮らすようになった。

1回に30分、月に2回だけの親子の時間。母親はこの日、ずっと胸に抱えてきた思いを初めてぶつけた。

母親「なんで事件断りきらないで、ママに話さなかった?」

美咲「仲悪くなかったけど、何か怒ってた。威圧的っていうか怒ってる。いつもイライラしてた」

母親「これだけの人数がいて相談できない?」

父親「一番近いママに何で言えなかったのかなって。ママも分かってる。そのタイミングがあったら、こうはならなかったかもしれない。分からないけどね、そこは」

美咲「いつも話きいてくれなかった」

父親「めちゃめちゃ後悔しているわけ、後悔しても後悔しきれない」

美咲「全然仲良くしてくれなくてさ。いつもママがパパに渡してきてって言って、家の下とかコンビニで会ったりしても、パパすぐ帰る」

父親「わかっとるよ。言いたかったときとかも分かる」

母親「子どもたちには一番きつい思いさせたとこだった」

少年院に送られて半年あまり。

教官「自分がやった詐欺の事件について振り返ります。あなたが特殊詐欺をしたことで、得たものと失ったものを考えてみましょう。何を得ましたか。詐欺をやって」

美咲「得たものないです」

教官「じゃあ、失ったもの」

美咲「家族との時間。けど、同時に得たのかもしれない」

教官「それはどうして?」

美咲「捕まって、ゆっくり親とも話す機会ができたから、面会とかで」

美咲も、時間を見つけては、家族に手紙を書いている。

美咲「LINEとかじゃ今まで素直にお互いが言えなかったけど、手紙で素直にお互いの気持ちを言えるようになりました」

美咲は、少年院を出たら、介護施設で働き、福祉関係の資格をとりたいと考えている。

2023年7月。健太の父親は、息子が闇バイトをしていなかった頃に2人旅をした広島を訪れた。

あの日と同じように、穏やかな海辺を歩き続けていた父親。

その胸のうちあったのは、息子が闇バイトに手を染めた苦しみだけだった。

若者の未来も、家族の絆も、全てを飲み込む底なしの闇は、いまも甚大な被害を生み出し続けている。