“巨龍”中国が迫る 〜台湾総統選・市民たちの選択

NHK
2024年2月7日 午後6:10 公開

(2024年1月13日の放送内容を基にしています)

<強まる中国の圧力 揺れる台湾市民>

民間軍事講習の講師「台北港で有事が起きたら、(敵は)この青い迷彩服です。海を背景に上陸してきますから」

台湾統一を掲げ、武力行使も排除しない姿勢を示す中国に、どう向き合うのか。

台湾では、有事に何が起きるかを学ぶ講習に、高校生から社会人まで幅広い市民が参加していた。

世界各地で続く戦争は、今や「ひと事ではない」という。

参加した女性「銃の重さを初めて知りました」

参加した高校生「今日のウクライナは、明日の台湾です」

この8年政権を担ってきた蔡英文(さいえいぶん)総統は、統一に強い意欲を示す中国に対し、対峙する姿勢を貫いてきた。

蔡英文総統「国を断固として守るための具体的な実践だ」(2023年9月)

総統選で問われたのも、中国との関係をどうすべきかだった。

蔡英文総統の路線を受け継ぎ、中国にきぜんと「対抗」していくのか。

民進党/頼清徳(らいせいとく)候補 「覇権拡大に直面しても、引き続き民主主義を守り、現状を維持していく」

中国との「対話」を重視し、関係改善を図っていくのか。

国民党/候友宜(こうゆうぎ)候補 「最優先は台湾海峡両岸の交流を密にし、衝突のリスクを下げることだ」

台湾市民は、中国とどう向き合うべきか、葛藤を抱えていた。

中国政府の方針に翻弄されてきた台湾南部の養殖業者は、中国で人気の高級魚・ハタを輸出してきたが、2年前中国が輸入を禁止したことで、地域の暮らしは大きな打撃を受けたという。

中国を始め世界市場で事業を展開する製薬会社の社長は、これ以上中国との関係が悪化すれば、中国での事業が立ちゆかなくなると懸念している。

経済力と軍事力で台湾を凌駕(りょうが)する中国の圧力に、取るべき道は何か。

市民たちの知られざる葛藤と選択に迫った。

<常に中国との関係が問われてきた台湾>

台湾海峡を挟み、中国大陸と向き合う台湾。九州ほどの面積に2300万人が暮らしている。台湾にはもともと台湾に暮らしていた人に加え、中国大陸から移り住んだ人も多い。

その台湾を束ねるのが総統だ。4年に一度の総統選では、中国との関係が重要な争点となってきた。

1996年以降、中国にルーツを持つ国民党と、台湾の独自性を訴える民進党が、交互に政権を担っている。

4年前(2020年)の総統選挙では、民進党の蔡英文総統が、過去最多の817万票を獲得して圧勝した。その裏には、香港をめぐる中国の強権的な姿勢があった。

香港市民(2019年)「どうか民主と自由が永遠であれ!香港に栄光あれ!」

当時、香港の街には「香港を守る」「香港がんばれ」など、中国への抵抗を示すメッセージがあふれた。

台湾でも中国への不信感が高まり、それが蔡英文総統への支持につながった。

台湾市民(2020年)「最近の香港を見て、中国を信用できなくなりました。いま大切なのは自由や民主主義です」

こうした台湾に対し、この4年、中国は圧力を強めてきた。習近平国家主席は、台湾統一の意志を明らかにしている。

中国/習近平国家主席(2023年9月)「祖国の完全な統一を実現することは、時代の流れと歴史の必然だ」

平和統一を掲げる一方、武力行使も排除しない姿勢を示している。

さらに2400件の食品を輸入禁止(2022年12月時点)にするなど、経済面でも蔡英文政権に圧力をかけ続けた。

<中国の「禁輸」で打撃受ける地域経済>

中国との緊張が高まったこの4年。与党・民進党が支持基盤とする台湾南部でも動揺が広がっていた。中国で人気の高級魚・ハタの養殖が盛んで、輸出の9割が中国向けだった。地域の暮らしは、養殖から加工まで漁業関連の仕事に支えられている。

9年前(2015年)、台湾と中国の経済交流が盛んだった頃に養殖業を始めた丁勇智(ていゆうち)。その後、蔡英文政権に変わり、中国との関係が悪化。2年前(2022年)には「禁止薬品の検出」を理由に、中国がハタなどの輸入を突如禁止した。地元は最大の輸出先を失うことになった。

養殖業者/丁勇智 「ハタの養殖産業が急速に衰退しました。私はハタの養殖が滅ぼされるかと心配しました」

家族の生活にも、中国との関係が影を落としていた。

丁勇智「これは息子との写真です。今は兵役についています」

4か月だった兵役の義務は、ことし(2024年)から1年間に延長される。

子供たちの将来に、台湾と中国の複雑な関係を持ち越したくないと考えるようになった。

丁勇智「小さな台湾が、大国(中国)にどうやって抵抗するかが一番重要です。少なくとも中国と日本のように、国と国の対等な関係であってほしい」

ロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにした今、台湾有事は、友人との間でも機微に触れる話題となった。

丁勇智「戦争になったら、みんなそれぞれ考え方があって、『戦う』『戦いを避ける』『逃げる』、いろいろな考え方がある」

友人「戦争なんて起きないとばかり思って油断し、中国が侵攻してきたら手遅れですよ」

強まる中国の圧力にどう対応するのか。台湾市民は一枚岩ではなかった。

丁勇智「今こそ台湾が独立を宣言すべきです。アメリカも反対しないはず。問題は台湾人が勇気を持てるか否かです。政権を担う人間が」

友人「それは市民の間でも意見がちがう」

友人「一部の人はそう(独立)はしたくない」

2023年11月、中国と対等な関係を望む丁勇智の元に、あるニュースが飛び込んできた。

隣の台東県の知事が、中国の政府担当者と面会。禁輸が続いていた農産物の輸出が認められたというのだ。

丁勇智「地方から切り崩す中国の戦略です。見識ある人はすぐにわかります。台東県知事がこんなことをやってはだめです」

台東県の知事は、中国との関係改善を訴える国民党に所属している。輸出再開を認められたその場で、「台湾の独立には反対する」との言質を取られたという。

丁勇智「きょう骨をもらって頭を下げる。次は鶏をもらってひざまずくのです。主権さえも渡してしまうかもしれません」

<中国との関係に翻弄される台湾企業>

中国は、自国の巨大市場に進出する台湾企業にも揺さぶりをかけてきた。

台湾を代表する大手企業グループに法令違反があったとして、85億円の罰金を科したのだ。与党民進党への献金が、問題視されたとみられている。

企業グループは「台湾独立に反対する」と釈明する事態に追い込まれた。

中国のこの4年間の揺さぶりに、台湾経済を牽引するグローバル企業の経営者たちは、対応を迫られていた。

2023年9月、台湾の企業経営者などが一同に介した総会。蔡英文総統も激励にやってきた。

しかし、聞こえてくるのは、中国との緊張の高まりを不安視する声ばかりだった。

半導体企業の経営者「14億の人口を持つ、中国の経済力を実感しています。両岸の問題を解決するため、政府はもっと知恵を絞ってほしいです」

中国に投資する経営者「たくさんの資金を大陸に投資しています。もし何かあれば大変な損失になりますから」

中国を始め、世界各地で事業を展開する大手製薬会社の社長、李芳信(りほうしん)。彼もまた、中国との関係で頭を悩まされているひとりだ。

製薬会社社長/李芳信 「我々ビジネスマンにとって、一番の問題は今の危機をどう避けるかです。(中国は)重要な市場です。中国政府の政策に合わせていくしかないのです」

社員3千人を超えるグループ企業を率いる李芳信の会社では、1990年代から世界市場へ進出してきた。中国でも5つの工場を建設し、東南アジアやアメリカ、日本と並び、重要な拠点となってきた。しかし、ここ数年、中国事業の舵取りが一段と難しくなっている。

李芳信「ビジネスマンとして重要なのは、風見鶏であることですね。商人にとって、ビジネスの相手は全て友人。敵ではありません」

李芳信の会社は、母と父の時代に開いた小さな薬局が始まりだった。

中国への進出を決めたのは父。中国市場の成長を見込み、巨額の投資を決断した。今は亡き父から経営を引き継いだ李芳信は、海外での事業をさらに発展させてきた。

李芳信「蔡英文さんと一緒にとった写真です」

李芳信は、4年前の総統選では、民進党に投票した。しかし、このまま政権を託していいのか、迷いが生じていた。

この日、李芳信はある場所へ向かっていた。民進党の頼清徳候補から、選挙集会への参加が呼びかけられていたのだ。

「台湾商人の皆さん、団結し頼清徳候補を支持しよう!」

壇上からの呼びかけに、参加者たちが立ち上がった。周囲の人々が旗を振り、支持する姿勢を示す中、李芳信は無表情のままだった。

李芳信「会社を守るため、ずるくならないといけない。商人として企業家として、株主のことを考える。グループ企業の代表として重い責任を背負っています」

<台湾を揺さぶる中国の「融和政策」>

総統選の2週間前。習近平国家主席は、台湾市民へ連帯を呼び掛けるメッセージを送った。そのアプローチは、ムチとアメの両面がある。

中国/習近平国家主席(2023年12月)「台湾海峡両岸の同胞は手を携え、心を合わせ、民族復興の偉大な栄光を分かち合うべきだ」

習近平国家主席の肝いりのプロジェクトと言われる「2035年計画」。中国の北京と台湾の台北を高速鉄道で結ぼうと、盛んに宣伝されている。

♪2035年 高速鉄道に乗って台湾に行こう♪(YouTubeより)

総統選に合わせて行われた立法委員選挙に民進党から立候補した情報戦略の専門家は、台湾への浸透を図ろうとする中国の動きに警鐘を鳴らしている。

台北大学准教授/沈伯洋 「2023年、中国は“大交流年”と名付け、統一戦略に多額を投じています。『中国はすばらしく、発展に適した場所だ』と台湾市民に語りかけます。中国の最終的な目的は台湾を飲み込むことです」

中国側の働きかけに台湾側が応じる動きも出てきている。

2023年10月、中国・福建省のホテルに、台湾の農業関係者など200人余りが招かれていた。台湾の農家が中国で農園を開くための優遇策など、25件のプロジェクトが調印された。

中国はこのプロジェクトに1160億円を投じ、新たに台湾農家を誘致するという。

台湾/高雄市農会理事 「海峡両岸の同胞はもともと一つの家族です。中国・台湾の私たちを分断し、切り離すことはできません」

習主席の「両岸は同胞だ」という呼びかけに応じようとする地域もある。中国・アモイの対岸にある金門島だ。中国からは船でわずか30分。多いときには、年間80万人(コロナ禍による渡航規制前)に上る観光客が訪れるようになった。島では中国の人民元が流通するようになり、カフェのドリンクには毛沢東が描かれた。

インフラも一体化が進み、6年前から中国が水を供給している。

金門島 住民 「金門島では誰でも知っています。私たちは(中国と)同じ川の水を飲んでいます。切り離すことはできません」

島の住民の多くは、中国との関係を重視する国民党を支持してきた。地元選出の国民党の議員は、中国との関係は断ち切れず、むしろ密接な結びつきを利用していくべきだと考えている。

国民党/陳玉珍 立法委員 「島民の7割が金門(台湾)とアモイ(中国)を結ぶ橋の建設に賛成です。交流が増えるほど平和が訪れる。戦争を起こさないことは世界への貢献です。私たちは小さい。中国に対し知恵を使う必要があるのです」

<政治の刷新を求める若者たち>

台湾を取り込もうとする中国に対し、蔡英文総統はあくまで対峙する姿勢を堅持し続けてきた。

蔡英文総統(2023年3月)「絶えず訓練に精進し戦力を強化してこそ、台湾を守る能力を持つことができる」

防衛予算は毎年増額され、今年(2024年)は過去最高の2兆7600億円余りに達する。

軍事力と共に自衛の要として投資してきたのが、最先端半導体の分野で世界シェアの9割を占める半導体産業だ。中国に対峙する、経済安全保障の重要な柱として位置づけてきたのだ。

頼清徳副総統「(半導体大手)TSMCを大事に思い、台湾の民主主義を重視するなら、共に努力し、中国の武力侵攻のたくらみを抑えてほしい」

しかし、こうした中国への対抗策は、市民に負担を強いていると不満の声も聞かれる。

果物屋を営む男性 「商売は前と比べてかなり悪い。(売り上げは)半分以下。庶民のことを考えてくれる政党はありません」

台湾市民 「市民にとっては、中国との“対話”を選んだ方が、メリットがあると思います。対抗して勝っても、庶民に何のメリットはがありますか?」

台湾市民 「台湾経済の低迷を感じます。仕事を見つけにくいし、家が買えません。中国と関係が悪化し、経済交流が停止されると生きていけない」

現状への不満の受け皿となってきたのが、今回の総統戦に第3極の民衆党から立候補した柯文哲(かぶんてつ)候補だ。

眼鏡店店員/羅宇聲 「二大政党以外がいいです。違う台湾を見せてくれるかもしれない。台湾に今までと異なる風を吹かせてほしいのです」

台北市内の眼鏡店で働く羅宇聲(らうせい)も政治の刷新に期待するひとりだ。父が営む眼鏡店を継ぐつもりだが、将来には期待を持てずにいる。

羅宇聲には将来を考える人がいる。いずれ子供も持ちたいと住宅の購入を考えているが、価格の高騰で手が出ないという。

羅宇聲「新築ではないにも関わらず、価格は高いですね」

この日、友人たちとの会話で話題に上ったのは、毎年増額される防衛費のことだった。

羅宇聲「国防費に28億台湾元。今年さらに28億台湾元を追加という意味?」

友人「こんなにたくさん武器を買って意味ある?」

羅宇聲「意味ないでしょ。28億台湾元で武器を購入すると聞いても、生活の便利さは感じない」

若者たちは、対峙でも迎合でもない中国との付き合い方があるのではと考えていた。

羅宇聲「みんな安定した生活がほしい。独立を叫んで中国から攻撃されたくない。中国に攻撃されたら、幸せな生活を送ることができる?無理でしょ」

<中国に拘束され4年ぶりに台湾に帰った男性>

総統選まで3か月と迫ったこの日。中国との関係悪化で、地元が養殖魚・ハタの最大の輸出先を失った丁勇智は、ある人物と打合せを持つことにした。

丁勇智と共同で事業を始めることになった李孟居(りもうきょ)。中国を始め、海外とのビジネス経験が豊富だ。2人は、中国政府の方針に左右されないよう、中国以外への輸出を目指すことにした。

丁勇智「いま私達がやりたいことは、まだアイディア段階ですが、できそうですか?」

李孟居「丁さんは商品開発で、私はマーケティングを担当します」

丁勇智「李さんは顧客を探し、他の仕事は私がやります」

しかし李孟居には、ひとつ気がかりがあった。

李孟居「中国でビジネスをする人は、私と関わりたくない」

丁勇智「そうでしょうね」

李孟居「中国とのビジネスに慎重になっているのです」

この1か月前(2023年9月)。空港に降り立つ李孟居を、台湾メディアが待ち受けていた。

李孟居は2019年に仕事で訪れた中国・深圳で当局に拘束され、実に4年ぶりに帰ってきたのだ。

李孟居「自分の生活を取り戻したい。今回の事件で私は失業しました」

拘束の理由は、税関で見つかった「香港がんばれ」というビラだった。

当時、香港では抗議活動が続き、蔡英文総統は、民主と自由を守ろうとする香港市民への連帯を表明していた。

李孟居「香港の動乱を支持する、台湾独立運動の中心人物だと罪を着せられました」

中国当局から尋問を受けた李孟居は、身に覚えのないスパイ容疑の自白を強要されたという。その映像が中国国営テレビで流され、台湾でも広く知れ渡った。

李孟居「私はスパイではなく普通のビジネスマンで、出張に行っただけで、香港を支持した台湾政府に対する報復対象となってしまいました」

台湾に戻ってから待ち受けていたのは、予想以上に厳しい現実だ。以前勤めていた会社は解雇された。

李孟居「(前の職場は)中国市場との仕事がほとんどです。中国と取引があるので、自己検閲してしまうのです」

丁勇智と共に中国以外に輸出するビジネスも思うように販路は見つからない。事業計画は、白紙のままだ。

李孟居「これからどうすればいいのかわかりません。拘束されて以降、人間関係を半分失ったかもしれません。特に中国で商売をしたり、中国に資産を持つ人たちです。友達付き合いもなくなりました。電話をかけても出てくれません」

実は李孟居は、中国に拘束されている間に台湾の選挙権を一時失い、今回の総統選は投票できない。

この日、行き場のない思いを打ち明けにいったのは、李孟居のように中国に拘束された人を支援する人権団体の代表だった。

李孟居は自分が拘束される前と後で、台湾社会の空気が変化しているのではと疑問をぶつけた。

李孟居「私自身も恐怖を感じています。これがすぐに消えることはないと思います」

華人民主書院 代表/曽建元「私たち民主主義の社会にも、中国への恐怖心が広がっています」

李孟居「一部の台湾市民が私に対し、心の壁を作ったことにとても傷つきました。中国の4年間は耐えましたが、市民の心の壁に私は深く傷つきました」

華人民主書院/曽建元「中国は直接的ではなく間接的に脅しをかけ、効果を増しています。民進党を含め、台湾は阻止できずにいます」

<世界各国とつながり「経済で台湾守る」>

台湾への圧力を強める中国を前に、「ずるくならなくてはならない」と語っていた、製薬会社社長の李芳信。グローバル企業を率いる経営者として、ある決断を下していた。

李芳信は、中国に貿易拠点を残しつつも、5つの工場すべてを手放していたのだ。

李芳信「台湾はいま日米と非常に良好な関係にあるので、当社も重点を日本とアメリカ市場に移しています。もともと(中国の)昆山に製薬工場がありましたが売却しました」

いま李芳信は、東南アジアやアメリカ、日本など各国を飛び回っている。

これまでは売上げの半分を台湾が占めていたが、アメリカやアジアの市場での売り上げを伸ばしていく方針だ。

グローバル企業として、特定の国や地域への依存を減らしていく。それが台湾を守ることにつながると李芳信は考えている。

李芳信「世界とつながり、経済力で台湾を救うのです。海外に投資し、現地に確かな拠点をつくる。企業の根を、その国の土地深くまでおろし耕していく。そうすれば経済活動を通じ、台湾への協力関係の強化につながる。何もない荒野を開墾する、これが私の選択です」

<それぞれの選択>

養殖しているハタの、中国以外への輸出先を模索し続けてきた丁勇智。この日、視察したのは、新たに香港への輸出ルートを確保したという養殖業者だった。

丁勇智「香港への輸出に規制はないのですか?」

養殖業者「香港向けは規制がありません」

この業者は中国出身。中国によるハタの禁輸解除を見込んでいた。

丁勇智「(中国の禁輸解除の)兆しはありますか?」

養殖業者「以前私たちは北京に行ったことがあります。まあまあ見込みがある気がします」

丁勇智「政府の人と話したのですか?」

養殖業者「中国は(台湾のハタを)要らないなんて言わない」

丁勇智の周囲には、販路が見つからず、事業が行き詰まった者が少なくない。

丁勇智「これから一緒にやりましょう。力を合わせてハタを香港市場に売り出しましょう。さらに中国にも売り出せば、なおのこといい。いい値段で売れれば、さらにいい。政府に交渉してもらいましょう」

養殖業者「台湾の養殖業のために」

丁勇智「私たちは手を組んで、養殖業者のために(政府に)請願しよう」

そして、総統選まで残り3週間となった2023年12月下旬。中国はハタの輸入を一部再開すると発表した。その際、問題解決に尽力したのは国民党だったと強調している。

一方、台湾で生産された化学製品の輸入について、関税の優遇措置を一部停止することも発表。「民進党が『台湾独立』を堅持し、両岸の関係を破壊している(新華社通信より)」と名指しで批判している。

中国とは、したたかに渡り合っていくほかない。それが、丁勇智の答えだ。

養殖業者/丁勇智 「台湾が中国のお金を稼ぐことができ、中国も台湾のお金を稼ぐことができる。資本主義の商業とはそのようなもの。中国を敵視してばかりもいられない。どこの国でも、お金を稼ぎ台湾に税金を納める。とても良いことです」

取材班「中国だからだめということは?」

丁勇智「そんなことはない。中国のお金を稼ぎ、台湾に税金を納めることに拍手を送りたい」

今回取材した人々は、台湾社会でどう受け止められるかを懸念し、投票先を明かさなかった。

中国に拘束されていたため今回の総統選に投票できない李孟居は、この日、香港で書店を経営していた男性を訪ねた。李孟居は、台湾社会の変化にとまどいを感じていた。

李孟居「4年前、たくさんの台湾人が香港の民主化運動を支持していたのに、いま関心を失っています。どう思って見ていますか?」

銅鑼湾書店/林榮基「中国は自国を守ろうとする。だからあなたは、台湾や香港の問題に関心を寄せ続けたほうがいい」

香港の経験を聞き、「民主主義と自由」を守る難しさを噛みしめた李孟居。

中国との関係ばかりにとらわれていると、台湾社会は大切なものを失ってしまうと考えている。

李孟居「街ではみんな普段通りに仕事をし、生活し、落ち着いた表情をしているのを見て、うれしく思う。でもそれが危険にも感じます。自由と民主主義は、天から与えられるものではありません。知らぬ間に失うことを恐れています」

中国の圧力と対峙し続けた台湾の人々の4年。そして、その葛藤と選択。

価値観の異なる大国とどう向き合っていけばよいのか、重い問いは残されたままだ。