ルポ 海外臓器移植 〜命をめぐる葛藤〜

NHK
2023年9月26日 午後3:00 公開

(2023年9月9日の放送内容を基にしています)

「臓器移植」は、他人から提供された臓器で命をつなぐという究極の医療です。

20世紀最大の医学的進歩の1つとされ、多くの患者の命を救い、生活の質を改善してきました。

国内で臓器移植の推進に向けた体制づくりが進められて、四半世紀。社会を揺るがす事件が起きました。難病患者の支援をうたうNPOの理事が、臓器のあっせんを無許可で行ったとして、「臓器移植法」違反の罪に問われたのです。

菊池仁達(ひろみち)被告と患者らがやりとりした映像や音声を独自に入手。不透明な方法で、海外での移植手術を仲介していた疑惑が浮かび上がってきました。

海外での移植は、臓器売買など違法行為の温床になるとして、強く自粛が求められています。「臓器移植は自国で賄うべき」という方針が、世界の主流になっています。しかし、日本の臓器提供の件数は、71の国と地域の中で63番目。ドナー不足が続く中、仲介団体などを頼って、海外に渡る人が後を絶ちません。

渡航先では、患者の死亡など、深刻なトラブルが相次いでいたことも明らかになってきました。

事件を機にあらわになった、日本の臓器移植が抱える矛盾。世界の潮流に逆らい、リスクを冒してでも海外に行かざるをえない現実を前に、患者たちは葛藤を抱えています。

命をつなぐため、移植という選択を迫られたとき、その先で何が待ち受けているのか。

海外臓器移植、その実像に迫ります。

<なぜ相次ぐ? 海外での臓器移植>

小沢克年(かつとし)さん、54歳。学生時代、ラグビーの日本代表に選出され、今も指導者として活動しています。小沢さんは5年前、腎不全と診断され、1回5時間、週3回の透析治療が欠かせない生活を続けています。

腎機能の回復が見込めず、余命を告げられた小沢さん。望みをかけたのが「腎臓移植」でした。しかし、家族からの臓器提供を受ける生体移植は、難しい状況でした。小沢さんは亡くなった人からの臓器の提供を希望し、「日本臓器移植ネットワーク」に登録しました。臓器のあっせんを国から許可されている唯一の団体です。

しかし、国内で、腎臓移植を受けるまでの待機期間は、およそ15年。臓器全体でも希望者の3%しか移植を受けられないのが現状です。

小沢さん「病院で言われた言葉を信じると、(余命は)あと1年半ないわけですから、僕には。だから間に合わないなと思って」

国内で移植を受けられる見通しが立たず、行き詰まっていた小沢さん。ラグビー仲間にすすめられたのが、海外での移植でした。そして、渡航費用を募金で集めてくれたのです。

調べてみると、渡航移植を支援するとうたう団体が複数みつかりました。コンタクトを取る中で、あるメッセージが送られてきます。送ってきたのは、医師を名乗る男性。合法かつ、安全に渡航移植ができるという内容でした。

2年前、中央アジアへ渡航することになった小沢さん。そのとき現地で出会ったのが、菊池被告だったのです。海外での臓器移植をめぐる事件で起訴された菊池被告。国の許可無く、臓器をあっせんした罪に問われています。

かつては寝具を扱う会社を経営していたという菊池被告。2007年に難病患者の支援を掲げるNPOを設立。およそ170人に海外で移植手術を受けさせたとしています。

「日本では臓器移植の順番を待つ大半の方が亡くなられる、その様な現実がある。法令に渡航先の制限はございません。海外の医療機関から、移植医療に最適な病院を選択していただけるようにサポートを行っております」(菊池被告のNPOのホームページ)

1997年、臓器移植を人道的かつ公平に行うことを理念に施行された「臓器移植法」。

移植を希望する患者に医療を適正に実施するため、正規のあっせん団体は、国の管理・監督のもとに置かれています。その他の団体は、国の監督下になく、活動内容を報告する義務はありません。

海外での移植についても明確な規定がなく、菊池被告のNPOは、患者たちに渡航移植を案内していました。

国の許可を得ていない団体が仲介する海外での臓器移植。そのリスクを感じながらも、菊池被告のNPOを介して、渡航移植した男性が取材に応じました。

山中さん(50代・仮名)「(菊池被告は)本当に命の恩人ですよ。あの人がいなければ、私は今ここにいないから。菊池さんを頼って、日本に戻ってきて元気でいる人は、みんなその思いはあるんじゃないかな」

山中さんは、「多発性のう胞腎」という遺伝性の腎臓の病気を20代で発症。父親も同じ病気で若くして亡くなりました。

山中さん「父は20数年前に他界してるんだけど、やっぱり透析して10年もたず。いつ死ぬかわからないんですよ。わからない爆弾を抱えながらずっと生きてる」

ちょうど10年前、腎臓の状態を示す数値が急激に悪化し始めた時。山中さんが渡航移植に踏み切ったのは、家族の言葉がきっかけでした。

山中さん「娘が小学生1年生くらいのとき。それまで娘は、かみさんと添い寝して寝てたのが、その時に娘が『ママ、今日から私パパと寝る』って言って、私の部屋に来て。本当毎日手をつなぎながら・・・。こうやって手をつないで寝られるのも少ないし。よっぽど何かこう思ったんでしょうね」

中国で移植を受けることになった山中さん。手術は成功しました。

山中さん「自分の命がかかっていて、助かるクモの糸が目の前に垂れ下がっていて、それにつかまらないと死ぬんですよって。それ黒い糸ですよって。それで潔く川に流されて死ぬような、そんなかっこいい人間じゃないから、自分は。そのグレーにつかまった私は悪者ですか?そんなに悪いですか?生きたいでしょう、やっぱり」

<菊池被告のNPOが掲げる“海外での臓器移植の案内” その実態は>

およそ20年にわたって、海外での臓器移植に関わってきた菊池被告。

今回なぜ罪に問われることになったのか。

NPOの活動の実態を問題視し、警察に内部告発した男性が取材に応じました。菊池被告のもとで働いていた、元スタッフです。これ以上被害者を出したくないと、罪に問われる覚悟で証言しました。

元スタッフ「完全に自分たちがやっていることは、違法だっていう解釈を私はしました。海外に行ってしまえば、どうにでもなると思っている。患者さんたちは、手術しないと死ぬと思っているので、わらにもすがる思いで来る。不利益になった患者さん、明らかにお金の件に関してもそうですし、命を落とした人もいますし。(内部告発は)自分ができる1つの責任の取り方かなということで」

NHKが関係者から入手した、音声や映像のデータでは、菊池被告と患者らとのやりとりが、16時間にわたって記録されていました。

(菊池被告の音声)

「この世界、いろんなグレーゾーンとか秘密があるので。とにかく手術ができるまでは、オープンにしないでください」

「この世界って、どこの国に行こうが、袖の下なんですよ。要は」

「多少お金で順番の割り込みというのは、可能性はありますよ」

菊池被告の仲介で、腎臓の移植を受けた荒川さん(仮名)。今回、菊池被告が臓器をあっせんした容疑で逮捕された1つが、荒川さんのケースでした。

移植手術の環境が整っているとして紹介されたのは、東ヨーロッパのベラルーシ。移植の費用は1850万円必要だと言われました。費用を工面し、NPOを介して現地に送金すると、実際に病院からの招待状が届いたと言います。

荒川さん(50代・仮名)「国立の病院というのもあって、信用していいんじゃないかな、と思いましたね」

荒川さんは渡航後、亡くなった人から臓器の提供を受けるための「待機リスト」に登録し、透析を受けながら待つこと1ヶ月。移植の順番がおとずれ、手術にのぞみました。

荒川さん「手術室の扉が開く、(奥のほうには)自分にこれから入る腎臓がありました。冷凍保存されていたのを解凍すると言っていたので。ああ、あれが入るんだ…と。ギャンブルよりひどいですよね。1千何百万もかけて自分の命懸けてやるので。でも、それで生き残るんだったら、普通に働けるんだったら、そっちの方がいいと思って」

2023年6月に行われた初公判。菊池被告は無罪を主張しました。

菊池被告の証言「この活動を始めて17年たつが、100人近くの命を助けてきた。1度たりとも、あっせんをしたことはない。海外で亡くなった人の臓器を、その国の医療機関が配分する。だから案内した。わたしは無罪だと思っている」

さらに弁護士は「法律上のあっせん行為にはあたらない。仮にあたるとしても、海外での移植に日本の法律は適用されない」と述べました。

<浮かび上がってきた明確な違法行為の疑い>

菊池被告の活動の違法性を巡り、裁判が続く中、取材からは更なる疑惑が浮かび上がってきました。

内部告発した元スタッフが、「NPOが関与した臓器移植に明確な違法行為があった」と証言したのです。パスポートの偽造です。

元スタッフ「ドナーのパスポートをレシピエント(患者)と親戚のように見せかけるために、同じ国籍にして偽造したり」

それは生きている人から臓器の提供を受ける「生体移植」を実現させるためでした。

50代の島田さん(仮名)。ドナーとなったのは、ウクライナ人の女性。臓器売買の温床になるとして、多くの国では、親族以外からの提供は認められていません。

互いの名字を合わせ、国籍も日本に変え、親族であるかのように偽装されていました。

島田さん(50代・仮名)「全然知りませんでした。病院に提出するためにパスポートが必要だからって。(あとで知って)犯罪だと思いました」

さらに音声記録には、ドナーとなったウクライナ人が、金銭を受け取ったという証言が残されていました。

(ウクライナ人のドナーの音声)

「1万4千ドル(約200万円)で売りました。娘の学費を払うことができました。オデーサでアパートを借りたり、色々なものを買えました。娘はとても喜びましたが、戦争が始まって、砲撃がすごいです」

島田さんは、渡航先の病院で、命の危機に直面していました。

関係者によると、これまでNPOは、医療体制が整っていると確認できた国の病院を案内していたといいます。しかし、新型コロナの影響で渡航制限が厳しくなると、実績がない国にも患者を仲介するようになりました。

島田さんが手術を受けることになったのは、中央アジア・キルギスの病院。病室が即席で作られ、不衛生な環境だったといいます。

手術直後、島田さんは重篤な状態に陥り、帰国すると、空港から救急搬送されました。

島田さん「内臓を突き刺されているような痛さです。あと1時間(帰国便の)フライト遅かったら死んでたって先生が言ってた。もう中で(腎臓が)溶けていたって」

音声記録の中には、激痛に耐えながら抗議する声も残されています。

島田さん「菊池さんの責任ですよ」

菊池被告「私の責任ではありませんよ。冗談じゃないですよ。我々は保証できないでしょ?医者じゃないんだからさ。ここでワアワア騒いだって体良くならないんですよ」

この時、島田さんと同じ病院で移植手術を待っていたのが、小沢さんでした。

菊池被告から告げられたのは、外国人ドナーからの生体移植。面識のない人が、対価なしで臓器を提供するとは考えられず、危ない橋を渡ることになると悟ったと言います。容体が悪化する島田さんの様子を目の当たりにした小沢さん。手術を諦め、帰国することを決めました。

小沢さん「あのまま流れに任せて(移植手術)を受けていたら、キルギスで死んでいたかもしれない。とにかくここから脱出しないと、命まで失っちゃうと思ったので」

16時間の記録と、取材から明らかになってきた違法行為の疑惑。私たちの問いに対して菊池被告は、ウクライナ人ドナーのパスポートの偽造について、「全く関与していない」と回答。そのドナーに金銭が支払われたことについても、「全く関与していない」と答えました。

臓器移植法の施行から25年。渡航移植を仲介する民間団体の出現。海外での危うい手術に踏み切る患者たち。見過ごされてきた日本の臓器移植の現実が、事件を機にあらわになりました。

専門家は、臓器移植を巡る実態に、法制度が追いついていないと指摘。規制を強化する必要があると訴えます。

東京大学大学院 教授・医師/米村滋人さん「移植を希望する患者は非常に多いが、国内で移植を受けられる人がかなり限られ、渡航移植に頼らざるを得ない現実がある。現状の臓器移植法には、明確に渡航移植のあっせんを規制するルールが盛り込まれていない。その隙間をかいくぐって、こういう団体が出てきた。不正な臓器売買につながりやすい実態がある。法律を新たに設ける必要があり、悪徳な事業者が出てこないよう規制を強めることも不可欠」

<国の実態調査から見えた 海外渡航移植の現状>

菊池被告の逮捕を受け、国は全国200余りの医療機関を対象に調査を実施。海外渡航の実態の一端が明らかになりました。

渡航移植を受けた患者は543名。移植は、20を越える国や地域で行われていました。

国際的にも、批判が高まる海外での移植。貧しく弱い立場にある人たちに危害をもたらすとして、「臓器移植は自国で賄うべき」という考えが、世界的な指針となっています。

国内の病院でも、不透明な渡航移植を受けた患者は診療すべきではないという考え方が主流になっています。しかし、移植を受けた患者は、拒絶反応を防ぐ薬を生涯にわたって飲み続けなければならず、医療機関の受診が不可決です。

移植を専門とする医師が、匿名で取材に応じました。海外での移植後に受診を断られた患者から相談が相次ぎ、これまで30人以上を診てきたといいます。

移植専門医「患者が泥棒であろうが、刑務所に入っていようが、とにかく医者としては、どんな人でも、しっかり治してやらなきゃいけない」

医師は、渡航移植に踏み切る患者の選択を、否定することはできないと感じています。

移植専門医「患者は、皆さん行きたいと思いますよ。もし移植ができるんだったら。どこからでもいいから、とにかく早く臓器提供してもらって、早く移植して、自由な生活をしたい人は多いと思います。これは否定できない。(渡航移植は)なくならないでしょうね。臓器移植も自給自足、完璧にできることは、あり得ないと思います」

<世界に広がる 臓器移植ネットワークの闇>

移植のニーズが世界的に高まる中、不足する臓器の提供。海外では臓器売買のニュースが後を絶ちません。

2023年7月には、インドネシア人122人の腎臓を売るために、カンボジアへ渡航させたとして、実行犯が逮捕されました。現地の報道によれば、臓器を売ったのは工場の作業員や教師など。多くは新型コロナで職を失い、生活に困窮した人達でした。

臓器を巡り、世界各地に張り巡らされたネットワーク。

菊池被告の活動が記録された映像や音声にも、海外のある人物とのやりとりが残されていました。

アスラン「タジキスタンはドナーを連れて来られますし、もっと安いと思います」

菊池被告「生体ですか、死体ですか?」

通訳「生体です。値段はベラルーシよりも安いかも」

菊池被告「ハハハ・・・。いくらですか?ハウマッチ?」

菊池被告が度々コンタクトを取っていたのは、トルコ人の男性、アスラン(仮名)。調べていくと、医師の免許を持っており、5年前には臓器売買に関わった疑いで、ウクライナで逮捕。のちに釈放されていることがわかりました。

アスランは、日本からの渡航移植にどのように関わっているのか。トルコでの取材を進める中で、アスランのものと見られる電話番号を入手しました。

取材班「あなたから(臓器移植について)いくつかコメントを頂きたい」

アスラン(仮名)「中央アジア、中東、バルカン半島で移植を推し進めています。大勢の外国人患者が来始めました」

世界各地から移植の希望者がやってくると語るアスラン。私たちはさらに詳しく話を聞きたいと、インタビューを申し込みました。

指定された場所に現れたのは、50代後半の男性。長年総合病院に勤務し、これまで400人以上の臓器移植に関わり、菊池被告とも渡航移植の計画を進めていたことを認めました。

アスラン「菊池氏は年に20~30人の患者を連れて来られると言いました。私には少なくとも5000ドルから10000ドル入る予定でした。菊池氏にこだわるのは重要ではない。彼が去っても、他の人が来るからです」

移植手術を仲介する際、臓器を売買した事実はあるのか、問うと。

アスラン「それは違法なやり方で、我々はできません。でも誰かが移植を求めて、ドナーにお金を渡したかもしれません。誰もタダで何かをあげたりはしません」

トルコの法律に従って病院の仲介はしているが、臓器売買には一切関与していない、と語るアスラン。一方で、臓器売買を肯定するような主張も繰り返しました。

アスラン「臓器を売る人はみんな貧しくて、お金が必要なんです。他人に腎臓をあげても健康に生きられます。なぜ制限するのでしょう。彼らはそのお金で生活できる。臓器売買は終わらない。禁止しても解決できない。どんな法律でも止められない」

臓器を売る人と買う人、両者に利点があると主張するアスラン。しかし、臓器を売った側の、悲惨な現実も見えてきました。

アスランを仲介して、腎臓を売ったと証言する男性が取材に応じました。モロッコ在住の、7人家族の男性。コロナで仕事を失い困窮し、SNSに「腎臓を売りたい」と書きこみました。

するとアスランの代理を名乗る人物から接触があり、指示された国へ渡航しました。

モロッコ人男性(30代)「渡航先のホテルに10人ほどのドナーがいました。患者もいました。パレスチナ人、チュニジア人、ウクライナ人、中国人。ギャングが国外から臓器を提供したい人を連れてきて、臓器を欲しい人を連れてくる。そして彼らの間で売買するわけです」

移植手術は失敗。腎臓を提供した相手は目の前で亡くなりました。男性自身の手術もずさんで、術後に大量出血しました。

取引の際に提示された金額はおよそ300万円。しかし、実際に手にしたのは、その半分ほどだったと言います。貧血は今も続き、残った腎臓の機能も低下。今も通院を余儀なくされています。

モロッコ人男性「これが犯罪であることをわかっていたので、すごく後悔しました。生活は金銭的にも何も変わらなかったし、健康状態もさらに悪くなりました。臓器を売ったら、夢が実現すると思っていたが、何も得るものはありませんでした」

家族の命を守るには、臓器を買うしかないと、アスランの仲介を受けて生体移植に踏み切った人もいます。

70代の青木さん。息子が重度の肝硬変を患い、菊池被告とは別の仲介団体を経由して、アスランとつながりました。

青木さん(70代・仮名)「病院に見放され、(移植の)待機もできない、余命は言われている。じゃあどうすればいいんだよって。それは海外移植しかない」

当時40代だった息子。ブルガリアで移植手術を受けたあと容体が急変し、現地で亡くなりました。ドナーの体格の不一致や、医師の経験不足が原因だったと言います。金銭を介して息子のドナーとなったのは、ウクライナ人の男性でした。

青木さん「当時のレートで、日本円で150~160万円渡して帰った。結局合法的にはいかないが、自分の命を長らえる方法が、危険でも海外で移植できるんであれば、その道を選ぶ。それに対して、提供者には金銭で償う。合法的ではないことは、本人も認識していた。とにかく私の一番大事な息子なんで、命だけは守ってくれって」

<誰かの臓器で命をつなぐ移植医療 患者たちの葛藤>

2年前、渡航移植を試みたものの断念した小沢克年さん。週3回の透析治療を続けながら、国内での移植を待っていますが、日々、病状の悪化を感じています。

募金活動の発起人のひとり宮岡成樹さんは、小沢さんの移植をめぐる苦悩を間近で見てきました。高校のラグビー部の一学年先輩で、小沢さんとは40年来の付き合いです。

小沢さんが母校の監督を務めていたとき、入部してきた宮岡さんの息子を、3年間育ててくれたといいます。

日本での腎臓移植は15年待ち。このまま待ち続けるのは現実的ではないと、宮岡さんは自分がドナーになると、当初から申し出ていました。

宮岡さん「透析を続けていても、もうラグビーは続けられないし、本人も諦めていました。それをとにかく諦めるなって。最悪本当に移植できなかったら、俺の腎臓をやるよって。その時、小沢は泣いて『ありがとうございます、ただ本当にそれはできません』と。『言ってくれただけでうれしいです』って話で、そのときは終わってますね」

日本での生体間の腎臓移植は、原則、親族に限定されています。それ以外のケースは、病院などの倫理委員会で厳正な審査が必要で、容易に行うことはできません。

透析治療を続けながら、ラグビーの指導に携わる日々。悪化する病気を抱えて指導することに、限界を感じていた小沢さん。頭に浮かんだのは、これまで選択肢にはなかった宮岡さんからの提案でした。

小沢さん「この病気になった4年半前に、当初から『俺の腎臓をやるよ』って言ってくれていたのを、僕が拒んでいて。そんな簡単にもらえるもんじゃないからって拒んでいたんですけど、もう方法がなくて、友人間での移植を目指そうかと」

親族以外の友人でも移植ができる場所を探したところ、複数の国が候補にあがりました。小沢さんは病院を自力で探し、検査データや必要な書類の準備を進めています。

友人間の移植が現実味を増す中、小沢さんは、胸の内に抱えてきたことを打ち明けました。

小沢さん「投げやりになったことも正直、何回もあるわけですよ、生きることに。移植できたら、もうちょっと楽に生きていけるんだろうなと思うようになって。だけど、臓器、腎臓を1つもらうことが、こんなにきついことなんだと、最近つくづく思います。宮岡さんからもらうことになって、すごいリアルになるわけじゃないですか、ゴールが。こんなに苦しいんだって。『やった』みたいな感じには、全然ならなくて。正直、苦しいっすよ」

臓器をもらって命をつなぐという選択。かつては想像もしなかったドナーの顔が見えたいま、その重さを改めて感じています。

小沢さん「(移植で)生きながらえることができるよっていうのと、諦めて寿命を迎えるっていうことの、僕は今、はざまにいるはずなんです。僕が諦めれば、寿命が尽きるまでって、近い将来のことになるし。手術がうまくいけば、それよりは長生きできるだろうって。そこのふちに立っていると思っている。だけどそれは、本当にいいことなんだろうか、いや、そうじゃないのか。そこに立って悩み続けているし、これからもいざ手術が終わって、もうちょっと長く生きられることになっても、生きながら悩み続けるんじゃないかなって」

<海外臓器移植 命をめぐる葛藤>

臓器移植にいちるの望みを託す患者たち。

その目の前に立ちはだかるのは、あらゆるリスクを覚悟して踏み出さなければ、命をつなげないという矛盾でした。

生きたいという願いを正当にかなえられず、深まる葛藤。

受け取る人、渡す人。一人ひとりの選択にどう向き合うか、いま問われています。