ハマスとイスラエル 対立激化どこまで【前編】

NHK
2023年11月14日 午後7:20 公開

(2023年10月22日の放送内容を基にしています)

<“報復の連鎖”で緊迫する情勢>

ガザ地区の住民「いま起きているのは大量虐殺だ。ガザ地区には、いま安全な場所はない」

イスラム組織ハマスと、イスラエルの衝突が始まって2週間あまり(2023年10月22日現在)。

犠牲が広がるガザ地区から、いまの惨状を知って欲しいと大量の写真が送られてきました。

写真を寄せたガザ地区の住民「爆撃で多くの遺体が散乱していた。子どもや罪のない民間人が狙われている。なぜ無実の住民まで爆撃されるんだ?私たちの命を救ってほしい」

一方、ハマスの大規模攻撃を受けたイスラエル。家族が誘拐されたという男性は、強い怒りと悲しみを訴えています。

ハマスとイスラエル。憎しみが憎しみを生む果てしない暴力の連鎖。

対立はどこまで激化するのか。最新報告です。

国際部/鴨志田郷デスク「世界が置き去りにしてきたパレスチナ問題、今これまでにない激しさで、世界を揺さぶっています。ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが、かつてない攻撃を仕掛けてから2週間余り、イスラエル軍もガザ地区への空前の報復攻撃に踏み切り、もはや地上侵攻が始まるのも時間の問題だとみられています」

川﨑理加アナウンサー「ハマスが実効支配しているのが、ガザ地区です。壁で囲まれていて、広さは鹿児島県の種子島ほどです。そこに220万人以上が生活する、世界屈指の人口密集地域です。イスラエル軍は今、ガザ北部の住民に退避を迫ると同時に、住居や学校、医療施設にまで激しい空爆を行っています。そして南部のエジプトとの境界にはラファの検問所があります。きのう(2023年10月21日)ようやく支援物資の第一陣が入りましたが、この先全ての住民を支える十分な物資が運び込まれるのかは不透明です。そしてガザからの退避を望む住民の通行が認められるのかも、全く分かりません」

鴨志田デスク「まずは、前例のないハマスの攻撃をきっかけに、泥沼化する衝突の実態です」

<泥沼化する衝突の実態>

これは、今月始め(2023年10月)、ガザの上空でとらえられた、夜間の衛星画像。ガザの街は光に満ちていました。

それが、衝突が始まったあとはー。

ガザ北部在住/サミーラさん「ここは真っ暗。怖くて心が折れそう。電気が完全に止まっています。また、戦闘機による空爆の音です」

対して、境界を挟んだ、イスラエル。夜の明かりは、衝突前と変わらないように見えます。しかし、イスラエル側の人々も・・・。

イスラエル北部在住/木村リヒさん「とにかく毎日怖い。ただただ怖い。誰か入ってきたらどうしよう、テロリストが来たらどうしよう、そんな中で生きています」

はじまりは今月(2023年10月)7日。ハマスの奇襲攻撃でした。

ハマスの戦闘員が陸、海、空の3方向から一斉にイスラエルに侵入。イスラエル側の死者は少なくとも1400人(2023年10月21日時点)。およそ200人が人質として捕らえられたとされています。

中東情勢が専門の鈴木啓之さんは、今回の組織的かつ広範な攻撃をしかけたハマスの変容に衝撃を受けたと言います。

ガザを本拠地とするイスラム組織、ハマス。これまでの攻撃は、自爆テロや断続的なロケット弾によるものが中心でした。それが今回、ハマスは20分間で5000発とも言われるロケット弾を一斉に発射したとしています。イスラエル軍が誇る防空システム「アイアンドーム」を突破し、各地で建物を破壊しました。

東京大学大学院/鈴木啓之 特任准教授「防空システムをかく乱する。そして1000人を超える武装戦闘員が車両、パラグライダー、モーターボートなど複数の方法、陸海空それぞれから越境していく。これは過去に前例がない。だからこそ驚きです」

今回の攻撃で、ハマスが民生用の安価なドローンを駆使した戦術をとっていたことも分かってきました。

ハマスが公開した映像に、たびたび登場する小型のドローン。ガザ地区とイスラエルを隔てる境界にそって並ぶ「監視塔」に、次々と爆弾を投下しています。戦車に対しては、弱点である真上を狙っていました。

米・ドローンセック/マイク・モニクCEO「こうしたドローンは店頭で購入したり、簡単に密輸できたりするので、まさに“貧者の兵器”だと言えます。追加の部品は3Dプリンターで作れますし、使い方はYouTubeで学べるのです」

さらに今回の攻撃は、数年をかけ、周到に準備されたものだったことも見えてきました。

ハマスの戦略をSNSから分析しているイスラエルの調査会社です。

サイアブラ/ダン・ブラミーCEO「想像以上に彼らの準備が進んでいたことに、大きな衝撃を受けました」

分析したのは、ハマスが作ったとみられる多数のアカウント。そのひとつです。

攻撃が始まると、闘いに加わるよう呼びかける内容などが、多いときには数分おきに投稿され、2日間で17万回以上閲覧されていました。実は、こうしたアカウントの多くが、攻撃のかなり前から準備されていたのです。

サイアブラ/ダン・ブラミーCEO「これらのアカウントは攻撃前まで休眠状態でした。それが1日に何百もの投稿をするまでに変化したのです。彼らは今回の攻撃でSNSを通じて影響力を高める戦略をとっています。これは、もうひとつの戦場なのです」

一方のイスラエル。ガザ地区との境界付近に部隊を集め、地上侵攻に踏み切ろうとしています。

イスラエル/ネタニヤフ首相「兵士たちは、いつでも怪物を根絶やしにする準備ができている」

連日、ガザへの空爆を繰り返すイスラエル。

ネタニヤフ首相は、民間人の命に配慮するという姿勢を繰り返し表明してきました。

10月13日。イスラエル軍は、空からビラをまき、住民に対し、ガザ地区の南部へ避難するよう迫りました。

住民たちは、果たして安全に避難できているのか。

今回、SNS上に投稿された動画などを分析し、撮影された地点を特定していきました。これまでにわかっているのは14地点。その中に、住民が南部への避難で利用する幹線道路上で撮られた動画が、2つ見つかりました。

こちらは、避難を呼びかけるビラがまかれた日に投稿された動画です。

「なんてことだ。めちゃくちゃに破壊されている」(10/13投稿のSNS動画より)

焼け焦げた車。そして多くの人々が血を流し、倒れていました。

その翌日の10月14日。この幹線道路はイスラエルから住民の「避難経路」に指定されました。しかし、この日に投稿された動画に映し出されていたのは、突如、爆発が起きる光景でした。

この爆発がイスラエル軍の攻撃によるものなのか、それとも別の要因によるものなのかは分かっていません。しかし、避難経路上にはさまざまな危険がありました。

現地で医療活動にあたっているNGOは、避難経路の安全性に強い懸念を表明しています。

国境なき医師団/ムハンマド・アブ・ムガイシーブ医師「非常に危険な状態です。一日中爆撃があり、“人道回廊”などありません。明日どうなるかすら分かりません」

イスラエルから避難先に指定されたガザ南部。そこで撮影された写真も見つかりました。地面がえぐられた、巨大な穴。それを取り囲む住民たちが写っています。

撮影したガザ南部の住民/ムハンマド・マンスールさん「見たことのない巨大な爆弾が落とされました。そこにあった家は完全に吹き飛ばされ、大きな穴が空いたのです。今も女性や子どもが、がれきの下敷きになっています」

撮影したガザ南部の住民/ムハンマド・マンスールさん「北部から避難してきた人たちが身を寄せていて、30~50人ほど住んでいました。イスラエルは『南部に避難しろ』といいながら、激しく爆撃をしています。彼らは嘘をついています」

10月17日には、国連の機関が運営する学校までも爆撃を受け、運び出されるケガ人たち。ここは、4000人が避難していた中学校。子どもを含む8人が死亡しました。

この学校を運営する国連機関の清田明宏さんは、ガザにはいま、安全な場所はないと感じています。

国連パレスチナ難民救済事業機関/清田明宏 保健局長「命を救う場所を攻撃するというのは、あってはならない。想像を絶する非常に厳しい状態で、ある人は『地獄のようだ』と言っていますけれど、それに近い状態」

長年、対立の最前線を見てきたイスラエルの情報機関の元長官、アミ・アヤロン氏は、現時点で戦闘の収束は見通すことができないといいます。

イスラエルの情報機関・元長官/アミ・アヤロン氏「不幸なことに、双方とも痛みを感じています。ハマスとはイデオロギーそのものであり、消し去ることはできませんが、ハマスの軍事的な能力を破壊することはできるはずです。それがこの戦争のゴールなのです。ハマスとの交渉が進まなければ、より多くの暴力、闘いがあり、より多くの人々が死んでいくでしょう」

鴨志田デスク「ここからは東京大学の鈴木啓之さんと、慶応義塾大学の錦田愛子さんに話を聞いていきます。私も長くパレスチナ問題を取材してきたんですが、今回のこのハマスの攻撃には、大変な衝撃を受けました。鈴木さんは、この攻撃がイスラエルにとって、どれほどの衝撃だったとご覧になっていますか」

東京大学大学院/鈴木啓之 特任准教授「1000人を超える犠牲者がイスラエル国内に出ているというのは、半世紀前の第4次中東戦争以来と言っていいと思います。ただ今回、国同士の戦いではありません。ガザ地区を拠点とする武装勢力による攻撃で、外国人を含めて1000人を超える民間人がイスラエル国内で亡くなっています。そして、たった数日間でそれだけの犠牲者が出ていて、人質が200人近く取られている。この心理的な衝撃を考えれば、イスラエル国内で聞かれる「ホロコースト以来である」という受けとめも理解できると、私は思います。過去15年間で、イスラエルはガザ地区に対して2回、地上部隊の展開を含む、軍事作戦を行ってきました。今回に関してイスラエルのネタニヤフ首相は、武装戦闘員の流入を許したという失態の挽回のためにも、ガザ地区に対する大規模な軍事行動を継続する構えです」

鴨志田デスク「一方で、地上侵攻はもはや秒読みだと言われている中で、ハマス側も人質を解放する動きを見せたり、国際社会の圧力もあったり、双方の間でさまざまな駆け引きが行われていますが、このあとイスラエルは、はたして攻撃をどこまでエスカレートさせていくのか。いつ侵攻に踏み切るとご覧になっていますか」

東京大学大学院/鈴木啓之 特任准教授「これまでの空爆で、すでにガザ地区内に4000人を超える犠牲者が出ていますが、イスラエルが考えられるような成果は、まだ出ていない段階ですので、引き続き地上侵攻の可能性は高いだろうと思います。今まさに、心理戦、駆け引きを、ガザ地区の武装勢力に対して、イスラエルが行っていると見ています。つまりカウントダウンを何度も見せて、人質の解放などを引き出そうとしている、その時間なのではないかと、考えています」

鴨志田デスク「そうすると、イスラエル軍はすぐに、今までのように踏み込むことができない状況にあるのではないかということですね」

東京大学大学院/鈴木啓之 特任准教授「判断をすれば、今すぐにでも踏み込めますが、その最も効果的なタイミングを狙っている、考えている、というところだと思います」

鴨志田デスク「錦田さん、2007年からハマスが、ガザ地区を実効支配してから、これまでもイスラエル側へのロケット弾攻撃などは繰り返してきて、そのつど報復を受けてきたわけですけれども、今回、これだけの規模の攻撃をすれば、当然、それ相応の報復を受けるということは、織り込み済みだったと思うんですが、それでもなおハマスが攻撃に踏み切ったのは何故だと、ご覧になっていますか」

慶應義塾大学/錦田愛子 教授「ご指摘のように、相当、大規模な報復攻撃が行われるということは、恐らくハマスも織り込み済みで、十分な準備をしたうえでの今回の攻撃開始だったと思われます。なおかつ、その状態でなぜ今回攻撃を開始したかというと、恐らく2つの理由が考えられます。まず、パレスチナを巡る国際環境の変化です。近年、UAEやバーレーンといった国が、イスラエルとの関係を正常化するという動きがありました。一応、名目としては『パレスチナ問題も取り上げる』とは言っていますが、実質上は、それぞれの国益を重視した形でこうした関係正常化が進められており、パレスチナ問題が世界的に忘れられていくという危機感が恐らくあったと思われます。2つ目は、この長期化した2007年以降のガザ地区の封鎖という状況を受けて、非常に状況が追い込まれている。仕事もなく医療物資も不足する中、大きな病気にかかれば、もう命を落とすしかないという状況が何年も続いてきた。そうした状況を打開するため、じわじわと封鎖の中で殺されるのか、それとも軍事攻撃に打って出て戦って死ぬのか、という選択をハマスはしたのだと思います」

川﨑アナウンサー「そのハマスについて、パレスチナの人たちはどう見ているのか。興味深い報告があります。一連の衝突が起きる前の先月(2023年9月)、パレスチナの研究所が実施した世論調査です。今後、指導者を選ぶ選挙が行われた場合、ハマスの指導者であるハニーヤ氏の支持率は58%、ガザ地区では64%にも達し、現在のパレスチナ暫定自治政府の、アッバス議長を大きく上回っていました」

川﨑アナウンサー「錦田さん、今回ハマスの大規模攻撃への報復として、ガザ地区が激しい攻撃を受けていますが、こうした事態を受けて、住民のハマスに対する感情は変化すると見ていますか」

慶應義塾大学/錦田愛子 教授「むしろ、この戦闘が始まる以前の状態というのは、ハマスはファタハとともに、それほど支持率が高くない状態ではあったんですが、この戦闘が始まって、ある意味での“戦果”を上げているということもあり、おそらく今後支持率は上がっていくんではないかと考えられます。というのも、ハマスと一緒にガザの民衆も、これまで長い紛争、封鎖、75年にわたる占領下に置かれてきているわけです。そうした中で、抵抗運動を続ける代弁者として、ハマスを見ている側面があります」

慶應義塾大学/錦田愛子 教授「実際2000人以上の犠牲者を出した、先の2014年の戦闘の直後も、実はハマスに対する支持率は9割近くに上り、非常に高くなったことがありました。なので、今回も同じようなことが起こることは考えられます」

鴨志田デスク「そうしますと、この報復を受けて、生活基盤が崩されてもなお、ハマスへの指示がまた高まる可能性もあるということですかね」

慶應義塾大学/錦田愛子 教授「あまりに長期化して本当に住めない状況になってくると、やはり世論に少し意見の変化は出てくるかと思いますが、今の段階においては、ガザ地区の中で非常に多くの犠牲者が出ていること、それがやはりイスラエルの暴力性という形でパレスチナ人の間で受け止められている、これに対して抵抗運動を続けるハマス、という位置づけが、さらに強まっているのではないかと思われます」

鴨志田デスク「さて、このハマスとイスラエルの対立、その背景には2つの民族がたどった苦難の歴史がありました。今回私たちが話を聞いたのは、今ガザで空爆にさらされているパレスチナ人と、壁を隔てて暮らしているイスラエル人の男性、彼らが語ったのは共に見果てぬ和平への思いでした」

<“根源的な問題に向き合って” 世界に向けられた問いかけ>

イスラエル人のモシェ・ロタムさん、68歳。今回ハマスに家族を誘拐され、今も安否が分かっていません。

イスラエル人/モシェ・ロタムさん「私の娘と孫たちがいなくて寂しいです。とてもつらいです。返して欲しい、彼らを返して欲しいです」

家族を奪われた悲しみとともに語ったのは、長い対立の歴史に、終止符を打たなければならないという思いでした。

イスラエル人/モシェ・ロタムさん「2つの民族はずっと紛争を続けてきました。長い間続いてきました。もう止めなくてはなりません」

パレスチナ人のサイード・マカドマさん、61歳。ガザ北部に留まり、連日激しい空爆にさらされています。

パレスチナ人/サイード・マカドマさん「自宅の近くの建物は完全に破壊されてしまいました。30分後私が生きているかどうかも分かりません」

この対立を終わらせるためには、問題の根源に向き合わなければならないと訴えました。

パレスチナ人/サイードマカドマさん「国際社会がいま起きていることの問題の根源に目を向けることを願っています。いま現れた問題ではないのです。その原因が残り続ける限り、問題は繰り返し起きてしまうでしょう」

<イスラエルとパレスチナ 対立の根源に何が>

ユダヤ人、アラブ人双方にとっての聖地、エルサレム。その一帯はパレスチナと呼ばれ、長きに渡ってアラブの人々が暮らしていました。

一方、世界各地に離散したユダヤ人は迫害の歴史を歩んでいました。第二次世界大戦中、ナチスドイツによる「ホロコースト」で、600万人が虐殺されました。

終戦後、欧米を中心に、ユダヤ人への同情が寄せられるなか、1947年国連で「パレスチナ分割決議」が採択され、アラブ人が住んでいたパレスチナを分割し、ユダヤ人に与えることが決まったのです。

イスラエル初代首相「ユダヤ国家“イスラエル”の建国を宣言する」(イスラエル建国・1948年)

「約束の地」での建国という悲願を果たしたユダヤ人。

一方で、そこに住んでいたパレスチナ人は、故郷を追われることになりました。

これに反発する周辺のアラブ諸国と、イスラエルとの間で戦争が繰り返されていきます。欧米を後ろ盾とするイスラエルは、軍事力で圧倒。国際的な取り決めに反して、パレスチナ全土を占領下に置きました。世界が手をこまねく中、パレスチナ人は投石やテロによって、イスラエルへの抵抗運動を繰り返してきました。

いっとき、和平への機運が高まったのが、1993年。パレスチナの暫定自治を認める合意がなされ、イスラエル軍が段階的に撤退することになったのです。

しかし・・・、パレスチナの国家樹立を目指す交渉は暗礁に乗り上げ、再び衝突が勃発。その頃、武装闘争を掲げて台頭したハマスの拠点となっていたのが「ガザ地区」でした。

<封鎖されたガザの街 “天井のない監獄”>

(鴨志田デスクのナレーション)「私は2000年、エルサレム支局に赴任し、ガザの窮状を目の当たりにしました。街では、武装組織を狙ったというイスラエル軍の攻撃で、多くの住民が巻き添えになっていました。更にテロを封じ込めるとの名目で壁がつくられ、住民は、封鎖された街での暮らしを強いられていたのです。街の産業は限られ、人々は貧困にあえいでいました。そして、この街を“天井のない監獄”と呼び、イスラエルへの憤りを募らせていました」

パレスチナ人女性「子どもの罪はある?パレスチナ人だから?」(2003年当時)

(鴨志田デスクのナレーション)「この時、私たちは、住民の不満の受け皿となって支持を広げる“ハマス”の姿を記録していました。ハマスはイスラム原理主義の教えを説き、イスラエルに対する武装闘争を呼びかけ、軍事部門を強化していました」

ハマス指導者「若者よ、占領されたエルサレムが叫んでいる。“君たちの血が欲しい”と」

ハマス支持者「ハマス!ハマス!」(2003年当時)

(鴨志田デスクのナレーション)「その一方で、アラブ諸国から寄せられた資金を使い、家や家族をなくした人々への見舞金や物資の支援なども行っていました。取材の中で出会った、イスラエルへの抵抗運動で夫を亡くした女性。“ハマス”だけが頼みの綱だと語りました」

ハマスからの生活支援を受ける女性「子どもたちには生活や教育などの面で援助が必要です。ハマスはあらゆる面で、私たちパレスチナ人を支援してくれる唯一の機関なのです」(2003年当時)

パレスチナの人々が更に孤立を深める要因となったのが、2001年のイスラム過激派によるアメリカ同時多発テロでした。

アメリカ/ブッシュ大統領(当時)「どの国も、どの地域も決断しなければならない。我々につくのか、テロリストにつくのか」

世界が「テロとの闘い」一色に染まる中、イスラエルも、自分たちを攻撃するハマスを「テロ組織」だとして、ガザへの攻撃を激化させます。

住民の犠牲は増え続けましたが、アメリカは一貫してイスラエルを擁護。国際社会が長年に渡って、パレスチナ問題を置き去りにしてきた中で、今回の事態が起きたのです。

娘と孫3人がハマスに連れ去られた、イスラエル人のモシェさん。対立が解消されないまま家族を奪われたことに、やりきれない思いを抱えています。

イスラエル人/モシェ・ロタムさん「私たちイスラエル人は、長い年月をかけてハマス壊滅を試みてきましたが、成功したのか、今では分かりません。長年私たちはガザを爆撃し、ガザは私たちを爆撃してきました。どうすればいいのか私には分かりません。それでも解決しなければならないのです」

ガザで、空爆の恐怖にさらされているパレスチナ人のサイードさん。死を覚悟する中、子供たちの未来を案じていました。

パレスチナ人/サイード・マカドマさん「私は61年、もう十分に生きました。でも子供にはまだまだ未来があって欲しい。求めているのは、自分たちの人生を築き、近隣国と健全な関係が築けることです。平和が実現するよう真剣な交渉が開始されることを、ただただ願っています」

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