「筆談」と聞いて皆さんはどんな場面を想像しますか。
耳が聞こえない人のコミュニケーションの手段というイメージが強いかもしれません。
そうしたイメージを覆すユニークな雑貨店が奈良市にオープンしました。
(西村 亜希子)
奈良市の近鉄奈良駅近くの商店街に6月にオープンした小さな雑貨店。
ここには1つのルールがあります。
店内でのおしゃべりは禁止。やりとりはすべて筆談で行います。
店:
「プレゼントですか?自分用ですか?」
客:
「自分用です」。
売られているのは、文字をモチーフにしたマグカップやアート作品。
文字にこだわったオリジナル商品です。
商品の値段をたずねるのも筆談です。
客:
「おいくら万円」。
店:
「250万円」。
関西の人にとってはおなじみのやりとりも筆談です。
お客さん:
「始めているうちにだんだん書いているうちに自然に会話が出来て思ってたほど構えることないかな」。
この店を仲間と共同で経営しているのはイラストレーターの加藤慎也さん(39)です。
2歳のときに高熱の後遺症で右耳が聞こえなくなり、21歳ごろから左耳も徐々に聞こえなくなりました。
加藤さんはふだん、補聴器を使って言葉で会話することもできますが、店ではあえて補聴器を外します。
補聴器を外すとほとんど周囲の音が聞こえませんが、こうすることで筆談に集中できるといいます。
加藤慎也さん:
「音に置き去りにされないのが筆談の魅力で、自分のペースで情報を受容できるのは 筆談ならではだと思っている。
あと感情の起伏、ちゃんと声色と同じように筆跡にも現れる。
そういうところもお互い、感情をくみ取りながら、ちゃんと相手の言っていることを 見てる間に咀嚼も出来るので、相手に伝えようという工夫も出来るので」。
ことし7月、加藤さんたちは三郷町にある看護学校で筆談の特別授業を行いました。
看護の現場では病気や高齢などでコミュニケ-ションがとりづらい人たちとも接します。
そうした学生たちに新たな手段として筆談を活用してもらうのが狙いです。
授業の名前は「筆談カフェ」。
コーヒーやお菓子を楽しみながら自由に筆談しました。
スマホでやりとりする機会が多く文字を書くことがあまりない学生たち。
でも、実際にペンを持つと誰からとなく文字のやりとりが始まりました。
学生:
「お茶飲む?」
「お菓子たべやー」
およそ1時間、たわいもない会話ですが紙を埋め尽くすほどのおしゃべりが続きました。
学生:
「筆談で書くこと思いつかないかと思っていたが、
書くのが追いつかないほど言いたいことがたくさんあって」。
学生:
「自分が看護師になったときに筆談できるように
メモ帳持って仕事しようと思いました」。
加藤慎也さん:
「私が私がって書いてもらっているのがとてもうれしくて。
たくさんの人に広げていきたい」。
聞こえても聞こえなくても文字を通して気持ちをつなぐ筆談。
ペンを走らせることで紙の上でにぎわいを感じることができる空間がこの店には広がっています。
加藤さんは今後の抱負を次のように書き記しました。
「たくさんの人たちに筆談ではなく、書くこと、伝えること、伝わることを楽しむ仕掛けつくりをこの雑貨店でチャレンジしたいです。そこから筆談の良さを知ってもらいたいと思います」。
西村 亜希子
普段は県政担当、筆談での取材を通して手書き文字の良さを再発見しました。