牛を襲う 謎のヒグマ「OSO18」とは なぜ被害が? 追跡取材で迫る

NHK
2022年9月21日 午後2:55 公開

日本有数の酪農地帯、北海道標茶町(しべちゃちょう)や厚岸町(あっけしちょう)周辺で怖れられている1頭のヒグマ。

ふだんは植物食を中心とするという他のヒグマと異なり、牛を狙い、次々と殺傷。その数はこの4年で65頭、うち殺されたのは31頭に上ります。

この謎のヒグマを、地元の人はこう呼びます。
「OSO18」(オソ・ジュウハチ)

出現から4年目。拡大する被害をよそに、警戒心が強く人前に姿を見せず、写真にとらえられたのはわずか数回だけです。人間が仕掛けたわなを学習するという、知能の高さも兼ね備えている個体だということも分かってきました。

謎のヒグマOSO18とは。そもそもヒグマは、人間とどう関わり合ってきたのか。専門家の解説と最新情報をまとめました。

(「クローズアップ現代」OSO18取材班)

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そのヒグマは今年もまた…

OSO18による最初の被害(2019年)

OSO18の被害が最初に確認されたのは、2019年の夏。標茶町の牧場で、一頭の乳牛が牛舎に戻ってこないことに牧場主が気づきました。

牧場主が探しに出たところ、血の痕が点々としているのを発見。近くの沢におりる斜面で、その牛が殺されているのを見つけました。体の一部が食べられ、血だらけの姿で横たわっていました。

しかし、それは始まりに過ぎませんでした。

被害は瞬く間に拡大し、襲われた牛は2019年だけで28頭。2021年には、隣の厚岸町にも被害が拡大し、これまでに65頭が被害にあっています。

そのヒグマは、最初の被害現場である標茶町オソツベツという地名と、その足跡の幅が18センチもあったことから、「OSO18」と名付けられました。

その足跡から、大型のオスだと確かめられていて、推定体重は280~320キロ、体長は2.0~2.1メートル、年齢は10~14歳とされています。

被害現場である標茶町と厚岸町、2つの町の面積を合わせると東京23区の3倍ほどと広範囲です。現場に残されたヒグマの体毛から採取したDNAの分析や、足跡の特徴、傷跡の共通点などから、すべてが1頭のヒグマ「OSO18」の仕業によるものだと、北海道庁は断定しています。

OSO18の驚くべき学習能力と用心深さ

地元自治体や猟友会などは対策に乗り出しています。しかし、ここまでOSO18の捕獲にはいたっていません。人間が仕掛けるわなに一切かからないのです。わなの形や餌を変えて仕掛けても、結果は同じでした。

どうやらOSO18は、高度な学習能力を持っていることが分かってきています。

北海道猟友会 標茶支部長 後藤勲さん:

「餌を取るのに足を伸ばして、後ろ足を(わなの外に)出したまま餌に近づいている。(扉が)閉まった時のことを考え、全部閉まらないようにする。そういう頭の良さもある。檻も今まで3メートルくらいのものを4メートルくらいに大きくして。それでも(OSO18は)入らない」

OSO18を捕らえられないもう一つの要因が、極端な用心深さです。

そもそもOSO18は、目撃情報がほとんどありません。広い範囲を常に移動し続け、人間に見つからないために、沢や林に沿って移動して足跡を残さないようにしているとみられています。

標茶町役場では、自動撮影カメラを町内の30か所以上に設置。OSO18の居場所の特定を試みてきましたが、その姿を撮影できたのはたったの数回。警戒心が強いため、ほとんど人前には姿を見せないのです。

発砲が禁止されている夜間にしか襲撃を行わないことも、その姿をとらえにくい理由になっています。

標茶町役場 農林課林政係 宮澤匠さん:

「足跡の大きさっていうのは分かっているのですけれども、個体の見た目の大きさであったり、特徴であったりというところは全く分からない。対策はできることはやってきたけど、やっぱり解決はしてない。無力感というのはずっと感じています」

日本最大の“猛獣” ヒグマの行動はなぜ変化した?

札幌市の空港に侵入したヒグマ(2021年6月) 

ヒグマは北海道だけに生息するクマで、本州や四国にいるツキノワグマより大型であることが特徴です。かつてヒグマは本州にもいましたが、ツキノワグマとの競合に敗れて絶滅していったと考えられています。

近年、人里近くのヒグマの目撃情報が増え、襲われる人が後を絶たないなど、ヒグマと人間の関係が変化してきています。

明治時代以来、農作物や人への被害の大きさから「根絶すべき対象」と考えられ、北海道では、1960年代から冬眠明けのヒグマを無差別に狙う「春グマ駆除制度」が行われてきました。当時の動物生態学の第一人者は「北海道の熊は文化の敵、人類の敵である」と書いていたほどです。

ところが、生物多様性の保全を訴える声が世界的に高まった80年代以降、一転して「豊かな自然のシンボル」として守るべき対象と考えられるようになりました。

「春グマ駆除制度」が廃止された1990年を境に一時期減っていたクマの個体数は急速に回復。推定値では、この30年で2倍以上になりました。

こうしたヒグマが近年、人里近くに現れるようになりました。目撃情報は年々増加し、襲われる人も増えています。

去年は、札幌市の中心部に現れる個体も出現。今月15日には、札幌ドームの敷地内でヒグマの目撃情報が寄せられ、周辺地域の監視や警戒が強化されています。

追跡取材で迫る OSO18の手がかり

被害発生から4年目の今年、OSO18の捕獲が大きく前進し始めています。

北海道庁、標茶町・厚岸町の担当者、猟友会、ヒグマの専門家が集まる会議では、OSO18の居場所を示す手がかりに関する議論が進んでいます。

OSO18を捕獲するためのわなを仕掛ける地元NPO

私たち取材班は、今年の春から、ヒグマ捕獲のエキスパートが集まるNPOの活動に同行し、OSO18の追跡取材を開始。のべ120日にのぼった探索の末に、その移動ルートを絞り込むなど、重要な手がかりを発見しました。

NPO法人 南知床・ヒグマ情報センター理事長 藤本靖さん:

「1頭70万円も80万円もする牛が死んでしまっているわけです。酪農家の人たちは大変ですよ。被害が続いたら、本当に勘弁してくれという話になりますから、やっぱりそれを防いでいかなければならない。そのために力を尽くし、この問題を解決したいと思っています」

NHKでは、今後もOSO18の追跡取材を続けていきます。

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