スマホを乗り換えただけのつもりが…

NHK
2023年6月13日 午後6:22 公開

「お金に困っていたので、個人的にやるなら問題ないと思いました」 「数万円でも欲しかったので、やってしまいましたね」

これらは「スマートフォン転売」に関わってしまった人たちのことばです。

携帯大手各社では、他社から乗り換えた人を対象に値引きやキャッシュバックといったキャンペーンを展開し、1円など安い価格でスマホを販売しています。

ところが、今、この仕組みを利用した謎のビジネスがSNSで横行しているのです。

冒頭の2人は「怪しい人の誘いに乗ってしまったのは後悔」「被害にあったと思われる人はたくさんいる。許せないという気持ちしかない」とも語っています。

取材を進めたところ、深刻なトラブルにつながりかねない「闇」の実態が見えてきました。

(「クローズアップ現代」取材班)

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シュンさん(仮名) 「月給は12万円。これだけでは、やっていけないですね…」 「生活に余裕がなくて手を出してしまいました」

シュンさん(仮名)

シュンさん(仮名)

取材に応じてくれたのは、介護の仕事に就くシュン(仮名)さん。
子どもに洋服やおもちゃなどを買ってあげたいと、手軽にできる副業を探していました。

ある日、SNSで見知らぬ人物から「スマホを契約し転売する仕事がある」というメッセージが届き、興味を持ったシュンさんは応募することに。

シュンさん(仮名)
「携帯(電話)会社に勤めていたという男から連絡が来ました。簡単にスマホを購入して転売する案件だと。数万円でも欲しかったので、やってしまいましたね」

男と連絡を取り、指示された喫茶店に向かったシュンさん。
そこには学生や主婦など10人ほどが集まっていたといいます。

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シュンさん(仮名) 「自分と同じようなバイトがたくさん集まっていました。男に聞いたら50人以上が参加していると話していました」

シュンさんは、その仲間と一緒に、販売代理店で複数のスマホを契約。
その後、仕切り役の男と一緒にすぐにスマホを転売しに行ったといいます。
シュンさんは報酬として一時的に15万円を受け取りました。

しかし、落とし穴が…

後にシュンさんは、合計でおよそ80万円のスマホの端末料金を自分が支払うことになっていることに気づきました。

端末料金の契約書(1台分)

端末料金の契約書(1台分) シュンさんは5台契約

男は、「そのうち端末代も振り込まれる」と説明していたといいますが、その後も携帯会社からは分割支払いの請求が毎月、シュンさんの元に届きました。

シュンさんは端末代が支払うことができなくなり、「個人再生手続き」を余儀なくされたといいます。

シュンさん(仮名)

シュンさん(仮名) 「だまされたと思いました。くやしさ、憎しみもあります。自分のほかにも、被害にあったと思われる人はたくさんいますので、許せないという気持ちしかないです」

携帯大手各社のサービスの隙を突いて急増する「スマホ転売」

こうした、「スマホの転売」を巡るトラブルは、携帯大手の乗り換え値引きキャンペーンの隙をついて行われていました。

「スマホ転売」の構図です。

①まず、格安スマホの通信会社で回線契約を結び、一旦スマホを購入します。
②その後、すぐに他の通信会社で乗り換え契約を行うことで、高機能のスマホを安く手に入れることができます。
③そして、手に入れた高機能のスマホは、より高い値段ですぐに転売します。
④乗り換え先の回線は解約し、それまでの通信料を差し引いた差額がもうけになるといいます。

「スマホ転売」の構図

「スマホ転売」の構図

通信事業各社は、転売目的でのスマホの購入を認めていません。
総務省も「健全な市場競争がゆがめられる」として、こうした転売を問題視しています。

しかし目的を隠して契約する人が、ここ数年で急増し、この仕組みを悪用したトラブルも相次いでいるのです。

SNS上にはスマホ転売で稼ぐ「裏ビジネス」の存在も…

「MNP案件」「スマホ代理購入」「日給3万円」
SNS上には今、このようなキーワードを用いた求人が広がっています。

SNS上に広がるキーワード

SNS上に広がるキーワード

"MNP"とは「Mobile Number Portability」の略で、番号を変えずに他社に乗り換える仕組みのことです。

そうした投稿を行っていたグループの一人に連絡を取ることにしました。

連絡を取るディレクター

連絡を取るディレクター

その人物は、スマホの乗り換えを代理で行う人を募集し、報酬を出していると説明しました。

ディレクター 「どのようなことをするのですか?」

グループの担当者 「1回の報酬で3万円になります。やっていただくことは、ほぼほぼ、事前準備のタマ(回線)づくりと、あとは当日の契約だけですね。それは全部、指示文でつくって送りますので。自分で考えて調べてやらないといけないものは何もないです」

この人物は、「MNP案件」という名の下で組織的にスマホを集めているといいます。
スマホの乗り換え契約を繰り返す人間を水面下で取りまとめているというのです。

グループ担当者が語った「転売」の構図

グループ担当者が語った「転売」の構図

乗り換えを行う人間に転売の目的を伏せてスマホを契約させ、1台数万円の報酬と引き換えにスマホを大量に集めているというのです。

この人物は「集めたスマホは転売し利益を得ている」と明かしました。

グループの担当者
「限りなくグレーに近い感じ。それを自分で自爆して、店に『転売目的だ』と言っちゃうとブラックにもなる。自分で使うためですよって形でふるまえば、まず問題ない。お互いそれで口合わせをしておけば、ひっかかることはないんです」

犯罪に加担してしまったのでは…不安を募らす人も

こうした誘いに乗ってしまい、知らぬ間に犯罪に関わってしまっていたのではと不安を募らす人もいます。

医療関係の仕事をするエリさん(仮名)です。

エリさん(仮名)

エリさん(仮名)

収入が減少し生活に余裕がなくなったある日、SNSで一通のメッセージが送られてきました。

「携帯回線を乗り換えてもらうだけで最大50万円ほどかせげます」

エリさん(仮名)

エリさん(仮名) 「効率のいい仕事。お金に困っていたので、個人的にやるなら問題ないと思いました」

相手に連絡し、待ち合わせ場所にやってきたのは「携帯大手の元社員」を名乗る男。
部下のノルマ達成のために、乗り換え契約の手伝いをしてほしいと言われました。

「1台乗り換えにつき3万円キャッシュバックが入る」と説明されたエリさん。
男と一緒に販売店をまわり、複数のスマホを契約。

そのスマホを男に渡すと、乗り換えの報酬として15万円を受け取りました。

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エリさん(仮名) 「携帯乗り換えたら機種代キャッシュバックとか普通にCMでも言っているようなことを、なるほどと納得させられるような内容と口調で説明された。また、買った端末本体の料金も、乗り換え先から出るので、心配ないと言われた」

しかし、その後、思わぬ事態が起きました。
エリさんは合計およそ70万円の端末料金を支払うことになったのです。

「端末本体の料金も、乗り換え先から出るので心配ない」と説明を受けていたエリさん。
しかし、その料金が払われないまま、男との連絡は突然途絶えました。

端末料金の契約書(1台分)

端末料金の契約書(1台分) エリさんは5台購入

今も高額なスマホの端末代を払い続けているエリさん。

スマホを乗り換えただけのつもりが多額の借金を背負うことになりました。

エリさんは「自分は被害者ではなく店をだました加害者になるでは…」と感じ、しばらく誰にも相談できない日々が続いたといいます。

しかし、「実態を明らかにしなければ、自分と同じような人がますます増えるのではないか…」と思い、今回取材に応じてくれました。

エリさん(仮名)

エリさん(仮名) 「ネットで調べたら、他人に端末本体を渡すことは犯罪になるかもしれないと書かれていて、私も知らない間に加害者になったらどうしようと思い、警察にいくのをためらったりしました。怪しい人の誘いに乗ってしまったのは後悔ですし、甘かったかなと思います」

消費者ホットライン 「悩まず相談してほしい」

東京都消費生活総合センター

東京都消費生活総合センター

「スマホ転売」を巡っては、トラブルがあってもその問題を1人で抱え込む人が多く、実態が表面化しづらくなっていることも、今回の取材を通して見えてきました。

東京都消費生活総合センターには、スマホの契約代行によるトラブルの相談が、この半年間で30件以上寄せられているといいます。

しかし、その実態はさらに多いとみています。

髙村淳子相談課長

髙村淳子相談課長
「18歳から25歳くらいの若い人からの被害相談が多いですが、その数字は氷山の一角です。相談することでこうした実態が表面化し、何かしらの手段を講じることができるかもしれません。泣き寝入りするしかないと思わずに、不安に感じたらまずは相談してほしい」

消費者庁は、困ったときは一人で悩まずに、消費者ホットライン「188」への相談を呼びかけています。  

センターに掲示されていたポスター

センターに掲示されていたポスター

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