2023WBC日本代表監督 栗山英樹さんに聞く!若手が輝く組織の作り方

NHK
2023年6月28日 午後4:56 公開

今、企業経営者の間で「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉が注目されています。なんでも職場がウェルビーイング、つまり「働く人が主体的に幸福を感じる状態にある」と創造性は3倍に、生産性や売り上げは30%以上アップするという研究結果もあるのだとか。

そして「ウェルビーイングのお手本」と関係者が口をそろえるのが、今年3月に日本を熱狂の渦に巻き込んだ侍ジャパン。ダルビッシュ有選手や大谷翔平選手などを擁し、世界一の栄冠を勝ち取りました。監督として、このチームを作り上げたのが栗山英樹さんです。

今回は、栗山さんへのインタビューを通してウェルビーイングな組織づくりのヒントを探ります。激闘続きだったWBCの秘話もたっぷり!野球ファンも必読です。

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(クローズアップ現代取材班)

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知らず知らずのうちにウェルビーイング!?

※中央でトロフィーを持つ栗山さん WBC決勝後の優勝セレモニーにて

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―栗山さん、ウェルビーイングという言葉は、ご存知でしたか?

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栗山さん

ご存知じゃないです(笑)。今回オファーを頂いて初めて知りました。なので、申し訳ないのですが、僕はウェルビーイングなチームを作ろうと思ったわけではなく、結果的に良いチームになって成果もあがったということでしょうか!? 

実際、僕は何にもしてないですよ。本当に選手達が素晴らしかっただけで、僕は楽しんでいただけ。それなのに優勝も味わせてもらって感謝しかないです。でも、もし知らず知らずのうちにウェルビーイングなチームを作っていたのだとすれば、こんなにうれしいことはないですね。

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ウェルビーイングの肝は心理的安全性の確保

偉業を成し遂げても全くおごることなく、どこまでも謙虚な栗山さん。少し話しただけで何でも相談できそうな安心感があります。

実はウェルビーイングが注目されたのは米国のIT企業Googleが行ったある分析。生産性が高くウェルビーイングな職場に共通する最も大切な要素は「心理的安全性が確保されていること」だと分かったんです。簡単に言えば「失敗を恐れずに安心して挑戦できる環境である」ということ。くしくも日本ハム時代からの愛弟子、大谷翔平選手は「(監督が栗山さんなので)選手は何の不安もなくプレイできるのではないか」とコメントしていました。

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失敗でしか人は成長しない 失敗させてあげるために監督がいる

大谷翔平選手を育てた栗山英樹 侍ジャパン元監督熱弁をふるう 

―栗山さんが選手たちの「心理的安全性の確保」、つまり「失敗を恐れず安心してチームのために頑張ろう」と思えるように行ったことは何かありますか?

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栗山さん

失敗に関して言えば、今回のWBCに限らず僕は常に「責任は俺がとるから思いっ切り楽しんでやってくれ」と選手には言ってますね。それは当然というか、その選手を選んで起用したのは他でもない僕なんで。それに失敗しか人は成長しないんで、失敗しないとダメなんです。それが大事な場面であるほど大きな意味を持つ。選手に失敗させてあげるために我々がいるんです。

今回のWBCで言えば、源田がケガをして、ショートをできる選手が、あの時だと牧原、周東、中野の3人でした。ショートのポジションって本当に難しくて、自分のエラーで負けるっていう怖さが分かっているんで、僕は彼らに「(もし君たちをショートに起用したら)それは使った俺が悪いんだから、とにかく思いっきりやってくれ」という話をしました。でも、これはもう僕的には当たり前なんで、いつもそんなこと言ってるんで。

―あれだけの大舞台で楽しむのは監督から言われても難しそうですが。

栗山さん

おっしゃる通りです。なので僕が心がけたのは自分自身がまず楽しむことですね。選手に「思い切り楽しめ」と言いながら「自分は本当に楽しめているのか」いつも自問していました。心の奥底というのは選手に伝わってしまうので。

プレッシャーはありましたけど、僕は決勝の時、本当に楽しかったんです。米国国歌が流れて続いて日本国歌が流れているときに「キターッ!」って。メジャーリーグが大好きで100回くらい取材に行ったことがあって。「俺はこのために野球やってきたんだな」って。人に言う前に「自分が実践する」「自分が感じる」というのは原理原則だと思ってますね。

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クリスマスイブに選手に直電「君が必要なんだ!」

侍ジャパン栗山英樹元監督 WBC優勝の裏に隠されたエピソードを語る

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栗山さん

これは心理的安全性の確保に、直接当たるかは分からないですけど、チーム作りの最初、選手たちに侍ジャパンに選ばれたことを伝える役は、慣例を破って僕がやりました。それまではジャパンの監督やコーチが選手を選んで、それを日本野球連盟から各球団に落として、球団の人が選手本人に伝えるというシステムだったんですけど、僕は「それじゃダメです!その選手を使う監督が“お前が必要なんだ!”って直接伝えなきゃダメなんです!」って強く訴えたんです。

選手の立場からすれば監督から直接伝えられた方が、なぜ選ばれたのか明確になるし、僕のパッションも伝わり、安心できると思うんです。

でも、なかなかこのやり方をOKしてもらえなかったんで「じゃあ百歩譲って、これまでの方法で伝えてもらって構わないけど、僕が本人に伝えるタイミングと一緒にしてくれ」と頼んで実行しました。それで電話しましたよ、クリスマスイブに。

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―クリスマスイブに選手の皆さんに電話したんですか!?

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栗山さん

はい。クリスマスイブにしたのは彼らの心に残るように。本当は全員に直接会いたかったんですけど、オフなんでみんなどこにいるか分からないんで、その日のうちに伝えるには電話しかなかったんです。周りはあきれてましたけどね。「今どき、知らない番号の電話に若い人は出ないよ」って。でも出ましたよ、何人かは(笑)

逆にそれで、その選手の性格も分かるじゃないですか。慎重派かなと見えていたけど、知らない番号にも出る大胆さも持った子なんだな、とか。その逆とかも。大事なこと、会社で言ったら人事に関わることは、必ず直接伝えるというのが僕の信念です。

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ウェルビーイングな職場とそうではない職場

ウェルビーイングに関する研究は日本でも行われています。大手総合電機メーカーの日立では、ウェルビーイングな職場とそうでない職場は何が違うのか、17年間、およそ10万人のデータを集めました。上記の図は、社内で誰と誰が話しているのかの概念図。あまりウェルビーイングではない職場は上司と部下の間だけ。コミュニケーションが上司からトップダウンで行われていることが分かります。これに対して、ウェルビーイングな職場では上下だけでなく、社員同士のコミュニケーションも活発で、三角形であることが分かったのです。なんと栗山さんは、この調査結果を予め知っていたかのようなチーム作りをしていました。

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あえてキャプテンをおかない

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―今回のWBCでは選手同士で話し合ったり、アドバイスをしているシーンをよく見ました。そうした横のコミュニケーションを活発にするために栗山さんが行ったことはありますか?

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栗山さん

今回だけで言えばキャプテンを決めませんでした。全員がキャプテンにならないと横同士のつながりができないんで。キャプテンを決めてしまうと、良いキャプテンがいると縦になるじゃないですか・・・、ピラミッドになっちゃうんで。キャプテンを決めないから横になるんです。

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―驚きです。その考え方は、まさにウェルビーイングな組織に共通するコミュニケーションそのものです。なぜ栗山さんはキャプテンをおかないという手法をとろうと思ったんですか?

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栗山さん

勝つためですね。勝つために。このメンバーが集まった時に、どういう人間関係が出来たら勝てるのかを考えたら、自然とキャプテンを置かないという選択肢になったんです。このチームでは横同士が、こういう野球をやろうぜって話し合った方が良い野球になるのは決まりきっていると思いました。

選手って実は監督に言われるよりも、仲間の選手に言われる方がきくんです。でも、言葉は悪いですがレベルが低いときに、そればっかりやると上手くいかないんですよ。ある程度のレベルになったら、という話なので、あくまでケースバイケースですけどね。

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―キャプテンをおかずに選手同士のコミュニケーションを充実させるという試み。うまくいったな、と感じた瞬間はありましたか?

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栗山さん

手前みそですが沢山ありますね(笑)。まず最初のミーティングで「キャプテンを置かないよ」と選手たちに伝えたんですけど、その後、ダルが僕の部屋に来て「監督、キャプテンおかないの最高っすね」と言ってくれたんです。ダルも同じ考えなんだと思いました。

米国ラウンドでは最初ムネ(村上宗隆選手)が不振だったんですけど、凡退してベンチに返ってきたときに(大谷)翔平や(吉田)正尚が「ムネ、体の開きが早いよ!」ってアドバイスしたりとか。

最高潮だったのは、準決勝でピッチャーを(山本)由伸から湯浅に交代させた時でしたね。大事な場面だったので、湯浅に指示を与えようと思ったんですけど、僕、無視されましたからね(笑)。(山田)哲人と源ちゃんが僕より先に「いいか!湯浅!このランナーはこうスタートを切るから、お前は・・・」ってぐわーっと言ってました。勝つためにやらなくてはいけないことを皆がきちっとお互いに主張してくれて、伝え合ってくれて本当にうれしかったですよ。

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翔平!朗希!名字ではなく名前で呼ぶ意図

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―栗山さんは「大谷」じゃなくて「翔平」、「佐々木」じゃなくて「朗希」など名字ではなく名前で選手を呼ぶことが多いですが意図があるのですか?

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栗山さん

なんか名字で呼び捨てにすると上から言われてる気がしませんか?距離が遠くなるというか。僕は自分をリーダーでも指導者でもなく、マネージャーだと思っているんで。一人一人を良くするために「こういうやり方があるんじゃない!?」「こっちの方がいいんじゃないか?どう思う?」って提案する役割だと思っているので、距離感は大切にしてます。

自分の考えを押し付けたいのではなく、寄り添って選手自らに気づいてほしいので。でも、わざと名字で呼ぶ時もありますよ。だから僕が名字で呼ぶ時ってちょっとドキッとするんじゃないかなと思うんですけど。そこは上手く使い分けてますね。

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―この記事を読んだ上司世代の人が、明日いきなり若手の部下を名前で呼んで職場がザワつきそうですね(笑)

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栗山さん

「ザワ」がいいですよ!「ザワ」の時に止めたらダメで、ザワつかせ続けることが出来ればプラスなんじゃないですか?「ザワ」はチャンスなんですよ。要するに部下が「何コイツ?」って思った瞬間はこちらを意識するじゃないですか。それをどういかすかってことだと思うんですけどね。人って自分で気づかないと成長しないと思うんですね。

それはプロ野球選手も同じで、例えば今の選手で誰かに教わって上手くなった人なんて僕はいないと思うんです。自分で考えて工夫して、自分で上手くなっているはずなんです。その手伝いを我々はするだけなので、どうやったら気づくのか、どうやったら本気になってくれるのか、そのきっかけとして「ザワ」はチャンスだと僕は考えていますね。

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若い世代とは魂でぶつかる

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―今、上司と若手部下の関係性のお話が出ましたが、若い世代とのコミュニケーションに悩む上司は多いと思います。栗山さんからヒントやアドバイスがあればお願いします。

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栗山さん

これに関しては僕自身が悩んでいるので、一番お伝えしたいのは一緒に悩みまくりましょう!ということですね(笑)それを前提にちょっとおこがましいことを言いますと、やっぱり魂を持って伝えることじゃないでしょうか。

今回のWBCの時にふと気づいたんですけど、僕、選手と話している時に真正面に入るんですよ。自分では横に立って話しているつもりだったんですけど、無意識に真正面で向かい合っているんです。でも、それだけ伝えたいんですよ、逃したくないんですよ。

「俺の話を聞いてくれ!」みたいなものがあるんですよ。本気でぶつかっていけば若い子もこっちを向きますよ。だから僕はまっすぐ行きます。

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―直球勝負なんですね。

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栗山さん

そうですね。そうしかできないんですよ。でも、僕は同時に若い人たちに、こうも言っています。「あなたの方が正しい事。世の中にいっぱいあります。それを捨てないでください」と。だって僕が子どもの時はバットを上から下に振り下ろせって教わったんですよ。それが今はどうですか!? メジャーの強打者も、翔平も下から上にすくい上げるようにスイングして、ホームランをバンバンかっ飛ばしているんです。

「たった数十年で世の中は逆のこと言うの?」って感じです。だから常識なんてないんです。若い人たちと我々の間にあるのは意見や考え方の違いだけで、どっちが正しいか、正しくないかじゃないんですね。だから魂でぶつかって対話することが必要だと思います。

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短い言葉を心がける

侍ジャパン前監督 栗山英樹さん真剣な表情で語る

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―若い世代と対話をする際に心がけていることは何かありますか?

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栗山さん

私が尊敬する安岡正篤さん(※)が「人間は短い言葉が大事だ。人間は短い言葉によって感奮興起していく」という言葉を残していて、この一文はノートに書き記し何度も読み返しています。

でも、難しいですねえ。なかなかうまくいかない。これに関しては笑い話があります。日本ハム時代の2016年、絶対的な抑え(のピッチャー)だったクリス・マーティンがシーズン終盤に怪我で離脱してしまったんです。選手たちにケガの事実を伝えなくてはならない、でも、チームを動揺させてはいけない。そんな状況で、試合前に選手を集めて僕は「負けたっていいんだ。とにかくやり切るぞ!」と切り出しました。その後、少し話を続けて最後に「勝つぞ!」と締めたんです。

選手たちは「オーッ!」と応じてくれました。ところがベンチに移動してからザワついたそうです。「負けてもいいのか、絶対に勝つのか、結局どっちなんだ!?」って。今振り返っても恥ずかしい限りです。選手たちからは「必死になっているおっさん」という見え方だったでしょうけど、まあ、それはそれでいいのかなと最近は開き直っています。

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※安岡正篤(やすおか・まさひろ):1898-1983 哲学者・思想家で陽明学、東洋思想、人生論に関する多数の著作がある

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―栗山さんでも失敗することがあるんですね。

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栗山さん

あります。あります。失敗だらけですよ。チーム全体のミーティングなんかでは失敗してしまうぶん、選手と個別に対話する際には事前にストーリーを組み立て、短い言葉を使うようにしています。

あと若い世代相手に限らず聞き手の心に届く言葉を持つには、読書が欠かせないと思っています。学生時代から本には親しんできましたが、日ハムの監督になってからはリーダー論や組織論などビジネス書にヒントを求めることが多いですね。実は、そうした本を読んでいくうちに、成功を収めたと言われる人たちのある共通点に気づいたんです。

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―それは何でしょう?

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栗山さん

みなさん古典に当たっているんです。『四書五経』『論語』『易経』『韓非子』といった教えが、時代を超えて模範的で普遍的な価値を持つことに気づきました。例えば最初に話した「責任は俺がとるから思い切ってやってくれ」というのも『論語』に「君子は諸(こ)れを己に求め、小人は諸(こ)れを人に求む」とあるんです。

「人の上に立つような行いをする人は、成すべきことの責任は自分にあると考える。一方で、自分本位の考えを持つ人は、責任を他人に押しつける」という解釈が当てはまるかと思うんですが、すごいことだと思うんです。だって、テレビもスマホもない何千年も前に書かれたものが現代に生きる私たちの指針となりえるんですから。

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上司世代に送る言葉「刮目相待(かつもくそうたい)」

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―確かにすごいことですね。悩める上司世代にお勧めの言葉があったら教えて下さい。

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栗山さん

最近よく使うのは「刮目相待」(※)という言葉ですね。これは三国志の武将の言葉なのですが「人は三日も鍛錬すれば驚くほど成長するものだから、目を見開いてみなければならない。」というような意味です。僕は、本気になったら人はいつでも変わることが出来ると思っています。上司の方には若い人たちの成長を信じて、その過程を文字通り「刮目」してほしいと思っています。

※刮目相待:呉の武将・呂蒙(りょもう)が主君の勧めで勉学に励んだ時、その進歩の速さに驚いた周囲に対して「有為の人物は、別れてから、たった3日後に会ったとしても、その人のことは目を見開いて見なければいけない。必ず進歩しているものだ」と話したという故事から出来た言葉

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―「刮目相待」心得ました。今日は素敵なお話ありがとうございました。

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栗山さん

こちらこそ。最後に一ついいですか?

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―どうぞ、お願いします。

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栗山さん

僕、偉そうですよね、今。自分で分かっているんです。本当に勘違いしてるなって(笑)。

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―いえいえ、そんなことは全く感じないです。

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侍ジャパン元監督 栗山英樹さん 照れくさそうに話す

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栗山さん

WBCに臨むとき「誰も見たことのない景色を、世界一になって見える景色を見たい」と思って、実際に世界一になれました。だけど一つ確信的に学んだことは、人は勝ち切るとダメになるということなんです。みんなが褒めてくれるし、みんなが僕の話を聞いてくれるから、僕が言っていることが正しいって僕自身が勘違いしちゃうんです。すごい気を付けてますけど、怖いくらいにそれは感じています。

今WBCを振り返ると「あの場面では本当はこうした方が良かったんじゃないか・・・」と思うことがあるんですよ。でも、どこか心の中で「あの時こう思ってしまったけど、結果として世界一に結びついた訳だから、じゃあ間違いじゃなかったのかもな」みたいに思っちゃうんです。

でも、それって何のプラスにもならないし、何の成長にも繋がらないじゃないですか。だから僕が偉そうだったり、ダメなことをしていると思ったら、みなさんにどんどん指摘してほしいんです。これは本当にお願いします!

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―承りました。とても難しいお願いですが・・・。

今日は本当にありがとうございました。重ねてお礼申し上げます。

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