エスカレーター左右どっち乗り?三重で見えた“東西差の謎”

石塚和明・高木理加
2023年2月15日 午後6:25 公開

毎日の通勤や通学などで使うエスカレーター。最近では各地で“2列乗り”“立ち止まって乗ること”が呼びかけられていますよね。でも、立ち止まっていても、思わず左か右のどちらかに寄ってしまうという人も多いのでは。

東京は左、大阪は右とはよく言われますが、間にある三重県ではいったいどっちなの?調べていくと、エスカレーターの“ルール”にまつわる歴史が見えてきました。

(津放送局 石塚和明・高木理加)

エスカレーター乗るの左右どっち?

エスカレーターの乗り方、片側は立って乗る、もう片方は急いでいる人が歩く、という“暗黙のルール”が広がっています。

ただ近年では「危険だから立ち止まって乗って」という呼びかけが各地の鉄道会社で行われ、埼玉県では立ち止まることを求める条例もできるなど、徐々に変わりつつあります。

とはいえ「歩くのは危険だからしないけれど、通路をふさぐと迷惑かも…」などと考えて、片側に寄って乗っているという人も多いのではないでしょうか。

そんな中で、次のような質問が視聴者からNHKに寄せられました。

「エスカレーターに乗るとき、東京は左に立って、大阪では右に立ちますが、三重ではどちらに立つのが正解でしょうか」

うーん確かに。東京と大阪で違うというのはよく聞く話です。でも、間にある三重県はあるときは「東海地方」とされたり、またあるときは「近畿地方」になったりで、どこに帰属するのか、住んでいてもよくわからない県。どうなっているのかあまり意識したことありませんでした…。てなわけで、早速、調べてみることにしました。

“左右どっちでもOK!でも立ち止まって”

多くの人が利用するエスカレーターといえば電車の駅。まずは、三重県内を走る私鉄の近鉄に聞いてみることにしました。対応してくれたのは、近鉄の広報、中湖達也さんです。

記者:

「三重県だとエスカレーターで左と右、どっちに立つのがいいのですか?」

中湖さん:

「ふだん、私は四日市駅で勤務していますが、左側に乗っているお客様をよく見ますね。でも『どっちが正解?』と聞かれれば『どっちに乗ってもOK』になります」

記者:

「どっちでも?」

中湖さん:

「はい。とにかく大事なのは手すりにつかまって立ち止まって乗ることです。歩いて上ったり下ったりすると、ほかの人にぶつかって転倒事故につながる可能性もあります。ですのでもっといえば『左右どっちに立ってもOKですが、危険なので歩かないでください』というのが正解になります」

ヨシ、これで問題解決!と、いいたいところですが、実際には三重の人たちがどのように乗っているのか、気になりませんか?なりますよねっ。

というわけで県内の駅をまわって調査することにしました。

四日市は「左乗り」が圧倒!

まずは近鉄四日市駅へGO!

まずは左、次も左ですね。しばらく見ていましたが、左側に乗る人が圧倒的多数です。

「前から左に乗っているので、自然とそうなっていますね」(四日市市在住・20代男性)

「みなさんそうされているので、左に乗るという感じです」(鈴鹿市在住・40代女性)

利用者に話を聞いてみても、左という意見ばかり。

結果は、159人中、左が150人、右が9人でした。

県庁所在地の津でも左多数

続いてやってきたのは津駅です。こちらも左…左…左…。

「左に乗ります。なんとなく習慣でですかね」(津市在住・50代男性)

「自然に左ですね。ほかの地域に行っても左に乗りますよ」(津市在住・70代女性)

結果は、95人中、左が87人、右が9人。四日市とほとんど変わらない結果に。県北部から中部までは左、という感じになりそうです。

“ここら辺はもう大阪やね”名張は右!

続いてやってきたのは、名張市の桔梗が丘駅です。近鉄に乗れば、奈良県はすぐそこ。大

阪だって1時間半かからないような場所ですが…。

取材を始めると、おおっと早速右だ!次も右!またまた右!。みんな右。

さっきまで左ばかり見ていたのでなんだか新鮮。

利用者に聞くと…。

「ここら辺は大阪から引っ越してきたり、大阪に通勤したりする人が多いから、みんな右やね。もう大阪やね」(名張市在住)

「大阪は右。で、何十年と大阪に住んでたもんで、今も右やね」(名張市在住・大阪出身70代女性)

やはり、大阪などと行き来する人が多いことが影響を与えていそうです。中には、住んでいる場所と勤務場所で変わるという興味深い声も。

「住んでいるところ(松阪)の最寄り駅では左に立っている人が多いのですが、名張では右に立ちますね」(松阪市在住・名張市勤務の女性)

結果は、58人中、左が8人、右が50人。初めての「右乗り」優勢となりました。

熊野“どっちでも変わらんよ”

和歌山県と隣接する熊野市でも、街なかで話を聞いてみました。

すると24人中、左が7人、右が17人。調べた人数は少ないですが「右乗り」が多数でした。

ちなみに歩いていた人によると、

「この辺りには2列で乗るエスカレーターはあまりないし、混むこともないからどっちに乗っても変わらんよ」とのことでした。

“天下分け目の地”に境が!

1日かけて県内を回りましたが、三重県では地域によって異なるという結果に。やっぱり、大阪に近いエリアは右乗り優勢、東京よりは左乗り優勢です。

ここで疑問がわいてきます。そもそもなんで片側に寄るようになったのか…。どうして地域差があるのか…。

どんな分野にも専門家はいます。エスカレーターの文化や歴史を調べて17年という文化人類学者、江戸川大学・斗鬼正一名誉教授にお話を聞きました。

右側に乗るのが主流なのは、実は大阪と大阪への通勤圏だけとのこと。

「大阪、あとは兵庫、奈良、和歌山、大阪通勤圏ですよね。正確に言うと、姫路までは大阪式。ほかは左乗りです。三重県の場合、大阪・名古屋と、ちょうど東西に大都会がありますよね。それが混ざっている。さらにいうと、かつての藩や国が複数混ざってできた地域ですよね。だからエスカレーターの乗り方も分かれている。とても興味深い県ですよね」

また、エスカレーターの乗り方の境界となっているところには、歴史的な特徴があると言います。

「2つの『天下分け目の地』でわかれているんです。東側から西側に向かうと、関ヶ原までが左乗り。それを越えて、滋賀や京都になると三重のようにバラバラになります。そして、天王山を過ぎて大阪に入ると右乗りになるんです。エスカレーターの乗り方に限らないんですけど、文化って江戸時代以来の歴史から大きく影響を受けているんですね」(斗鬼さん)

なるほど~面白いです。

大阪では呼びかけ・東京は自然発生

では、なぜ片側に寄って乗るのが始まったのでしょうか。

斗鬼さんによると、大阪で右乗りが始まったのには、ある呼びかけがあったといいます。

「大阪がなぜ右かというと、阪急電鉄が1967年ごろに急いで歩く人のために『右側にお立ち願います』というアナウンスを1998年までずっとやっていたんです。これが大阪が右になったきっかけです」

それ以外の地域は左乗りで、1989年頃に東京で自然と始まり、次第に全国に広がっていったそうです。なぜ左乗りなのか、実は海外の事例を見ても、エスカレーターの乗る位置はその国の交通ルールとつながりがあるといいます。

「東京は自然発生です。世界各国も自然発生の場合には通行方法と一致します。車の例で分かりやすく言えば、左側は走行車線、右側は追い越し車線ですよね。その影響でエスカレーターでも歩いて追い越すのは右側という習慣が生まれたと思われます

“妖怪いそがし”が片側空けの正体?

その上で、片側に寄って乗るようになったのには、それぞれの時代背景があると指摘します。

日本人は高度経済成長期以降『妖怪いそがし』に取りつかれてしまったんです。のんびりしてると不安でしょうがないんです。エスカレーターに片側に寄るようになったのも、

大阪の場合は、高度経済成長期です。東京の場合、バブル経済のときです。いずれも早いことは絶対的に良いことという価値観だったんですね」

そして、何より安全のために、そして輸送効率の点から考えても、立ち止まって2列に乗ることが大事だといいます。

「片側を空けて、片側を歩くのは輸送効率が悪いというのは、各地で実験されてわかっています。歩く人が少なければ片側しか人が乗っていない状態になりますからね。階段のような『建築物』とは違って、エスカレーターは『機械』なんです。ですから、取扱説明書にも書いてあるとおり、立ち止まって乗らないと危ない。三重のみなさんも、大阪がどうだとか、東京がどうだということを気にされずに、ぜひ2列でお立ちになっていただきたい

今回の結論です。

「関東と関西の間にある三重県は地域によって乗る位置がバラバラ。でも、大事なのは歩かず止まって乗ること」でした。 

取材の中で、「中学校で立ち止まって乗らないといけないと習った」とか「周りに合わせず乗りやすい右側に乗っている」などと話す若者もいました。

かつて“妖怪いそがし”にとりつかれた大人たちから始まった“片側立ち・片側歩き”の習慣ですが、若い世代にはすでに新しい“当たり前”が生まれているのかも知れない。そうやってよい方向に社会が変わっていってほしいと思いました。

まるみえニュースポストへの投稿はこちらから