#5 超越数(シーズン2)

NHK
2023年11月10日 午後5:01 公開

「超越数」、いかがでしたでしょうか?

最後まで見てくださった方々の中には、「『周期』って数学用語、聞いたことなかったけど面白そうだなー!」と感じた方もいらっしゃったのではないかと思います。

「もう一度見たい!」、「私は見逃しちゃったよ!」という方は、NHKプラスでは放送から1週間、NHKオンデマンドでは放送から1年間、それぞれ配信していますので、ぜひご覧ください!

「超越数」が笑わない数学のテーマの1本にならないか、ということはシーズン1のころからスタッフみんなでずっと考えていたのですが、どうもテーマとしては地味じゃないか、とか、そんな先入観に囚われていたためかなかなか進まないままでした。どうせやるなら最先端の数学がからんだ方が面白いけどそんなのあるのかなあ、という感じで正直ちょっと後ろ向きだったわけです。でも、「超越数」って単語はやたらカッコ良くてなにかの必殺技みたいだから、できないかなー、などとずっと悩んでいました。

そんな時、ある若手数学者の先生にお話を伺ったとき、超越数と最先端数学の関係についての驚き事実を教えていただきました。

先生曰く、

「超越数は、『ある偉大な数学者の見果てぬ夢』につながっている・・・」。

ある偉大な数学者とは、ドイツ出身のフランス人で、名前はアレクサンドル・グロタンディークといいます。彼のユニークな数学者人生をたどった著書もいくつかあるのでご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

グロタンディークは、それまで超越数については時折ある数が「実は超越数だった!」という発表がなされる程度の感じだったところを、超越数の研究を「代数幾何学の観点からより統一的に見られる『構想』を提案した」というのです。そしてこの「構想」はいまだに実現されていないけれども、「現代数学の大きな夢として君臨している」という壮大なお話までしていただきました。

ムチャクチャ面白そうなお話だ!と思いつつ、わらすうスタッフにとってはあまりに難しいお話だったので、持ち帰って勉強してみることにしたのです。

そんな中見つけたのは大阪大学大学院教授の吉永正彦先生がお書きになった「コンセビッチ-ザギエの予想」(雑誌「現代思想 未解決問題集号」の一節)という一般向けの論説でした。この論説も、スタッフにとっては決して簡単なものではなかったのですが、番組にも登場したリウヴィル数に対する謎についての記述が、素人なりに目に留まりました。

「ρ(※リウヴィル数のこと)はある意味で、超越性を示すために人工的に作られた数で、数学の他の分野や応用で現れることは聞いたことがない。一方、π、e、log2などは、応用上も重要な数で、超越数を分類する際には、「注目すべきクラス」の方にできれば含まれていてほしい。では、多くの『重要な実数』が持っていて、ρが持っていなさそうな性質というのはあるのだろうか?」 (※上記雑誌より引用)

自然数、整数、有理数、実数、あるいは代数的数、超越数というような数の分類を人類は行ってきたけれども、その先にもまだ分類すべき世界が残っているんじゃないかというわけで、とても魅力を感じたわけです。

そして上の謎への一つの答えとして、マキシム・コンツェビッチとドン・ザギエの二人の数学者が注目したのが、番組でもご紹介した積分表示(ざっくりいうと積分記号を用いた表示)の有無による分類、すなわち「周期」という考え方だったわけです。

この話を聞いてスタッフが面白いと感じた一つが、数学史における、超越数であることが証明された順番でした。

番組でもご紹介した通り、まず人工的な数である「リウヴィル数」が発見され、その次に「自然対数の底(ネイピア数)e」が超越数であると示され、そしてそれを踏み台にして「円周率π」が超越数であると証明されたことをご紹介しましたよね。これって言ってみれば、人間の日常生活から見て、より“ぶっ飛んでいる数”から順に超越性が確認されたのだ、という印象を持ったわけです。リウヴィル数は人工的な数ですから私たちの生活からは程遠い数ですし、eはおそらく積分表示を持たなくて「周期」でもないと考えられているわけで、そういう意味では私たちからやや縁遠い数と言えます。そしてπは積分表示で書けることが分かっているし図形としても認識しやすいから、ある意味で日常生活に近い数って言うことが出来るように思えます。

つまり数学の歴史においては、“よりぶっ飛んだ超越性”とでも言うべきものを持った数から順に、超越数であることが示されたということになるわけです。なんだか素人的にもとても納得がいく分かりやすい段階を踏みしめながら超越数の歴史は進んできたんだな、と感じました。

そういえば学校ではまずπを学び、次に高校とかでeを学び、そしてきっと数学科とかに行くとリウヴィル数を学ぶ、という順番になっていることも、“ぶっ飛び度合い”を考えれば超納得です。

さてさて、番組やこのブログでは、「周期」についてのほ~んの入り口だけをご紹介したわけですが、その奥には、「周期」に関する関係式についての「コンツェビッチ-ザギエの予想」という未解決問題や、グロタンディークの夢だった「モチーフ」という超壮大な考え方なんかが横たわっているそうです。

先ほどご紹介した吉永正彦先生は、ご自身の著書(「周期と実数の0-認識問題」)に、「コンツェビッチ-ザギエの予想」についてこんな素敵な言葉を書いていらっしゃいます。

「そこに予想としてあってくれるだけで幸せな予想、解けなくてもよいが、その予想を心の中で唱え、それが予言する世界に思いをはせるだけで幸せになり、自分でも何かやりたいという冒険心をかき立てられる予想である」(※上記書籍より引用)

どうです?メチャクチャすごそうですよね! 「もっと知りたい!」と思った方は是非、勉強してみてはいかがでしょうか?

では、また!

今回のキーワードと数学者たち

超越数

言ってみれば人知を超えたウルトラスーパーな数?

アナクサゴラス(古代ギリシャ)

円積問題

定規(直線を引く)

コンパス(長さを写し取る)

ルートπの長さは作図できるか

2000年の未解決問題

自然数の長さは作図できる

有理数の長さは作図できる

ルートの長さは作図できる

πの長さを作図する方法が見つからない

なぜ見つからないのか? 19世紀に新しいアプローチが登場

フェルディナンド・フォン・リンデマン(ドイツ)

円周率πの征服者

作図できる長さには、“対応する方程式”が存在する

“対応する方程式” = 整数係数の一変数代数方程式(xの多項式で書ける方程式)

作図できる長さの数は、代数的数に含まれる(“対応する方程式”の解になっている)

超越数 = 代数的数でない数

πは代数的数?それとも超越数?

それまでの数学者は言ってみれば代数的数ばかり調べ上げてきた

虚数iも代数的数

超越数はそもそも存在するのか?

もしかしたら超越数なんじゃないかと疑われていた数がπとe

ジョゼフ・リウヴィル(フランス)

リウヴィル数 = 史上始めてたどり着いた超越数

小数で書くとほとんどゼロがつづく奇妙な数

ちょっと無理やり過ぎる?

ミシェル・ワルドシュミット博士(フランス)

πとeも超越数だったという劇的な展開を見てみたい?

シャルル・エルミート(フランス)

eが代数的数だと仮定し、矛盾を導くことで、eは超越数であることを証明

エルミート・リンデマンの定理

オイラーの公式

尾形が(リンデマンが)πは超越数であることを証明

現在のところ人間がたどり着くことができている超越数はわずか

超越数はハズレもんのレアキャラ?

ゲオルク・カントール(ドイツ)

自然数の個数(濃度)と代数的数の個数(濃度)は等しく、実数の個数(濃度)よりはるかに少ない

数全体のなかで代数的数はほんの取るに足らない存在でしかない

つまり数のほとんどは人間がまだ知らない超越数

「代数的数は漆黒の空にある星のように光っている 漆黒の闇は超越数である」(エリック・ベル)

超越数の分類

マキシム・コンツェビッチ博士(フランス)

積分記号で表すことができる数 = 周期(周期数)

人類の知性の果てしなさ、数学の深い闇と人類の無力さ

数学という超本格ミステリー

カンペ2713文字


次のコーナーは、この番組の監修を担ってくださっている数学者の小山信也さん(東洋大学 教授)の美しい道案内と、もっと深く学びたい方むけのガイド本の紹介です。

数学者が語る「超越数」の魅力 小山信也

3の平方根は √3=1.732… で,これは「2乗して3になる数」として定義されます.このように,四則演算と整数のみを用いて定義される数を「代数的数」と呼びます.そして,それ以外の数を「超越数」と呼びます.円周率π=3.14… は超越数です.

与えられた数がどちらのタイプであるかを判定する問題は難問です.正解が代数的数のときは「2乗して3になる」のような代数方程式を一つ見つければ解答を得ますが,超越数のときは「そのような代数方程式の非存在」を証明する必要があり困難を極めるのです.

代数的数は可算無限個(自然数の全体と同じ大きさの無限)しかないため,大多数は超越数であるわけですが,それにもかかわらず,発見されている具体的な超越数はごくわずかなのです.超越数の理論は,そんな,暗闇の中で砂金を拾うような営みであるといえるでしょう.

エヴェレストに登る理由を聞かれた登山家が「そこに山(エヴェレスト)があるからだ」と答えた話は有名ですが,超越数論の研究者もまさに「そこに数があるから」取り組んでいるのです.

読書案内

◯塩川宇賢「無理数と超越数」

◯西岡久美子「超越数とは何か」

パンサー尾形、「超越数」に挑む!

感想はハッシュタグ#笑わない数学 で! 次回もお楽しみに!

(この数学ノートは、毎週1回、放送後に更新する予定です)