数学ノート ケプラー予想(シーズン2)

NHK
2023年11月21日 午後5:30 公開

「ケプラー予想」、いかがでしたでしょうか?

「よく分かんなかったから、もう一度見たい!」、「いや、見逃した!」という方は、NHKプラスでは放送から1週間、NHKオンデマンドでは放送から1年間、それぞれ配信していますので、ご覧いただけたら幸いです。

パズルのようで奥が深い…充填問題

平面に図形を敷き詰めたり、空間に球を詰め込んだり…。なんだかパズルのような問題で、「これって数学なの?」と思った人も多いのではないでしょうか。でも実は、こうした問題は「充填問題」と呼ばれ、長い歴史をもった立派な数学の一分野なんです。

17世紀初め、「船にできるだけ多くの砲弾を詰め込むにはどうすればよいのか」という、ちょっと物騒な話から始まったケプラー予想。「尾形さんの方法に決まっているだろう!」と直感的に答えが分かってしまいそうな問題が、400年ものあいだ、数々の天才たちを悩ませてきたなんて…。いやぁ、数学の奥深さにはいつも驚かされますよね~。

多角形の平面充填問題

番組では、3次元の問題であるケプラー予想を考える前に、多角形の平面充填問題を紹介しました。放送後、SNSなどで大きな反響があったのは、1970年代に平面充填可能な五角形のタイプを4つ発見したマジョリー・ライスさん。

調べてみると、マジョリー・ライスさんがこの問題に関心を持ったきっかけは、多角形の平面充填問題を特集した1975年発売の科学誌「Scientific American」だったようです。数学は高校で学んだくらいでしたが、かねてから黄金比やピラミッドの美しさに魅了されていたという彼女はすぐにこの問題に取り掛かります。そして1976-1977、新たに4つのタイプの五角形を立て続け発見するのです。数学にあまり馴染みのない主婦が、しかも台所でこの問題に取り組んでいたと言いますから、本当に驚きです! !!

これに決まってる!?円充填問題

続いて番組では、2次元の平面に円を敷き詰める問題を紹介しました。もちろん、円を並べても隙間なく平面を埋め尽くすのは無理です。どうやったって隙間が生まれてしまいます。でもこの隙間がもっとも小さくなる、つまり、円の密度(平面に占める円の割合)が最も大きくなる敷き詰め方はどんな並べ方でしょうか。

スタジオで尾形さんが実演したように、1列目をそれぞれの円が接するようにきれいに整列させ、2列目は1列目のくぼんだところに並べていく。3列目以降も同じように繰り返す。どうです?みなさんも「この方法しかない!」と思ったんじゃないですか?

この並べ方、どの円を見ても、その周りには6つの円が取り囲んでいます。数学の世界で「六方配置」と呼ばれるこの方法が、尾形さんの言うように最も隙間が小さいように思えますが、それを数学的に厳密に証明するのはとっても難しかったんです。

この問題にまず成果を出したのは、はい、この方。この番組の超常連・カール・フリードリヒ・ガウスでした(この番組で何度、「数学の王」と紹介したことか…)。ガウスは「規則正しい並べ方」に限定した場合、尾形さんの並べ方が円の密度が最大になることを数学的に示しました。その密度は、90.69%。ガウスは、オイラーの時代に活躍したラグランジュという数学者の研究成果と合わせてこの問題を解決したのですが、実はガウスもラグランジュも円充填問題の解決が直接の目的ではなかったようです。「数論」と呼ばれる分野におけるラグランジュの功績と、その功績をまったく別の分野で活用したガウスの成果を知った後世の数学者たちが、「あれ?2人の研究成果を使えば、規則的な円の充填問題を解決したことになるのでは!?」と気づき、結局、「事実上、ガウスが解決したと言ってよいだろう」ということになったそうです(以上の理由から、ラグランジュが解決したとする書き物もあるようです)。

ところが、ガウスの証明で円充填問題が解決したわけではないということは、番組でもご紹介したとおり。ガウスが示したのは規則的な並べ方に限った話でしたが、ランダムな場合も含めると、その並べ方は無数にありますよね。もしかするとランダムな並べ方の中に、密度90.69%を超えるものがあるかも知れませんよね。え、ないだろって!?どう見ても、ランダムの方が隙間が大きいだろうって?まぁ私もそんな気がするんですが、「そんな気がする」で納得しないのが、数学者のみなさんなんですよね~。

ガウスの時代から1世紀が過ぎた1940年、ハンガリーの数学者、ラスロ・フェイエシュ=トートが登場します。番組でも紹介しましたが、フェイエシュ=トートは、平面に敷き詰められた円と円のちょうど真ん中に線を引き、円を含んだ多角形を作るという手法によって、ランダムな場合を含めた円充填の問題を解決します。計算が追いつかなかったという人のために計算式の画像を載せましたので、確認してみてください。

フェイエシュ=トートのすごみ。それは、「ランダムに並ぶ円と円のちょうど真ん中に線を引く」というアイデアによって、どこから手を付けたらよいのか分からなかった問題を、「計算可能な領域にたぐり寄せた」ということに尽きると思います。言われてみれば納得できるけど、実際に思いつくのは難しい。まさに、コロンブスの卵のような発想でした。その証拠に、フェイエシュ=トートが発表した論文(本文)はわずか40数行。たった1枚の図だけが掲載された、簡潔きわまりないものだったのです。

ケプラー予想 数学者たちの苦闘の歴史

しかし、「充填問題の権威」とまで言われたフェイエシュ=トートでも、ケプラー予想の前では何度も挫折を味わうことになります。番組でもご紹介しましたが、円充填で通用した手法が3次元の世界では通用しなかったのです。

実はフェイエシュ=トート以外にも、ケプラー予想に取り組んだ数学者は大勢いました。

彼らが目標にしたのが、ここでもまた規則的な並べ方に限定してガウスが求めた「最大密度74.05%」という数字でした。

ランダムな並べ方を含めた場合、この数字を超える密度はあり得るのか?

20世紀半ば以降、数学者たちはそれぞれ独創的な手法を駆使して、74.05%を超える世界を探り始めます。彼らは「〇%より大きい密度はありえない」ということを示し、じわじわとその値を下げ、74.05という値に迫ろうとしました。最終的に「74.05%より大きい密度はありえない」ことを示すことができれば、ケプラー予想を証明したことになるからです。しかし、あと一歩のところまでは行くのですが、それ以上先には進めませんでした。

そんなときに登場したのが、アメリカのトーマス・ヘールズ博士。20世紀も終わろうとしていた1998年、ヘールズ博士が用いたのは当時最先端のコンピューターと科学計算用ソフトウェアでした。博士は言ってみれば、球が配置された空間を細かく分割して、全ての分割のパターンについてコンピューターを使ってしらみつぶしに計算し、最も密度が高くなるパターンをはじき出したのです。その密度は74.05%。問題が提起されてから400年以上経った20世紀の終わり、ついにケプラー予想は証明されたのです。

ヒルベルトが「20世紀中に解かれるべき23の問題」のなかに挙げたケプラー予想。たしかに20世紀には間に合いましたが、ヒルベルトもまさかコンピューターを使って証明されたとは思わなかったでしょうね~。

8次元?24次元?って何だ!?

3次元の球充填問題は解決されましたが、数学者たちはさらに先の世界を探索し始めています。2022年、「数学界のノーベル賞」とも呼ばれるフィールズ賞を受賞した、ウクライナ出身のマリナ・ヴィヤゾフスカ博士。ヴィヤゾフスカ博士は2016年に単独で8次元における最大密度を明らかにし、また同年にほかの数学者たちと協力して24次元の最大密度も導き出しました。

8次元や24次元なんて、いったいどんな世界なのでしょうか。想像すらできませんよね。映像で表現することも無理です。でも数学者たちは、こんなありえない世界を頭の中で考えることが可能なんです。

なんと、8次元の充填問題を解決したヴィヤゾフスカ博士の論文は、わずか25ページ。あまりの簡潔さに、世界中の数学者が驚いたと言います。

今回、ヴィヤゾフスカ博士はわたしたちの取材を快く引き受けてくれました。「数学の魅力やロマンを多くの人たちに知ってもらいたい」という番組趣旨に賛同してくれたのです。2人のお子さんを育てながら、数学の最先端の研究を続ける博士、本当にかっこいいです!現在、博士は外国の研究者たちとともに、ほかの高次元の充填問題について研究を続けていると言います。再び、世界を驚かせるような発見がなされる日は来るのか、みなさんも一緒に吉報を待つことにしましょう!では、また!!


今回のキーワードと数学者たち

ケプラー予想

ヨハネス・ケプラー(ドイツ)

ケプラーの法則(惑星の運動)

船にできるだけ多くの砲弾を積み込みたい どう積んだらいいか?

空間に同じ大きさの球を詰め込むとき、この方法(稠密六方格子と面心立方格子の混合)が、密度が最も大きくなるはずだ

400年の超難問

平面充填

平面に同じ図形(凸多角形)をたくさん並べるとき、どんな図形なら隙間なくビッシリ覆いつくすことができるか?

三角形はどんな形状でも平面充填可能

四角形はどんな形状でも平面充填可能

五角形・六角形はいくつかの条件をみたす形状の場合のみ、平面充填可能

七角形以上は、どんな形状でも平面充填不可能

平面に円を敷き詰めるとき、隙間がもっとも小さくなる方法は?(床に対する円の密度が最大になる方法は?)

円充填問題(2次元)

規則正しく並べる?ランダムに並べる?

カール・フリードリヒ・ガウス

規則正しい並べ方に限定して研究

約90.69%が最大の密度であることを事実上、証明(ラグランジュの研究と合わせて)

ラスロ・フェイエシュ=トート(ハンガリー)

ランダムに並べる場合も含めて解決

まずは有限の広さの領域に円を並べる問題を考える

領域を多角形で区切り、そのあと領域の広さを無限大に広げる

直感が正しいことが証明できた

球充填問題(3次元)=ケプラー予想

ガウスは規則正しい並べ方に限定して研究

約74.05%が最大の密度であることを事実上、証明

ダーフィト・ヒルベルト(ドイツ)

ケプラー予想を23の未解決問題の1つに挙げる

フェイエシュ=トートはケプラー予想(3次元)にも挑戦

証明にはたどり着けない

トーマス・ヘールズ(アメリカ)

コンピューターでケプラー予想を解決

膨大な数の場合分けをしらみつぶしに調べ尽くす

3次元よりも大きな空間の場合は?

10次元では既知の規則的な並べ方よりも密度が大きい奇妙な並べ方(非格子充填)が存在

マリナ・ヴィヤゾフスカ博士(ウクライナ)

2022年フィールズ賞

8次元と24次元の世界で球充填問題を解決

生きるために大切な何かを数学から学ぶ日が来るかも


次のコーナーは、この番組の監修を担ってくださっている数学者の小山信也さん(東洋大学 教授)の美しい道案内と、もっと深く学びたい方むけのガイド本の紹介です。

数学者が語る「ケプラー予想」の魅力 小山信也

 17世紀,ケプラーは「同一の球を最も効率よく3次元空間に詰め込む方法は,果物屋のオレンジの積み方と同じ」と予想しました.この予想が証明されたのは1997年.解決までに要した時間は,実に400年です.この壮大なノンフィクションは,数学に対する様々な見方を考えさせてくれます.18世紀のラグランジュ,ガウスによる先駆的な研究から, 20世紀末に計算機に頼った解決がなされ「数学とは何か」の論争に発展するまで,予想にまつわる豊富な話題が披露されます.

読書案内

◯ジョージ・G・スピーロ「ケプラー予想:四百年の難問が解けるまで」

パンサー尾形、「ケプラー予想」に挑む!

感想はハッシュタグ#笑わない数学 で! 次回もお楽しみに!

(この数学ノートは、毎週1回、放送後に更新する予定です)