長引くコロナ禍。不安やストレスから、またリモートワークなど環境の変化から、飲酒量が増えたという人が続出しています。都内のあるクリニックでは、昨年4月頃から、コロナ禍が原因と考えられるアルコール依存の新規患者が増加し始めました。その割合は増え続け、今年4月には全体の3割を占めるまでに至っています。
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また、イギリスでは、アルコール関連死がコロナ前と比べて19.6%増えているとの報告もあります。これまでの研究で、「強いストレスに直面すると、依存症に陥る人が増える」ことも分かっており、WHOは昨年3月、「新型コロナウイルス感染拡大状況における依存のリスクについての注意喚起文書」を発表しています。
コロナウイルス拡大状況における依存リスク注意喚起(WHO) (※NHKサイトを離れます)
知らぬ間に進行するアルコール依存症
今回多くの患者の皆さんに取材に協力いただきましたが、依存症に陥ったきっかけは様々でした。「かつては通勤でオンオフの切り替えが出来ていたが、コロナでリモートワークが増えたために合間に飲酒するようになってしまった」「緊急事態宣言で飲みに行くことが出来なくなり、ストレス発散のため自宅での飲酒量が増えた。」さらには「コロナで仕事が無くなり、酒量が増えた」「断酒会に通って依存症を治療していたが、コロナで断酒会が開けなくなり、再び大量飲酒してしまった」という人も。
中でも目立ったのが、「アルコール依存症といえば、“手が震える”などの離脱症状が出るイメージ。自分は仕事も出来ているし、依存症ではないと考えていた」との発言でした。しかし実際には、毎日のお酒がやめられなかったり、なかなか酔えなくて飲酒量が増えていく、また記憶が飛ぶ“ブラックアウト”などの症状がある人は依存症の入り口に立っていると考えられます。下記のサイトでアルコール依存症のセルフチェックを行うことが出来るので、ぜひお試しになってください。
問題飲酒者のスクリーニングテスト(WHO開発) (※NHKサイトを離れます)
お酒を止めなくてもいい? “減酒”という新選択
今回取材したアルコール依存症患者の方の多くが、当初は病院に行くのをためらったと言います。理由は「病院に行くと、断酒しなくてはならなくなる」「たしかに飲酒量は増えているけれど、そこまで大きな問題でもないから、このままで大丈夫」などが主でした。これらの発言が表す通り、国内には実に100万人以上のアルコール依存症患者がいるとされていますが、実際に治療を受ける患者は全体の5%ほどに過ぎないと言います。専門家の間では、この“治療ギャップ”をどう埋めるか、どうやって病院に来てもらうかが長年の課題でした。
そんな中で新たに登場したのが、“減酒”という治療法。これまでの治療では、“抗酒剤(お酒を飲むと体調が悪くなる薬)”を使って、完全な断酒を目指すことが主流でした。 しかし2019年、ナルメフェンという“減酒薬”が認可され、「お酒を完全にはやめず、減酒薬で酒量を調節してうまく付き合っていく」という選択肢が生まれたのです。このナルメフェン、ヨーロッパでは2013年に承認されており、現在世界30か国以上で使用されています。(この減酒治療は「飲み始めてからの期間が短い人」や「ある程度飲酒コントロールができる人」に有効で、飲みだすと完全にコントロールを失う重度の方は、やはり断酒治療が必要となりますのでご注意ください。)
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私たちがアルコールを飲むと気持ちよくなるメカニズムの一つは、快・不快などの情動に関与するエンドルフィンなどの脳内神経伝達物質が活性化するためです。ところがナルメフェンを飲むと、このはたらきが抑えられ、「飲酒による快い感情」が減ったり、気分があまり高揚しなくなったりすると考えられています。その結果、自然と「飲みたい欲求」が減っていき、飲酒量を抑えることが出来るという仕組みです。
減酒薬の効果は人によって異なり、今回の取材では「服薬することで酔いを感じにくくなった人」「お酒の味が変わったように感じた人」人もいらっしゃいました。また都内のクリニックがナルメフェンを1ヵ月間服用した患者154人に対してアンケート調査したところ、92%が「減酒効果があった」と答えています。その際、「気持ちが悪くなる」「眠気を感じる」などの副作用を感じた方もいらっしゃいました(さくらの木クリニック秋葉原調べ)。
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減酒治療は、下記のような流れで進みます。
① 医師と相談し、本人の飲酒や健康問題などを評価する
② それに基づき、患者本人が「目標とする飲酒量」を決める
③ 毎日の生活で、飲酒量を記録する。その際、必要に応じて減酒薬を服用する
④ 記録を持参して、定期的に通院・カウンセリングを受ける
日本国内で減酒治療を受けられる病院は増え続けており、現在はおよそ160施設が対応しています。下記サイトから、お近くの病院を探すことが出来ます(住所や駅を入力すると、「施設の名前」「受けられる治療法」が表示されます。「減酒指導」と出る施設で、減酒治療を受けることが出来ます)。そのほか、NPOがまとめたアルコール依存症の相談先一覧もご紹介します。
減酒治療の対応病院 検索サイト (※NHKサイトを離れます)
また、減酒をサポートするアプリを利用する人も多いそうです。手軽に適正な飲酒量を知ることができるので、「自身の飲み方が大丈夫か気になる……」という方に、一部をご紹介します。
まだまだ先が見えない、コロナ禍。次々迫られる新しい暮らしや働き方に、ストレスや不安が絶えない毎日が続きます。上記の病院や相談窓口を利用したり、身近な人に気持ちを話すことなどを通じて、なんとかこの苦境を乗り切っていきましょう。