【用水路事故】47都道府県の担当部署への実態調査から課題と解決策に迫る

NHK
2023年7月12日 午後5:59 公開

全国の用水路や排水路の総延長は40万km。その用水路に転落し、負傷・死亡する事故が全国で相次いでいます。今回私たちは、事故対策を担う全国の都道府県の部署に実態調査を行いました。用水路で起きる事故の調査や対策を長年行ってきた水難学会の斎藤秀俊さんと、調査結果をもとに用水路事故の課題と事故を防ぐ糸口を考えます。

(クローズアップ現代取材班)

斎藤 秀俊さん

一般社団法人水難学会理事。長岡技術科学大学大学院教授。

水難学者。用水路だけではなく水難事故の原因究明と分析、提言を行う。

全国の用水路問題も詳しく、現場に足を運び、行政や地元の住民・農家との対話の中から対策を訴える。

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47都道府県に聞く“用水路事故”の件数は?

今回、事故対策を担う全国の都道府県の部署に実態調査を行いました。まず質問したのは“用水路事故” {※農業用水路(用水路・排水路)や、側溝、水路などで死亡した事故}の件数を把握しているか?

さらに、「把握している」と答えた都道府県については、

・昨年度(2022年4月~2023年3月)

・10年間(2013年4月~2023年3月)

の死亡事故件数を聞きました。その結果をまとめたものが以下の2つの日本地図です。

●用水路の死亡事故 昨年度(2022年4月~2023年3月)

用水路の死亡事故 10年間(2013年4月~2023年3月)

専門家に聞く“用水路事故”の実態

実態調査の結果、すべての都道府県が事故の実態を「把握している」と回答しました。しかし、2019年に15道府県でNHKが行った2018年度の用水路での死亡者数の調査では、警察の統計では合計47人、消防への取材によると合計154人と3倍もの開きがあることが発覚。用水路事故を巡る各組織での取り扱いの違いなどから、その実態把握は難しいとされていました。こうした課題は解決されたのでしょうか。専門家の斎藤秀俊さんに聞きました。

――実態調査では、昨年度の死亡事故が全国で92件という結果になりました。これはどのくらい実態を把握していると考えればよいでしょうか?

斎藤 秀俊さん:

私たちに入ってくる情報からの推測になってしまうんですが、実態はもっと多いと思います。県によって10倍はあるだろうというところもあります。例えば、海で遺体が見つかったとしても、どこから流されたかも分からないと単なる事故死で片付けられてしまう。用水路で落ちたとしても確証もないから用水路事故にカウントされないわけです。どういうカウントの仕方をしたかによっても変わっていて、用水路に落ちて亡くなった人を全部カウントしているのか、用水路の中で溺れた人だけをカウントしているのかによっても変わってしまいます。

今回の都道府県への実態調査では、水路事故の実態把握の現状や難しさについて、県の担当部課に自由記述でも質問しました。実際に、都道府県からも実態把握の難しさを訴える意見があがりました。

●水路といっても、農業用水路、道路側溝や下水路まで様々な管理者がおり、また、道路からの転落や民地からの転落など転落原因も多岐にわたるため、統計としての数値の把握はできていないのが現状です。(岡山)

●水路管理者も異なることから、府内にあるすべての農業用水路の事故を把握することは難しい。(大阪)

●情報収集の課題として、道路の側溝等、明らかに農業用水路以外の水路であると判断されたものは農業関係部署では把握できない事や、都市化が進んだ地域では、農業用水路との認識が希薄であるため,当課へ情報が入らないケースも潜在していると思われる。(広島)

●高齢化や人手不足等の運営状況により、水路管理者(土地改良区等)を主体とした情報発信は少なく、人身事故の情報源は新聞が主である。そのため、新聞に掲載されない事故等、全てを網羅することは困難な状況にある。(愛媛)

“用水路事故”の実態把握の難しさ

“用水路事故”の実態把握の難しさは、都道府県に対して質問した「水路での死亡事故件数は、何を根拠にまとめていますか?」という実態調査の結果にも現れています。

□警察発表  □消防への聞き取り □マスコミの報道  

□各市町村への聞き取りや報告まとめ □その他(自由記述)

という選択肢で、各県の担当部課に聞いたところ、都道府県によってそれぞれ違う根拠をもとに情報をまとめていることがわかりました。

――各都道府県によって、根拠とする情報に違いがあるようです。

斎藤 秀俊さん:

目立ったのが、「マスコミ報道」をもとに、実態を把握している都道府県です。ここからは、事故を全て把握することについて、ある種の諦めムードがあるような感じを受けます。ニュースになったということはもうすでに事故が起こった後で、消防や警察には連絡がいっている可能性が高いですが、その情報が県に上がっていなかったり、メディアの情報をもとに県のほうが問い合わせをしているということです。

――どうしてそのようなことが起きるのでしょうか?

斎藤 秀俊さん:

都道府県によって、用水路の形態も法律的な位置づけも違うということがあります。用水路の総延長が長いか短いか、住民が暮らす所に近いか遠いか。さらに、これは用水路を作った時からの歴史的な流れだと思いますが、用水路の所有者も都道府県であったり市町村だったりとまちまちです。そのため国内で、事故について都道府県に報告する一律のルールがなく、マスコミ報道を頼りにせざるを得ないという問題が起きています。

“用水路事故”への対策は?

実態把握も難しい“用水路事故”ですが、齋藤さんによると、痛ましい事故などの報道によって、近年、少しずつ対策が広がっているといいます。実態調査の自由記述からも、各県で進められている対策が寄せられました。

●用排水路やため池の点検・補修について、3か年毎に計画を策定し、毎年安全施設の設置状況等を確認して、進捗管理を行っており、対応が必要な安全施設の整備に関しては、施設管理者(市町村・土地改良区)が行う事業実施の支援を行っている。(宮城)

●年3回、「農業用水路転落事故防止強化期間」を設定し、県、市町村、施設管理者が連携し、県下一斉に啓発活動及び危険箇所の一斉点検を実施。(富山)

●特に危険な箇所については、国の補助事業を活用し、令和元年~2年度にかけ転落防止対策を集中的に実施した。(岐阜)

●水路の危険性を幼いうちから理解してもらうため、令和3年度から県内各小中学校に対し「安全対策啓発ポスター」を配布している。(静岡)

――各都道府県も対策を進めているようですが、今後“用水路事故”を無くすために、どのように対策していくべきでしょうか?

斎藤 秀俊さん:

まずはしっかりと全体の死傷者数や実態を把握するための画一的な体制を整えること。そうしないと問題の事の重大さが正確に把握できません。私はやはり事故の情報が直接都道府県に集められるルールを作ることが必要だと思います。また、用水路を全てに網をかぶせるといった対策は合理的ではないので、事故が頻発する場所を見極め、そこに対して重点的に対策をする必要があります。それだけでかなりの事故が防げるのではないかと予想しています。今、着脱可能で農家の作業の邪魔にならず、コストも安い網のような「具体的な技術」の研究開発も進んでいます。そうしたものを広げて事故を防いでいくことが必要です。

――ありがとうございました。

NHKでは引き続き、全国各地で起きている用水路事故に関する情報を募集しています。

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