(2023年10月28日の放送内容を基にしています)
“ルフィ”などと名乗る指示役が、2022年から2023年にかけて全国で引き起こした広域強盗事件。フィリピンの収容所から闇バイトで集めた若者を操り、強盗を繰り返した疑いで逮捕された。
しかし指示役の逮捕後も、現地に残ったメンバーが、他のグループと結びつき、犯罪行為を続けているという。
いま、ルフィ事件と同じように、SNSなどの闇バイトで集められた実行役による強盗事件が後を絶たない。実行役を逮捕しても、背後にいる首謀者が誰なのか分からないケースがほとんどだ。
これまでとは異なる形の犯罪グループが生まれているのではないか。
警察庁は2023年7月、こうした犯罪グループに新たに“匿名・流動型犯罪グループ”と名前を付け、実態解明に乗り出した。
“匿名・流動型犯罪グループ”とは何なのか。
闇バイトで集められた者たちが実行役になり、犯行ごとにメンバーが入れ替わる。指示役など上にいる者たちも、犯罪に使うリストの調達や現金の運搬など、役割ごとに異なるグループから加わっている。その結びつきは緩やかで流動的だ。
さらに、ハンドルネームで呼び合い、お互い名前も知らない。通信手段には匿名性の高いアプリを使っているため、警察も関係性がつかみづらいのだ。
取材班はその実態をつかむため、フィリピンで取材を重ねると、ルフィグループと協力関係にあったとみられる、複数の組織の存在も見えてきた。
社会に忍び寄る新たな脅威、「匿名・流動型犯罪グループ」の実像に迫る。
千葉県市川市。2023年1月、閉店間際の質店に3人組の男が入ってきた。そのときの防犯カメラの映像。男たちはゴーグルやマスクで顔を隠している。
持っていたハンマーでショーケースをたたき割り、高級腕時計など、490万円相当を奪っていった。わずか2分間の犯行だった。たまたま事務所の奥にいた店主にケガはなかったが、一部始終を間近で目撃していた。
質店・店主/佐藤正明さん「初めは、かなりプロなのかなと思ったんですけど、稚拙な部分も多くて、犯行は大胆。また同じことが起こるのではないかという恐怖心は今でもあります」
後に逮捕された3人は全員19歳。いずれもSNSの闇バイトで集まったとみられている。
警察は各地で相次ぐ、闇バイトを使った強盗事件に危機感を募らせている。警察庁は先月(2023年9月)、全国の捜査幹部を集めた会議で、“匿名・流動型犯罪グループ”の摘発強化を指示した。
警察庁/露木康浩 長官「都心の繁華街で白昼堂々と行われる強盗など、これまででは想定できないような態様にまで拡大しています。全国警察が一体となって、捜査活動を迅速かつ効果的に展開する必要があります」
暴力団のようなピラミッド構造になっておらず、指揮系統の解明が難しい“匿名・流動型犯罪グループ”。警察は組織の垣根を超えて対応する必要に迫られていた。
警察庁・組織犯罪対策二課長/森下元雄 警視長「暴力団であれば、組織に属しているかどうかが、ある程度はっきりしますが、そういったものではない。まさに犯罪ごとに集められ、分かれていく組織なので、非常に外縁が分かりにくい実態があります。暗躍するグループに対して、これまでの警察の縦割りの枠組みでは、到底対応しきれないという危機感は持っています」
捜査はどのように行われているのか。今回、その最前線を取材するため東北に向かった。
福島県、南相馬警察署。2023年2月、平穏だった町に衝撃が走った。70代の夫婦が暮らす住宅に3人組の男が押し入り、現金やネックレスを強奪。夫はパイプレンチで殴られて、頭の骨を折る大けが。妻も脚を粘着テープで縛られて軽いケガをした。
実行犯の逮捕までには、それほど時間がかからなかった。現場付近に設置された防犯カメラや、ドライブレコーダーの映像から実行犯が乗った車を特定。およそ130人の捜査員を投入して、100台以上の防犯カメラなどの映像を収集したという。その映像をたどることで、実行犯の足取りを追った。そして、関東方面や北海道に逃走したことをつかみ、警視庁などと連携して、事件発生の8日後までに実行犯3人を逮捕した。
捜査を指揮する、我妻良一警部。実行犯は逮捕したが、その後の捜査は壁に直面したという。
福島県警察本部・捜査第一課/我妻良一 警部「やっぱり匿名型であることで、つながりが見えない。これまでの我々がやっている捜査では、つながりが必ず出てきます。知人、学校の同級生、不良仲間、いろいろなつながりがあるんですが、今回は全くそういうのがない」
逮捕された実行犯は、いずれも闇バイトで集められていた。2人は高校の同級生だったが、もう一人は面識がなく、犯行の当日に指示役から指定されたJR福島駅で、初めて顔を合わせたという。
そして3人の供述などから、送迎役や仲介役など、新たに6人が捜査線上に浮上。犯行に関わった疑いがあるとして、逮捕に踏み切った。
しかし、それぞれが連絡に使っていた匿名性の高いアプリが裏付け捜査を難しくさせた。
日ごろ、私たちがよく使う通信アプリは、端末でメッセージを削除してもサーバーに履歴が残される。一方、匿名性の高いアプリは、メッセージが暗号化され、経由するサーバーの所在もつかみづらい。さらに端末の履歴も自動で消去される。
捜査本部は特殊な技術を使って、実行犯から押収したスマートフォンを解析。事件直前のやりとりの一部を復元することに成功した。
捜査員「犯行の準備物についても指示しているような内容が入っています」
「福島に行って、老夫婦の家に侵入。金品現金奪う」。ハンマーや結束バンドなどは、自分で用意するよう指示していた。
このメッセージを送っていたのは、東京グループの仲介役だった男。この男は起訴されたが、ほかの5人については、スマートフォンを解析しても実行犯とのつながりがはっきりせず、これまで起訴に至っていない。
一体誰が犯行を指示していたのか。3つのグループをつないでいたのは何者なのか。全容は今も明らかになっていない。
福島県警察本部・捜査第一課/我妻良一 警部「縦はあるけど、横のつながりがないので、どこで誰がつながっているかというのが、見極めるというんでしょうか、見つけるのが非常に難しい。首魁(しゅかい/首謀者)という姿がまったく見えてきていない。それが匿名の特徴なのかもしれません」
首謀者の姿が見えない、匿名・流動型犯罪グループによる強盗事件。
先月(2023年9月)も、千葉県習志野市で17歳の少年ら2人組が質店に押し入り、刃物で店員に大けがをさせる事件が起きた。
警察が摘発した、匿名・流動型犯罪グループによる強盗事件はこの2年間で70件。全国22の都道府県に広がっている。これまでに154人が検挙されたが、その多くは、闇バイトで集められた実行役だ。
取材班は、闇バイトを集める、リクルーターをしていたという人物に接触した。
この人物が、闇バイトを募集する際に使っていたというSNSには「稼げる仕事しか紹介してません」などとうたっている。
元リクルーター「これで誘導していってDM(ダイレクトメール)で直接もらって、それで出来るなと思ったらやらせる。『1日5万から10万円稼げます』みたいなのが、(若者たちに)いちばん刺さっているんじゃないかな。いっぱいいるよ。釣り堀みたいなものだよ、入れ食い」
闇バイトによる逮捕者が連日のように報じられても、応募する若者が絶えることはないと言い放った。
元リクルーター「毎日汗水垂らしている姿を見せたりしても、楽してカネ稼ぎたい奴には響かない。だったら(SNSで)ロレックスして、バーキンだの持って着飾った人間が、『簡単にこれで稼ぎました』って。そういうところからの誘導だから。完全に落ちている、心理で。これで連絡が来るやつは、ほぼほぼやるから」
闇バイトを操る、匿名・流動型犯罪グループ。警察が、この新たな犯罪グループの実態解明に乗り出すきっかけとなる事件が摘発された。
ルフィなどと名乗る指示役が引き起こした、広域強盗事件。関与した疑いがあるのは、2022年5月に京都の時計販売店が襲われた事件に端を発し、これまでわかっているだけで、5つの都府県で8件。
2023年1月には、東京・狛江市の住宅で、90歳の女性が結束バンドで縛られ、暴行を受けて亡くなった。警察は一連の強盗事件でのべ、およそ50人の実行役を逮捕。押収した実行役のスマートフォンを解析するなどした結果、強盗の指示を出していた場所が特定された。
そこは、フィリピンの首都マニラの中心部から10キロあまりのところにあるビクタン収容所。指示役として逮捕されたのは、日本からフィリピンに渡り、特殊詐欺をしていたグループの幹部4人だった。
“ルフィ”や“ミツハシ”など複数のハンドルネームを使って、指示を出していた疑いがあるのは今村磨人被告。
渡邉優樹被告は、特殊詐欺グループのトップ。現地でビッグボスと呼ばれていた。
2019年、フィリピン当局の摘発を受けた渡邉被告らのグループ。このとき、日本人36人の身柄が拘束されたが、幹部4人は摘発を逃れた。しかしその後、「好ましからざる外国人」として、フィリピン当局に拘束され、ビクタンに収容されていたのだ。
なぜ、遠く離れたフィリピンの、しかも収容所の中から、強盗の指示を出すことができたのか。
収容所では職員に賄賂さえ渡せば、スマートフォンやパソコンの使用は自由。VIPルームもあり、酒やたばこも買うことができたという。渡邉被告らも職員にカネを渡し、電話を自由に使うことが許されていたとみられている。
渡邉被告や今村被告と同じ時期に、ビクタンに収容されていた人物が取材に応じた。スマートフォンをつないで、強盗を指示する様子を目撃していたという。
「スピーカーにしているので、私にも聞こえてます。邪魔する奴がいたら殺してもいい、くらいの言葉でやっていましたよ」
実行役には、現場の地図などを送って下見をさせ、犯行の際にはイヤフォンをつけさせ、リアルタイムで指示を出していたという。
「本当に捨て駒にしてきた人間は50、100じゃきかない。かわいそうなくらいです。まったく何とも思っていない。笑ってますね。ああ捕まった、また探そうって、また闇バイトで人探そうって」
なぜ特殊詐欺をしていたグループが凶悪な強盗に手を染めるようになったのか。
取材班は、ある人物から、ルフィグループが使っていたとされるリストを示された。
「メンバーが利用していたリストの一部です」
ササキ(仮名)と名乗るこの人物。フィリピンでルフィグループの一部の幹部とつながりがあったという。
リストに記されていたのは名前や住所、電話番号。そこに手書きで、保有する財産や家族構成などの情報が書き込まれている。
ルフィグループは、このリストを強盗に活用しようとしていたと語った。
ササキ「キャッシュカードをだまし取ってやろうといった瞬間に、(特殊詐欺が)失敗に終わる可能性もある。とすると、大きなお金を持っているという情報だけが残っている。彼らは常日頃から、なんとか活用できないかと言っていた」
警視庁捜査一課で、およそ20年にわたって強盗事件を捜査してきた副島雅彦氏は、匿名・流動型犯罪グループは首謀者が姿を見せず、遠隔で闇バイトを操る特殊詐欺のノウハウを強盗にも流用していると見ている。
元警視庁捜査一課理事官/副島雅彦氏「特殊詐欺というのは、そのまま存在するんだけれども、強盗にまで幅を広げた。上部にいる人間が、非接触型・非面接で、お金の受け渡しも非面接で、絶対下が捕まっても上は分からないというシステム。犯罪ビジネスが確立していった」
フィリピンを拠点にしながら、強盗事件を繰り返した疑いがあるルフィグループ。闇バイトを巧みに操り、手口を凶悪化させていた実態が浮かび上がった。
ルフィグループが犯行に使っていた可能性があるというこのリスト。実はフィリピンを拠点にする、ある別のグループから提供されたものだという。
取材班は、匿名・流動型犯罪グループの実態をつかもうと、フィリピンのマニラでさらに取材を進めた。訪ねたのはフィリピン入国管理局。レンデル・シー主任捜査官は2023年2月、今村被告ら、ルフィグループの幹部を日本に強制送還した際に陣頭指揮をとった。
ルフィグループにリストを渡していたグループとは、どんな組織なのか。
レンデル・シー主任捜査官「現在捜査中のため詳細は言えません。フィリピンでルフィグループを助けていた別のグループが存在する可能性は高い。長期にわたって暗躍しているグループです。私たちは捜査する正当な理由があるので、現在監視を続けています。このグループが様々な違法行為に関与しているとの報告を受けています」
フィリピン当局が監視を続けているグループとは何なのか。
マニラ中心部にある歓楽街。欲望渦巻くこの街で手がかりを探した。接触したのは日本の元暴力団員。10年ほど前にマニラに渡り、現地の裏社会に詳しいという。この男が名前を挙げたのは・・・
「JPドラゴン」。日本の元暴力団員や半グレなどが作った組織だという。
元暴力団員「反社ですよね。日本でヤクザやってた人もいるし、そこから日本人が1人、2人、3人って増えていったグループ。基本的にはマフィアみたいな活動している。もともと(名前の由来は)サボン(闘鶏)のチーム名だから」
20年以上前から、フィリピンで闘鶏賭博(とばく)を取り仕切ってきたというJPドラゴン。その裏で、現地で商売をする日本人からカネを吸い上げ、資金源にしているという。
元暴力団員「JPドラゴンのシマでカスリ(上納金)も払わないで何で仕事してるんだって。毎日毎日さ、飯、飲み、抱く銭(欲しさに)。日本人さらって金を取って。だけど一切捕まってない」
取材班に、ルフィグループが使っていたというリストを示したササキ。実はこのリストを提供したのが、JPドラゴンだったと明かした。
ルフィグループとJPドラゴンは、どのようにつながったのか。
ササキ「セルフォンスキャム(特殊詐欺)のグループがいるから摘発するよっていうのを、(フィリピンの)警察の方から聞きました。そのときのリーダーが今村磨人(被告)だった。そこでお前らどうすんだと。このまま逮捕して、それこそビクタン収容所に入れて強制送還されるか、それとも俺(JPドラゴン)の下で働くか。俺の下で働くなら守ったると」
2019年に、特殊詐欺の拠点が摘発されたルフィグループ。その際、渡邉被告や今村被告は摘発を逃れた。現地の捜査当局によると、その逃走の手助けをしたのが、JPドラゴンのメンバーだったという。
これをきっかけに、今村被告がハブ役となり、2つのグループがつながるようになったとササキは語った。
ササキは、その証拠だという写真を見せた。今村被告がビデオ通話をしているときの様子。相手は、左上に写っている、JPドラゴンの現役の幹部だという。
ササキ「今村磨人(被告)はJPドラゴンにいながら、渡邉(被告)と一緒にやる。簡単にいうと、両立するというか。本当に密に連絡をとっていた」
今村被告と同じ時期にビクタンに収容されていた人物。JPドラゴンのメンバーが収容所に出入りする様子を目撃したと証言した。
「電話でもそうですし、(JPドラゴンのメンバー)本人が施設に来るし、中に入って今村(被告)とも話をしています。現金を受け取ったり、食べ物を受け取ったり」
そしてJPドラゴンのメンバーは、収容所にリストを届けるなど、ルフィグループの犯罪を手助けする役割を担っていたと語った。
「(JPドラゴンから)携帯電話を受け取ったりしていました。リスト(名簿)もそうだし、現金を日本からフィリピンに運ぶ方法とか、または日本で窃盗したものをどうやって売るか。あとは人を貸してくれとか、実行犯ですね」
今回取材班は、JPドラゴンのナンバー2とされる人物の連絡先を入手した。
JPドラゴンの“ナンバー2”「自分ももうずいぶん前にもう離れているのですが」
取材班「いつごろですか?」
JPドラゴンの“ナンバー2”「ちょうど今年(2023年)の初めくらいですかね」
ルフィグループの犯罪を手助けしていたのか、この幹部に問いただした。
JPドラゴンの“ナンバー2”「ちょうどルフィ事件がわーっとなった時に、うちの若い子たちがいたんですけど、バッと逃げていった。そのうちの一人をよく調べると、今村(被告)の舎弟みたいなやつがいた。これが(闇バイトを)リクルートしてたんじゃないかな。絶対につながり持つなって言ってたんですけど、裏でつながっていた」
ルフィグループとのつながりを認めたJPドラゴンの幹部。取材のあと、ある人物のパスポートの画像を送ってきた。「ルフィグループとつながっていたのは、このメンバーで、組織としては強盗事件に関与していない」と語った。
日本の警察はどう見ているのか。
警視庁の捜査関係者は、「JPドラゴンの一部が個人のつながりで手を貸していた可能性はある。しかし捜査権が及ばず、確認するのは難しい」と話した。
収容所の中から強盗を指示していた疑いがあるルフィグループ。
そしてそれを手助けしていた可能性があるJPドラゴン。
取材を進めると、さらに別の組織に属する人物とのつながりも見えてきた。
これは、3年前に撮影された写真。ルフィグループの渡邉優樹被告とともに写っているのは、北日本に拠点を置く指定暴力団の組員。
一方、こちらは、別の指定暴力団の幹部が、JPドラゴンのメンバーと並んで写る写真。中央にいるのがJPドラゴンの幹部。そして両脇が、関西に拠点を置く、指定暴力団の最高幹部だという。
この指定暴力団の元幹部が、フィリピンを拠点にするグループがなぜ日本の暴力団とつながる必要があるのか、その理由を語った。
指定暴力団の元幹部「知名度がある(暴力団)組織であったり、若い子たちでも知っている名前、聞いたことがある名前を借りて、『言うことを聞かないと、そういう組織が出てくるぞ』と。大きな圧力は間違いなくかかっている」
暴力団員は、匿名・流動型犯罪グループとつながり、ある役割も果たしているという。
取材班が向かったのは、マニラ市内の飲食店。この店には、日本での犯罪で得たカネが運ばれてくるという。店に出入りしていたのは、現役の暴力団員だという。ルフィグループの幹部とつながりがあるというササキ。この店に出入りする暴力団員の中には、現金の運び屋をする者もいると説明した。
取材班「運び屋がここに(現金を)持ってくる?」
ササキ「こちらに持ってくることがほとんどでした。一般の方がこの店に来ることはない」
暴力団への取り締まりを強化してきた警察。暴力団員は、不動産や携帯電話の契約も制限され、活動を封じ込められている。そのため、暴力団員の中には、匿名・流動型犯罪グループとつながり、犯罪によるカネの一部を得ようとするものもいるという。複数の関係者は、フィリピン側と日本側のグループが、カネを分け合う構図になっていると証言した。
指定暴力団の元幹部「拝金至上主義なので半グレとか、そういう仕事を追いかけている連中は、お金を持っているので、むしろ暴力団ヤクザの方が、下請けになっていたりする。取り巻く環境の中で法的なものも含めて、狭まれてきて、質の悪いシノギ(資金源)に手を出していった。いわゆる貧すれば鈍する、ということだと思います」
日本の警察関係者は、「末端の暴力団員が、現金を運んだりすることはあると思う。暴力団が組織として、匿名・流動型犯罪グループの上位にいるわけではなく、緩やかにつながっているのではないか」と語った。
今回の取材で、ルフィグループと別の複数のグループのメンバーがつながり、リストの提供や現金の運搬などで協力していた可能性が浮かび上がった。しかし、一連の広域強盗事件に関与していたのかどうかは、明らかになっていない。
今、匿名・流動型犯罪グループが、日本の捜査権が及ばない海外に拠点を置く動きが加速している。カンボジアでは2023年、特殊詐欺をしていたとみられる日本人のグループが、3度にわたって摘発された。9月には、現地の捜査当局が20人以上の身柄を拘束。
カンボジア、タイ、ベトナム、フィリピンの4カ国で8つの犯罪グループが摘発されている。
こうした事態に対応するため、東京にアジア12の国と地域から捜査機関の担当者が集まった。
警察庁・国際捜査管理官/篠原英樹 警視長「「犯罪グループは海外にいるため、地域的・世界的レベルでの警察の協力が必要です。犯罪者の拠点がどこにあろうとも、警察が捜査をためらう要因になってはなりません」
匿名・流動型犯罪グループの首謀者や指示役を摘発するには、各国の情報共有が欠かせないと連携を呼びかけた。
ルフィグループに指示され、犯罪に荷担したメンバーは、今どう考えているのか。
幹部4人とともに、ビクタン収容所で1件の強盗事件に関わったとして、逮捕された山田李沙被告。犯罪に手を染めたきっかけは、特殊詐欺の闇バイト。高額の報酬につられて、フィリピンに渡ったという。
山田被告は、闇バイトに手を出すことの恐ろしさを、関係者にこう語っている。
山田李沙被告「幹部は『リンチした動画あるんだよ。嘘だと思うんだったら、送ってやろうか?』と、闇バイトを脅していました。『お前も同じ目に遭わせてやるよ』と。本当に怖くて」
踏み入れたのは、抜けることすら命がけの奈落への一歩だった。そして日本に移送された山田被告。逮捕されたときの心境を、裁判でこう語った。
山田李沙被告「楽になって解放されたと思った。日本に帰って刑務所に入ったとしても、まっとうな仕事をしたかった」
今村被告とJPドラゴンの幹部がつながっていることを示す写真。実は、今村被告が日本の警察に逮捕された後の2月下旬に撮影されていた。留置場の面会室で、密かにやりとりしていたビデオ通話のスクリーンショットだという。
ササキ「(JPドラゴンの幹部が)心配するなと。弁護士の先生に頼んで罪も軽くしてやる、助けてやるって言ったとき、頭を下げた瞬間なんですよ。すみませんって言って。過去にやった詐欺に関しては全て認めろと、その代わり俺らのことはしゃべるなと」
そしてこれは、今もフィリピンで犯罪行為が続けられていることを告発したいと、取材班に提供された映像。
「すいません私、石岡警察署刑事課のタカギといいます。ご家族の方に、えいこさんて方おいでになります?」
警察官を名乗り、電話をかける男たち。指示役が逮捕された後も、フィリピンに残っているルフィグループのメンバーだという。そして画面の右奥に映っているのが、JPドラゴンの幹部。留置場にいる今村被告と、密かに連絡を取り合っていた人物と同じだという。
ルフィグループは、メンバーを入れ替え、新たなグループとなって犯罪行為を続けているという。
末端の実行役となる闇バイトに応募する若者は、今も途絶えることはない。
それを操る犯罪グループは離合集散を繰り返し、首謀者が姿を見せることはない。
この新たな闇の広がりを、どうすれば止めることができるのだろうか。