調査報道・新世紀File1 中国〝経済失速〟の真実

NHK
2023年11月24日 午後6:00 公開

 (2023年11月5日の放送内容を基にしています)

今、中国のSNS上で、次々と投稿されている動画がある。労働者たちが雇い主に対して、大規模なデモを行う動画だ。彼らが訴えているのは、賃金の未払い。中には、2年以上も受け取っていないという怒りの声も上がっていた。こうしたデモの動画が、中国全土から投稿されているのだ。

しかし、これらの動画が、すぐに削除されるケースが相次いでいる。当局の意向によって、検閲されているとみられる。

中国政府にとって、不都合な事実があるのか?もしあるなら、それは一体何なのか?

「調査報道・新世紀」。このシリーズでは、国内外の様々な「謎」や「課題」に調査報道で迫る。

SNSが発達し、真偽不明な情報が大量に拡散する現代社会。番組では、インターネット上のあらゆる情報に加え、衛星画像やGPSデータなど、様々なデジタル技術を組み合わせることで、今までみえなかった真相を明らかにしていく。

習近平 国家主席「われわれは経済の急速な成長と社会の長期安定という、二つの奇跡を生み出してきた」

シリーズ第1回は、表からは見えない中国経済の「裏の姿」を追う。

今、中国では、「恒大グループ」や「碧桂園」など、不動産大手の経営危機が相次いで発覚し、関連する業界に不況の波が押し寄せている。

直近のGDPは、高い成長率を維持しているが、その影で、経済の長期低迷につながる大きなひずみが生じているとしたら。

今回、政府が発表した公式統計だけでなく、誰もがアクセスできるオープンソースの情報を徹底的に収集。SNSや衛星画像など、様々なデータを組み合わせることで、今まで見えてこなかった経済の実態を探った。

そこから浮かび上がってきたのは、公式の統計にはあらわれない巨額の債務がはらむリスク。さらに、中国政府が発表する高いGDPの値が、経済の実態を反映していない可能性も見えてきた。

失速する中国経済。その裏で、長期低迷のリスクが想像以上に高まっているのであれば、その元凶は何なのか。

<中国経済を襲う“異変”>

2023年10月、建国記念日の国慶節を祝う大型連休を迎えていた中国。

中国国営テレビは、のべ22億人が国内外を移動したと伝え、ゼロコロナ政策で落ち込んだ経済が回復していることを強調していた。

しかし、中国から1万キロ以上離れたアメリカの国境地帯では、思いがけない光景が広がっていた。

アメリカに亡命しようという中国人が、押し寄せていたのだ。その数は、去年(2022年)に比べ10倍以上に急増。中には、経済的な困窮から逃れようとする中国人たちも含まれていた。

ロサンゼルス郊外の街を訪ねると、彼らのコミュニティーがすでにできあがっていた。

この28歳の男性は、中国の山東省で不動産関連の仕事を転々としていた。しかし、景気の減速を受け、給料が減って生活苦に陥ったという。2023年4月、妻と2人の子どもとともに、国を捨てる覚悟でアメリカに逃れてきた。

アメリカに逃れた男性「底辺にいる多くの労働者は、仕事を見つけることがとても困難だ。私は逃亡した奴隷のようだ。やっとの思いで来たんだから、帰るなんてありえないよ」

中国経済を襲う大きな異変。

今、中国各地では、大規模な建設工事が中断したまま廃墟となる現場が増えている。

北京郊外で建設が進められていた大型の商業施設。建物に入ると、未完成のまま放置されていた。工事が2年前から中断しているという。

これらは、不動産大手・恒大グループが進めてきたプロジェクト。この企業の負債総額は、48兆円余りにのぼっている(2023年6月時点)。

GDPの1/4を占めるという不動産とその関連産業の不況。それは今、経済の失速を招き、長期低迷への警戒が高まっている。

恒大グループを始め、複数の不動産企業に勤めた人物は、経済の状況は、表に見えているよりかなり厳しいと感じているという。

恒大グループ/元従業員「恒大が崩壊してから、不動産業界も各業界も景気が悪化した。私も仕事探しがとても難しくなり、今は貯金をとり崩して生活している。不動産業はとても大きなサプライチェーンを築いており、都市で働く大多数が関連の職に就いている。何万人もが、あおりを受けたと言える」

<経済の指標となる「統計データ」 公表停止するケース相次ぐ>

中国経済に、一体何が起きているのか?

私たちは、その実態を調べるため、公式の統計データからあたり始めた。しかし国家統計局のデータを調べると、若者の失業率の統計は、過去最悪を記録した2023年6月分までで公表を停止。

さらに、格差拡大の指標となる可処分所得の最上位と最下位層の公表は、2012年で停止していた。

15年ほど前には、公表されていた統計データは、およそ8万4000件あったが、年を追うごとに、大きく減っていたのだ。

中国政府にとって、何か不都合な事実があるのだろうか。

私たちは、SNS上で労働者たちが不満の声をあげていることを知り、詳しく調べることにした。

<検証・労働者デモの実態>

調査に使ったのは、中国の人々が使用しているWeiboなど複数の「中国版SNS」だ。

この投稿では農業関連の会社の従業員が、2年にわたって賃金が払われていないと訴えていた。

こちらは建設業の労働者が賃金の支払いを求めたところ、会社側から殴られたと主張していた。

私たちが見つけたのは、「賃金の未払い」を訴えるデモがさまざまな産業にまたがっていたこと。さらにこれらの動画が、中国全土から投稿されていたことだった。

ところが、デモの動画を見つけても、その多くは短時間のうちに次々と削除されてしまう。中国では、政権批判につながりかねない投稿は、当局の意向によって検閲されているとも指摘されている。

調査を進めると、労働者によるデモの投稿を10年以上前から分析しているNGOが、香港にあることがわかった。主任を務める中国本土出身の労働運動家、ハン・ドンファン(韓東方)さんは、SNS上の動画から、デモの発生件数や、その背景などを分析する手法を開発してきた。

スタッフ「この動画は中国鉄路です。鉄道工事の未払いです。動画から見るとデモの規模は100人弱です。警察が出動しているので、『警察』のタグも付けます」

ハンさんたちはAIによって、自動的に投稿を識別し、削除される前に収集。デモが起きた日時や、会社の情報などを照合し、事実だと確認できた投稿だけを抽出している。

こうした作業によって、国営メディアで報じられない中国経済の実態を浮き彫りにできるという。

労働NGO(中国労工通訊)/ハン・ドンファン(韓東方)主任「我々が記録できたのは、多くても、全体の10%に過ぎない。デモは中国全土に広く及んでいる。労働者の声を頼りに、中国の経済状況の最も核心の部分を浮き彫りにすることができる」

私たちはハンさんからデータの提供を受け、独自に投稿を検証して分析することにした。

その結果、2023年1月から9月までの間に、少なくとも1148件のデモが起きていることが確認できた。そのうち、賃金の未払いを訴えるものは86%。その他には、賃金の値上げを訴えるデモや、不当な解雇に対して補償金を求めるデモもあった。

さらに、デモが発生した場所を地図に落とし込むと、ほぼすべての省や直轄市などに広がっていることがわかった。なかでも、ここ数年は、中部や西部といった内陸側の地方でデモが急増。その数は、全体の半分ほどを占めていた。

内陸側を中心に、地方で多発する賃金の未払い。それは、経済の長期的な低迷を示す兆候なのだろうか?

この疑問を解くべく、10年前と比べ、デモの数が最も増加している陝西省に向かった。

<多発する賃金未払い 現場で一体何が?>

陝西省の省都・西安。朝の5時、すでに出稼ぎ労働者による人だかりができていた。彼らは中国語で、「農民工」と呼ばれ、その数は全国で3億人近くにのぼっている。 

ここで農民工たちは日雇い労働を求め、雇い主を待っていた。

農民工の男性「年明けから建設現場で働いていたけど、食費程度しかもらえなかった。だから、今は日雇い市場で仕事を見つけたい」

農民工の男性「今も賃金未払いは解決していないよ」

この西安で100人を超える農民工の代表として、賃金の未払い交渉を行ってきた劉さん(仮名)。劉さんは、公共インフラの開発プロジェクトに従事。去年(2022年)6月に仕事を終えたものの、すべての支払いを受け取っていない、と訴えていた。

契約書には、劉さんたちが受け取るはずの額は、およそ9700万円と記されている。しかし、取材した時点での未払いの総額は6700万円以上にのぼり、100人を超える農民工が、そのあおりを受けてきたという。

この日、劉さんたちは、建設会社の現場担当者だという人に賃金の支払いを求めると、実は彼らもプロジェクトを発注した企業から、該当する金額が支払われていないと押し返された。そこで劉さんは、発注元の企業とみずから交渉することにした。

会社の入口で警備員に阻まれた劉さんたち。2時間粘ったものの、相手にしてもらうことはできなかった。

劉さん「裁判で訴えてくださいと言われた。これ以上言うことはないって」

私たちは、プロジェクトの発注元を調べてみた。すると、ここは「地方融資平台」と呼ばれる、特殊な投資会社であることがわかった。実はこの融資平台は、地方政府によって作られている。銀行からの融資や、債券の発行などで資金を集め、公共インフラの開発を行っている地方政府傘下の投資会社だ。

賃金の未払いが起きていた西安のプロジェクトは、地元政府がこの融資平台を使って、およそ2000億円の予算で進めてきたものだった。

この融資平台の資金繰りに問題が起きているのではないか。私たちは、直接、取材をすることにした。表に出てきた融資平台の担当者に、賃金未払いについて質問をぶつけた。

取材班「農民工たちが交渉をしたが、相手にされなかったと聞いています。それをご存じですか?」

融資平台の担当者「農民工たちが来ていたことは知りません。いつもきちんと支払っています」

取材班「資金繰りは問題ないのですか?」

融資平台の担当者「問題ありません」

私たちが取材を進めると、各地の地方政府が設立したこうした融資平台は、全土で1万以上あることがわかってきた。

2000年代に入り、年平均8%という高いGDP成長率を維持してきた中国。その経済成長を下支えしてきた1つが、地方政府による、融資平台を通した開発への投資だったのだ。

そこで私たちは、各地の融資平台が関わるプロジェクトでも問題が起きていないか、再び、今年投稿された動画を調べ直した。すると、確認できただけでも70件のプロジェクトで、賃金の未払いが起きていた。

もし、こうした賃金の未払いが、融資平台の資金繰りの問題から起きているのであれば、地方政府の財政にも大きな影響が出ているのではないか。そこで私たちは、全国の地方政府の財政状況を探ることにした。

<地方財政にも影響か 債務の実態を追う>

まず調べたのは、各省や市の政府がインターネット上で公開している予算と決算の報告書だ。そこには、各地方政府がかかえる債務の残高が掲載されていた。それを足し上げると、総額は、700兆円余りにのぼった。

しかし、この公表されている債務残高の中に、融資平台に関するデータは見あたらなかった。

調査の結果、中国のある民間企業から、融資平台の債務のデータを入手することができた。そこには、全国各地の融資平台がかかえる債務の残高がリストアップされていた。総額がどれくらいになるのか、足し合わせてみると、56兆元余り。日本円にすると1100兆円余り。地方政府の公式な債務を、大きく上回っていた。

しかもこの債務は、銀行などが融資をする際、地方政府が実質的に返済を保証していると見なされている。そのため、地方政府の「隠れ債務」とも、呼ばれているのだ。

この隠れ債務の存在は、中国経済にとって、どれほど大きなインパクトがあるのか。

一般的に、その国の中央政府と地方政府の債務を足して、GDP比60%以内であれば、財政が健全だと言われている。中国の場合、中央政府の公式債務およそ500兆円に、地方政府の公式債務およそ700兆円を足しても、GDP比では52%。しかし、これに隠れ債務の1100兆円が加わる。すると100%となり、財政が健全だとされるラインを大きく上回っていた。

さらに今、不動産市場を襲う不況のあおりを受け、地方政府の収入も減少。債務の返済が一層難しくなり、いわば “時限爆弾”を抱えた状態に陥っていたのだ。

中国の地方財政は、私たちの想像をはるかに超えて、悪化しているのではないか。

IMF=国際通貨基金で中国経済を分析していたウィリアム・リー氏に見解を聞いた。

元IMF職員/ウィリアム・リー氏「地方政府は表の会計には出ないところで、資金を調達しているため、公表しているよりも債務が膨れあがってしまった。金融刺激や財政出動をすれば、経済を回復させられると考える人もいるが、この巨額の債務は、中国経済の根底を脆弱にするものだ。すでに地方政府は完済できる見込みもなく、これ以上の資金調達もできなくなっている」

1800兆円余りにまで膨れ上がっていた地方政府全体の債務。それでは、個々の政府の財政は、どこまで悪化しているのか。地方政府ごとの「債務比率」を調べることにした。

地方政府の収入に対し、債務がどのくらい膨らんでいるのか、財政の悪化状況をはかることができる。わたしたちは、31の省や直轄市などのうち、債務の比率が特に悪い10か所を見つけ出した。ワースト1位は天津。債務の比率は1000%を超え、債務の残高は50兆円を超えていた。

そして2位の重慶以降は、内陸側に集中。先に取材をした西安のある陝西省はワースト10位で、債務の比率が506%、債務残高は56兆円あまり。この陝西省に加え、3位の湖南省と、9位の河南省は賃金未払いのデモが多発していた。

さらにワースト7位の黒竜江省では、おととし(2021年)、鶴崗が事実上、財政破綻をしたとみられている。各地の地方財政は破綻のリスクを抱えていたのだ。

<高いGDP成長率の裏で 地域経済の実態を追う>

2000年代に入って、年平均8%という中国の高いGDP成長率を支えてきた、公共インフラへの投資。しかし、それが、地方政府に総額1800兆円あまりの債務を負わせ、中国経済にとっても、大きなリスク要因となっていた。

そこまでしてGDPを押し上げた結果、地域はどれだけ豊かになったのだろうか。

この疑問を解こうと、債務比率が最も悪い地域の1つ、内陸部の貴州省を訪ねた。

貴州省の省都、貴陽。目立ったのは、真新しい超高層ビルの数々。ここはかつて、中国の中でも最も貧しい地域の1つだった。しかし、貧困からの脱却を目指す中央政府のかけ声のもと、2000年代に入り、地元政府は住民を立ち退かせ、都市開発への投資を加速させてきた。

この20年、融資平台によるインフラ開発などでGDPを押し上げ、一時は15%以上を達成。平均しても、年10%余りの成長率で、中国全体の値を上回ってきた。

いまや、街の中心部では開発が進み、一見すると大都市と比べても引けを取らないにぎわいを見せている。

しかし、街の郊外に出てみると。

タクシー運転手「この橋を見てよ。こんな橋が多すぎるよ」

山と山をつなぐ巨大な橋。こうした橋があちこちに作られていた。

これは6車線もある幹線道路。しかし、通るのは人ばかりだ。車があまり通らないため、道路を農地代わりに使っている農家もいた。

唐辛子(とうがらし)農家「ここはまだ道路が完成していないし、車もほとんど通らない。だから私はここで唐辛子を干しているんだ。道路ができることを期待することはもうやめた。もう道路ができても生活が便利になるとも思えない」

工事が中断されたまま、放置されたビルや道路も少なくなかった。タクシーの運転手は、無駄な公共インフラが多いと訴えていた。

タクシー運転手「正直に言うと面子(めんつ)によるプロジェクトが多すぎる。実際に効果があるインフラ施設もあるけど、一部は全然役に立っていない。政府がやるべきことができていない」

取材から見えたのは、高いGDPの成長率に比して、地域の経済がそれほど発展していない実態だった。

実は今、世界中の研究者からも、中国のGDPの値をめぐって疑いの声が上がっている。

シカゴ大学のルイス・マルティネス教授。衛星画像から見える夜間照明の強さを分析することで、GDPを推計しているのだという。

シカゴ大学/ルイス・マルティネス教授「これは夜に撮影された画像で、夜間照明が発する光の強さを示していて、朝鮮半島を見ると韓国は驚くほど明るく、北朝鮮は驚くほど暗くなっている」

夜間の照明が強いところでは街が発展し、経済が成長している。これらの経済活動を光の強さと密度によって数値化。それらを計算することで、GDPの推計を可能にするという。

この手法は近年、世界銀行などの国際機関からも、経済規模を計る新たな指標として注目されている。

シカゴ大学/ルイス・マルティネス教授「これは、各国のGDPの値が、どれだけ信頼できるのかをはかれます。これを見ると、中国の値が本当に正しいのか、疑問に感じます」

このデータでは、円の大きさは、その国のGDPの規模、色は政府発表のGDPと、衛星画像から推計したGDPとの差を示している。アメリカや日本などで見られる白い色は、政府発表の値と、衛星画像から推計した値に、ほとんど差がないことを示している。

それに対して、中国はその差が大きいことを示す濃い赤だった。

実際、中国政府発表のGDPは、衛星画像から推計したGDPよりも一貫して高くなっていた。平均すると、その差は3%程度あった。

シカゴ大学/ルイス・マルティネス教授「この2つの値の決定的な違いは、GDPは政府の自己申告で操作しやすい一方、夜間照明ではそれはできないということ。今は、人々を抑圧するだけでは、政権を維持することが難しくなっているため、その代わりに、統計上『経済的な成功』を示すことこそが、政権を正当化する上で、非常に重要になっている」

この衛星画像を使った分析手法は、インフラ開発への投資効果をはかることもできる。

さきの貴州省のプロジェクトについて、調べることにした。検証の対象にしたのは、あの交通量の少ない6車線の幹線道路。地元の融資平台が、総額800億円余りをかけて行った重点プロジェクトだ。この道路は、市街地と郊外に作られる開発地域を結ぶために建設された。

2015年に工事が始まると周辺地域で開発が進み、一時は夜間の照明が増加していることが確認できる。

ところが、道路が一部開通した2019年以降は、むしろ夜間照明の明るさは減少。幹線道路の開通による経済効果は、限定的だという結果が示された。

こうした過剰ともいえる投資は、地域で暮らす人々に、恩恵をもたらしてきたのか。

11年前、都市開発のために立ち退きをさせられたという女性。

立ち退きをさせられた女性「昔、ここに住んでいた。何年たっても空き地のまま。十分な補償ももらえていないし、家ももらえていない」

この家族は立ち退き後、家賃2万円のアパートに3世帯9人で暮らしている。当初の約束では、家を取り壊してから2年以内に、新しい住居が与えられるはずだった。しかし、開発工事は10年以上も進まず、約束は反故(ほご)にされたままだ。

女性の夫?「政府にも交渉に行ったけれど、『政府としてもどうしようもない』、『お金がない。公務員の給料も支払えていない』と言われた」

インフラ開発への過剰な投資のつけが、人々の生活に大きなしわ寄せを及ぼしていた。

女性の娘「政府が支払いをきちんとしてくれないから、3世帯でこの狭い家で生活しないといけない。話せば話すほど本当におかしいと思う」

貴州省で見えてきたのは、過剰なインフラ開発への投資が見合った効果を生み出さず、地域も豊かになっていない現実だった。投資によってGDPを押し上げる手法が、各地で大きなひずみを生み出していたのだ。

中国の政治・経済学が専門の、シュ・チェンガン(許成鋼)教授にここまでの取材成果について、見解を求めた。

香港大学・名誉教授/シュ・チェンガン(許成鋼)氏「中国の役人はGDPの成長率を押し上げるために、あらゆる手立てを講じている。そのトリックのひとつが、巨大なインフラ建設を進めること。それが実際に有益かどうかは関係ない。労働力を費やしたり、お金を費やしたりして、何かに取り組んでいれば、仮に生産しているものが富を生むことにつながらなくても、GDPは成長する。こうしたことを考慮すると、中国のGDP統計は、富の創造とは無関係だ」

富を十分に生まなくても、GDPを押し上げようとしてきた地方政府。なぜそこまで執拗に、GDPにこだわり続けてきたのか。

地方政府で開発を担当してきた現役の職員は、GDPをめぐって、中央政府から常に圧力を受けてきたと証言した。

地方政府/現役職員「GDPは非常に重要な数字で、昔も今も変わらず決定的な指標。その年に地方政府が何をしたのか、中央政府はGDPを通して把握できる。試験のように指標が良ければ報酬が与えられ、指標が悪ければ冷遇される。そのため、すべての地方政府の幹部は本当にストレスを抱えている。このようなGDPの成長モデルを続ければ、地方政府は破綻するだろう」

改革開放以降、高い経済成長率を達成することで、政権への批判を封じ込めようとしてきた中国。

今回の取材から見えてきたのは、経済が失速する中で、全国で多発していた賃金の未払い。その影には、1800兆円あまりの巨額の債務をかかえた、地方財政の危機的な状況があった。

もはや、不動産やインフラ投資に依存してきた成長モデルも、限界を迎えようとしている。この構造的な問題こそが、経済の長期低迷を引き起こす元凶となる可能性があるのだ。

さらに中国経済の先行きには、これ以外にも様々な課題が横たわっている。

<中国経済の先行き さらなる課題が>

その1つが、個人のかかえる債務が、経済全体に与える影響だ。

これまでマンションなどへの投資の動きが活発だった中国だが、今は不動産の売買が低迷。景気の悪化も伴い、地方都市に住むこの男性のように、ローンの返済に苦しむ人たちが増えている。

ローンの返済に苦しむ男性「当時の景気はまだ良かったし、ローンも毎月6000元(約12万円)なら返せると思っていた。でも今はマンションが重荷になってしまった。売るにも売れないし、ローンがきつすぎる」

住宅ローンなど、中国全体の家計が抱える債務は増加し続け、現在1400兆円余り。この債務の返済が負担となり、今後、個人消費が伸び悩む可能性があると指摘されているのだ。

さらにもう1つの課題が、今後進むと見られる人口減少だ。

2022年、中国は国全体で61年ぶりに人口が減少。地方政府の中には、社会保障費がこの10年で4倍に増加した地域もある。

住民男性「以前はすごくにぎやかだった。朝、出勤時には労働者であふれ、すごくにぎやかだった。今はもう企業も潰れ、人も消えてしまった」

一部の地方政府では、年金の積立金が底をつくなど、財政を圧迫。債務を膨張させる要因となっている。こうした要因が重なり、IMFが今年発表した試算では、2027年にGDPは3%台にまで低下するという。

世界や日本にも波及しかねない、中国経済の長期低迷の可能性。

今後も、その実態に迫るべく、私たちは取材を続けていく。