土星探査がもたらした地球外生命探しの「夜明け」【博士の20年】関根康人さん

NHK
2023年3月4日 午前8:00 公開

「この宇宙に私たち以外の生命は存在するのか?」

私たち人類にとって究極の謎であるこの問いに迫ろうという「地球外生命探査」は、この20年で飛躍的な進化を遂げ、今、その戦略の大きな転換期を迎えています。火星や土星の衛星など、生命の存在が期待される天体の探査が進み、「生命を育む要因」に関する新事実が次々と報告されているからです。

観測や実験を駆使して地球外生命の可能性に迫り、世界から注目を集めているのが東京工業大学・地球生命研究所所長の関根康人さんです。関根さんは、この先20年で本格的に宇宙に生命を探す時代が到来すると語ります。

果たして地球外生命は存在するのか。この20年で明らかになった事実と、「生命の定義ががらりと変わるかもしれない」という研究の展望について伺いました。

ついに「科学者が地球外生命を真剣に考える」時代に

―この20年で「地球外生命」の研究はどう変わったのでしょうか?

「科学者が地球外生命を真剣に考える時代になった」20年だったと思います。

以前は地球外の天体に水を見つけて「わあ、すごい!」と言っていましたが、水が生命に直結するわけではなく、生命について考えるには理論的に大きなギャップがあったので、科学者が地球外生命を真剣に考えるということはありませんでした。

地球外生命を考える上では「水環境」の理解が欠かせませんが、単なる水の有無ではなく、水にどういう物質が溶けていて、生命の材料となるような物質がどのくらいあるか、エネルギーをもたらす食べ物はあるか、ということが重要なのです。

例えば、火星に「川の跡」があることは1970年代には分かっていましたが、水環境は一切分かっていませんでした。川の形を見るだけじゃ成分なんて当然分かりませんから、「水環境は分かる訳ない」というのが当時の常識で、それを理解するのは“夢物語”と思われてきたんです。

カッシーニとオポチュニティがもたらした革命

―地球外生命を探すポイントは「水環境」なんですね

“生命を育む要因”である「液体の水・有機物・エネルギー」という3つが、その天体にあるかどうかが地球外生命を探す大きなポイントです。

生命を「組み立て式のおもちゃ」に例えると、おもちゃの部品にあたるのが「有機物」で、部品を組み立てるのが「エネルギー」です。生命がおもちゃと一番大きく違うのは、部品がどんどん分解したり変性したりしてしまうことです。我々の体は常に、外から部品を取り入れて、外に古くなった部品を捨てていますが、この循環が止まってしまうと生命は死んでしまいます。

そこで、この循環の役割をするのが「液体の水」です。だから、水環境を理解しないと生命を予測できないんですが、この20年で「水環境は分かる訳ない」という常識が一変し、火星など地球外の天体の水環境を地球並みに知ることができるようになりました。それで、科学者が理論的に地球外生命について考えるようになったのです。

―何が研究の常識を大きく変えたのでしょうか?

なんと言っても、2004年に土星探査機「カッシーニ」(※1)が土星系に、火星探査車「オポチュニティ」(※2)が火星に到達したことが革命的な出来事でした。

カッシーニは土星の衛星「エンセラダス」の水環境を、オポチュニティは火星の昔の水環境を明らかにしてくれました。つまり、「単なる液体の水の存在」から「水環境」の理解へと進み、生命探査や生命の予測、あるいは培養の可能性まで含めてできるようになったんです。

※1「カッシーニ」…土星とその衛星を探査するため、1997年にNASAが打ち上げた探査機。2004年に土星周回軌道に到着、土星の衛星の詳細な地形や構造などを観測した。 

※2「オポチュニティ」…2003年にNASAが火星に送った探査車。2004年に火星に着陸。かつての水の存在を探るため、岩石や土壌のサンプルを採取、分析できる機器を搭載。

なんと「エンセラダスの水環境」がわかってしまった

―探査機カッシーニは土星の衛星で何を見つけたのですか?

土星の衛星の「エンセラダス」は、表面は氷で覆われていますが、地下には「海」があることが分かってきました。海を調べるには、氷の地殻をドリルで10キロぐらい掘ればいけるかもしれないと言われていましたが、地球上でも10キロなんて掘れないので、夢のまた夢と思われていたんです。

でもカッシーニが行ってみたら、エンセラダスでは氷の地殻が割れて、その割れ目から海水が吹き出していました。そこで水の成分の化学組成のデータが得られたことに、誰しもが驚きました。

岩石の海底があって、温泉のような場所もあって、生命のエネルギー源になるようなものが生成されているとか、いわゆる「水環境」が明らかになりました。しかも、カッシーニはその海水の中に複雑な「有機物」を見つけました。この有機物は、地球の生命と同じように窒素を含んでいて、生命を作り出すのに理想的な水環境があることが分かったんです。

その後、エンセラダスの熱水環境で作られている有機物があれば、地球の生命の材料とよく似たものができるはずということまで分かってきて、「エンセラダスには地球と同じような生命がいるのかも!」というところまで来たのです。

水素と二酸化炭素を食べてメタンを出す生物?

―土星の衛星エンセラダスに地球と同じような生命がいる可能性はあるのでしょうか?

エンセラダスの生命を想像すると、熱水で発生する水素や海の中に多く溶けている二酸化炭素を“食べ物”として使って、メタンを作るような生命というのが一番あり得そうです。

もしエンセラダスから「生命が含まれたサンプル」を持ち帰ることができれば、培養できるかもしれません。エンセラダスと同じように水の中に窒素やリンを入れ、塩分濃度、pHも揃えて、極めて似た海底の環境を実験室で作り出すことができます。その中に生命をぽんって入れて、食べ物として水素と二酸化炭素をあげればいいんです。サンプルを適切に持ち帰ることができれば生命に手が届くというところまで、今ようやく来ました。

火星で見つかったかつての「硫酸の湖」

―火星についても「水環境」が分かってきたのですか?

火星に関しては、堆積物からかつて存在していた水を明らかにする研究が行われています。最初にそれ調べたのがオポチュニティで、30億年ほど前に水があったと考えられている「メリディアニ平原」に着陸して、泥や砂を分析しました。湖の底で泥や砂がゆっくり沈殿した堆積物が、当時の湖の環境を記録しているのでそれを調べるわけです。

地球化学の手法を使うと、こういう鉱物とこういう物質があれば昔あった水のpH(ペーハー、液体の酸性度やアルカリ度を示す指標。低いほど酸性を表す)はおそらくこのぐらいの範囲というのが導き出せるんです。分析したら、非常に強い酸性で、濃い「硫酸の湖」ということが分かりました。

奇妙な「火星オリジナルの有機物」が見つかった

―硫酸の湖…⁉ まるで地獄のような環境ですね。

人間がこんなところに入ったら、もう痛いですよね。いろいろなたんぱく質を分解してしまうような酸性の湖です。

その後、「キュリオシティ」(※3)という探査車が多くの装置を積んで「ゲールクレーター」に着陸しました。ここには38~35億年ほど前に湖がありましたが、オポチュニティが着陸したメリディアニ平原よりも5~10億年ぐらい古い時代のものです。当時の水の環境を調べると、pHが中性ぐらいで、今の地球の海に近い環境だったんです。火星でも38億年ぐらいまでは地球に似ていたことが分かりました。

さらにキュリオシティは、有機物の組成も明らかにしましたが、見つかった有機物が奇妙で、炭素に対して硫黄が10~15%ほど入っていて、酸素も窒素もリンもほとんど入ってない、火星オリジナルのものだったんです。だから、火星に生命がいるとすると、地球とは有機物の形からかなり違うかもしれないということも分かってきました。

※3 「キュリオシティ」…2012年に火星に着陸し、現在も活動を続けるNASAの火星探査車。地質的な形態や化学組成を調べるカメラや分光器、掘削装置など多数の探査機器を搭載、オポチュニティの5倍の重量がある。

―地球と火星で「生命」の比較ができたら面白そうですね。

もし生命がいれば、我々地球の生命と火星の生命で何が同じで、何が違うかが明らかになります。どういう働きを持つのが生命にとって本質なのか、どういうものが普遍的に生命と呼ばれるものなのか、その答えが得られることになると思いますね。そうすると「生命」の定義ががらりと変わることになるかもしれないというか、きっとなると思います。

「火星で生物を培養する日」が近いかもしれない?

―これからの20年で地球外生命の解明はどういう方向に進むのでしょうか?

この20年は地球外で生命が実際に発見されるかもしれなくて、今は“生命発見前夜”という気がします。いよいよそういうところに来ているという気がしています。

土星の衛星エンセラダスなど氷の天体においては、土星探査機カッシーニが成し遂げたことの上をゆく詳細な分析をすることになると思います。今年4月には、「JUICE」という探査機が、2025年10月には「エウロパクリッパー」という探査機が木星に向けて打ち上げられ、20年代から30年代にかけて、木星の衛星「エウロパ」や「ガニメデ」という地下に海がある天体で探査が行われます。

その水環境が分かるとどういう生命が、どのぐらいの量、どういう物質を使って生きているかということが予想できて、その予想に基づいていよいよ生命探査、というのがこれから20年の時代になると思います。私は今、44歳になるんですが、その辺りまでは現役として見届けられるかなという気はします。

―火星での生命探しはどのようになりますか?

火星からサンプルを持ち帰るだけではなく、生物を培養しようと火星に生物学者が行くということになってくるかもしれません。今の小学生が30代、40代になる時には、火星に人間の基地があって、科学者などいろんな人が住んでいるかもしれないですね。

サイエンスは、人間の好奇心の究極の形だと思いますが、そうしたものに駆動されて人間が居住域を知らず知らずのうちに広げていく、その好奇心のひとつが「生命を見つけたい」ということなのだと思います。

地球「生命の起源」の謎に迫るこれからの研究

―地球外生命がいて欲しいですが・・もしいなかったら我々は何を学べるんでしょうか?

水環境を予測できれば、地球外生命の「いる・いない」に白黒付けることができると思っていますが、いなかった場合に何を学べるかも問われることになると思います。

まず1つは「生命の起源」に対する理解です。我々は「液体の水・有機物・エネルギー」を探していますが、そもそも生命が誕生するためにプラスアルファで何が必要なのか、あるいは必要ないのかは、実は分からないんです。実験室でゼロから生命を作ろうと思って、有機物を入れて、エネルギーになるものを入れて、水を入れて循環させても、生命は簡単には誕生しないですよね。きっと我々の知らない条件があるはずなんです。

例えば火星とエンセラダスを比べると、エンセラダスには海はありますが、陸も大気もありません。熱水があるだけで、太陽の光も入らない。一方、火星には地表に水があるので太陽の光が降り注ぎます。大気も陸地もある。でも深い海はない。ところが、地球には全部あるんです。深い海もあれば、陸もあれば、大気もある。

もし仮に火星には生命がいて、エンセラダスに生命がいないと分かると、生命の誕生にはひょっとしたら陸地や太陽の光、大気という存在が必要かもしれないと分かるかもしれません。逆に、エンセラダスに生命がいて、火星にいないとなると、エネルギーが常に与えられる熱水環境が地球でも生命誕生の場だったのかもしれないとなります。つまり、生命誕生に何が必要か、浮き彫りになるはずです。

―なぜ我々はここまで地球外生命に心ひかれるのでしょう?

究極的には「自分が何者か?」という問いの答えが欲しいのだと思います。自分と相手を比べると、何が自分らしいことなのかはっきりしてくるじゃないですか。外国に旅行に行くのにも似てるのかもしれません。日本がどういう国で、日本人はどういう人たちかを知るのに一番いいのは、やっぱり外国に出かけることだと思います。地球外の生命を知ることで、人間が何なんだろうということに答えが欲しいのかなという気がしています。

そして、異郷とか異物に触れることは、我々の頭の中の想像する領域を広げてくれるからじゃないですかね。人類が大昔にアフリカを出て、この世界に広がってきたのは、違う場所を見て、違う場所に行ってそこに適応して生きるっていう生き方をしてきたからで。だから人類は、未知なる宇宙の生命ってことに興味を持つんじゃないかなという気がします。そう考えると、我々人類が歩んできた道のりが、我々の認識する世界をどんどん広げていくことで生きてきたっていうことにつながる気もしますね。

―今後の ZERO にメッセージをお願いします。

次の世代に夢を持って生きてもらうことがすごく大事だと思っているので、そういうものを伝えてもらいたいというのが「サイエンス ZERO」に対する気持ちです。ともすれば日本はだんだん右肩下がりになってきて、人口だけじゃなくて経済も縮小してとか、暗い話題が多い中、小学校から高校生にかけて夢を持てるような、未来が明るいと思えるように育ってほしいと強く思います。

サイエンスをいくらやっても、世の中はあんまり変わらないですよね。すごく長い目で見れば変わるのかもしれないですけど。サイエンスというものが、世の中の役に立つとすれば、夢を与えたり、活力を与えたりっていうことができることかなと。サイエンスが持ってる根本的な人間の好奇心とか、未知なものとか夢に対して、人間がいかに立ち向かうかっていうそういう姿勢は、それが伝わることで社会が何かしら影響を受けることはあると思うんですよね。サイエンスがあることによる好奇心とか夢とか人間の能力の可能性みたいなものが伝わるといいなと思います。  

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